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I want you to want me

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 舌が差し入れられ、林冲の唾液が流し込まれる。自分の唾液と混じりあう音が聞こえる。舌で口内を愛撫されると、徐々に胸から温かいものが、体に拡がっていく。それは、公孫勝の普段は冷たい指先まで温めていく。その指に、林冲の太い指が絡まってきた。触れるだけで、肌に軽く痺れが走るほど、感覚は敏感になっている。
 やがて、全身に行き渡った温もりは、下腹部へと集中していく。
 林冲の大きな手が、公孫勝の脇腹から腰をなぞり、尻へと流れていく。分厚い掌の熱が、衣服の上からでも伝わってくるような気がした。
 そのまま、この熱に溺れてしまえば、どんなに楽だろう。
 近づく恍惚に身を委ねたくなるのを抑え込み、林冲の手を腰から引き剥がした。逞しく鍛えられた胸板を押し返すと、官能的な唇の感触も離れていく。
 聚義庁前の広場から聞こえる、人々の行きかう音が聞こえてきた。
 それで初めて、この物音すら耳に入っていなかったことに気づいた。
 聚義庁のどこかの部屋の扉が開き、人の話し声が聞こえてきた。林冲はさっと公孫勝から離れ、柱の陰から出た。
 話し声の主たちは、二人のいる廊下には近づいてこないようだった。
 ふう、と息をつく林冲の横をすり抜け、公孫勝は出口へ向かった。
「公孫勝」
 去ろうとする公孫勝の腕を掴み、林冲は呼びとめた。
「俺は、お前ほど臆病ではないぞ」
 公孫勝は、冷たく睨みつけた。
「臆病だと?」
「俺は、忘れるつもりも、なかったことにするつもりもない」
 林冲は、口の端を上げてにやりと笑った。
 心を、見透かされている。
 羞恥と恐怖が入り混じったような感情が襲ってきた。
「だから、出たくもない会議に出てきたのだからな」
 そう言うと公孫勝の腕を離し、さっと背中を向け出口へと去って行った。
 公孫勝はその背中が見えなくなるまで、無言でじっと見つめた。何かを問いたかったが、言葉は出てこなかった。
一人になった廊下で、公孫勝は深く溜息をついた。
「面倒だな」
 林冲の態度も、自分の感情も。
 すべてをそぎ落として生きてきたこの身に、今更邪魔な感情だった。分かっているが、だからと言って切り捨てることができない。
 面倒だが、この感情で自分が人であることが確かめられたという気はする。
 私にも、こんなものが残されていたとはな。馬鹿馬鹿しい。
 自分に向けた嘲笑を浮かべて、公孫勝は静かに聚義庁を出て行った。

end
作品名:I want you to want me 作家名:いせ