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The future that is happiness

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「好き………大好き………!私、土浦くんが好き………っ!」

話し合う、とか。そんな回りくどいことをする余裕など、なかった。
ただ、今のこの強い想いを伝えずにはいられなかった。

「ああ…俺も。俺も、香穂子が好きだ………」

土浦もそう呟いて、香穂子の髪に顔を埋めた。







まだ誰も帰っていないからと、香穂子は家にあがらされた。
涙が止まり、ある程度呼吸が整ってから―――香穂子の第一声は、「ごめんなさい」だった。

「土浦くんと別れたいなんて、これっぽっちも思ってないの。むしろ、土浦くんが好きで…大好きで、離れたくなんかない」

「…それ、マジなのか?」

「嘘なわけないよ。…土浦くんに、私への気持ちがまだあるかどうかはわからないけど…私は…」

「俺だって…別れたくなんかない。お前がもう俺のことが大嫌いだ、他に好きな男ができたって言おうとも…俺は諦めきれなかったと思う。ただ…」

土浦は悔しそうに顔を歪めた。

「俺のせいでお前が傷ついて、ボロボロにしちまうんなら…別れた方がいいとも思ったんだ」

香穂子は首を横に振った。

「けど…さ。お前がそう、俺のこと好きだって言ってくれるなら…。やり直しても、いいのか…?」

「私、絶対に土浦くんから離れたくない。後悔したくない、今の気持ちに素直に従いたいの」

「………後悔?」

「実は………」



香穂子は、リリに見せられたひとつの未来の話を、土浦に聞かせた。

「……………!」

「ほんのちょっとの我慢や思いやりでわかりあえることがこんなに大事だって…私、わからなかったの。土浦くんに甘えて、勝手なことばっかり言ってた」

「それは俺にも言えることだ。今はこんなにちゃんと話し合えてるんだから、できないことなんてないのにな…。俺、お前に手をあげそうになったことが、一番ムカついたんだ。自分に」

土浦はあの時のように右手を左手で掴みながら、続けた。

「お前のことがどんなに好きなのか、どうやっても伝わらない…伝えられない気がして。それがだんだん苛立ちに変わって、気がついたら手が出そうになってた。…最低だよな。今はこんなに穏やかで、お前に精一杯優しくしてやりたい気持ちでいっぱいなのに…」

その言葉だけで充分だと、香穂子は思った。
怒ると一気に頭に血が上ってしまう性格なのは、香穂子だって知っていることだ。

「お前が俺にこれからをくれるなら、もし同じことをしでかそうとしたら、先に俺のことひっぱたいてくれよ。…多分、目が覚める」

「そこまで怒らせる前に、私が怒らせることをしないようにする。…私だって自分が許せないことやわからないことをたくさん持ってるけど…好きって気持ちがあるなら、全部直していける気がするんだ」

「………。香穂子…」

「私、土浦くんに怒鳴られるたびに怖いって思ってた…。そうやって優しく名前を呼んでくれる土浦くんの方が、いいな」

「わ、悪かった。マジで、あれはクセで…。そうだよな、女からしたら怖いよな。気をつける」

焦る土浦に、香穂子はくすくすと笑った。
そんな香穂子がたまらなく可愛くて、愛しくて。土浦は香穂子の体を引き寄せた。

「これからは、お前のこと…もっと大事にするよ。香穂子…」

「私も。土浦くん…大好き」

ふと、近くに置かれた指揮の専門書が目に入り、香穂子は言った。

「また、二人で同じ夢を追い掛けられるんだね…」

「ん?…ああ。そうだな」

土浦も香穂子の目線の先に気付いて微笑む。

「しかし………」

途端、土浦の表情がとてつもなく暗くなった。

「お前、よりによってとんでもなく最悪な未来を見たよな…」

「………。うん。ホント…死にたくなったよ。死んじゃったし…」

「笑えねぇよ…」

今に安心しきった香穂子はにこにこしているが、そんな最悪な未来を経験したら、香穂子以上に凹みそうだ、と土浦は恐怖に身が震えた。

「お前が見た未来が現実にならなかったとしても、どんな未来でも…。お前と別れた時点で、俺の未来は幸せじゃないんだろうな」

「そう言ってくれて嬉しい…!すごく!」

「でも、俺たちにヨリ戻すきっかけをくれたんだ。その点だけは、感謝しないとな」

「うん。…土浦くんが私以外の女の人と幸せになって、家族を作るのって…。あんなに絶望すると思わなかった。土浦くんにどれだけぞっこんか、自分でもわからなかったんだね」

「ああ、そのことだが…。お前と仲直りできた後は、キャストが変わってるんじゃないかと思うんだが」

「…キャスト?」

「だからさ。二人でコンサート成功させて、俺に花束を持って駆け寄ってくるのは………俺とお前の子供なんじゃないかってこと」

「……………!」

「その可能性が一番高いだろ?」

土浦は香穂子の顔を覗き込んで笑った。

「そうだと…いいけど」

「絶対そうだ」

土浦はもう一度香穂子を強く抱きしめると、短いキスを落とす。

「そのためにはまず…。必死こいて勉強しなきゃな。指揮のことも、お前のことも」

「わ、私?………わっ」

抱き上げられて、部屋に行くぞ、と耳元で囁かれた。

赤くなりつつ、香穂子は思い出したように言った。

「リリに、報告しなきゃ。ちゃんと、幸せな未来を掴む第一歩が踏み出せましたよ、って」

「…そうだな。リリのおかげ、ってのも否めないしな。じゃあ、明日にでも二人で行くか?」

「うん!」

土浦の腕の中、香穂子はいつか訪れる幸せな未来に、想いを馳せた。

END
作品名:The future that is happiness 作家名:ミコト