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ぐらにる 眠り姫3

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 そして、予想通り、彼らは、眠り姫を置いて逃げた。そこで、何があったかは、わからないが、たぶん、眠り姫のことだ。自分の爆薬について説明して、逃がしたに違いない。
 ボタンを押すつもりはなかった。そんなところで、マイスターたちに無駄死にされては、こちらも退屈だ。薄暗い部屋は、静まり返っていて、ドアの近くで、眠り姫はいつものように眠っていた。だが、首を絞めても反応しないので、慌てて、基地へヘリで搬送した。
 心停止していたから、応急処置をして心臓を動かした。それから、二度、心停止したが、どうにか生命は取り留めさせた。

 事件は、ソレスタルビーイングの名前を出さないで、単なる拉致として片付けさせた。わざわざ、壊滅したと思われている組織が活きていることを、世界に報せる必要はない。おそらく、また、現れるだろう彼らを、密かに期待しているほうが楽しいからだ。


 よく今まで生きていられましたね、と、基地のドクターが呆れるほどの検査結果が出た。容態が落ち着いたから、今まで放置されていた検査もやった。カルテすらなかった眠り姫は、実のところ、かなり重度の心疾患があることが判明したからだ。
「つまり、ドクター。眠り姫は、いつでもどこでも眠っているのではないと? 」
「ええ、おそらくは、動くことで心臓に負担がかかって昏睡していた、というのが、正しい表現でしょうね。」
 それまでマイスターとして戦っていたことを考えれば、それは、連合に収容されてから、発症したものだと思われた。何が行われたかは定かではないが、それほどのことが為されたのだ。体力さえ回復させられれば、それは治せる代物だとも判ったから、私は慌てないことにした。

 三週間、意識が戻らなかった眠り姫は、どうにか目を覚ました。それから、一ヶ月近くは、病室で看護されて、私の許へ戻ってきた。


「死んだ気分は、どうだった? 」
「さあ。」
 だが、壊れていることに違いはない。戻ってから、しばらくは、会話が成立しなかった。ただ、首筋に力を入れると、微かに笑っていた。
「きみは、やはりおもしろいよ、眠り姫。」
「へー。」
 生きている実感が、それだということは、壊れていてもわかるらしい。



 数日して、ようやく、まともな会話ができた。
「なぜ、爆破しなかった? 」
「する必要はなかったからだ。きみは、彼らを逃すだろうと思っていた。きみだけを爆破しても意味はない。それに、私の癒しだと言ったはずだ。」
「なぜ? 」
「眠り姫、きみは、とても優しいんだよ、気付いているか? 今のきみには、人をわざと巻き込むようなことはできるわけがない。・・・・だから、そうした。」
「そんなのあんたの主観だろ。」
「そうでもない。・・・それなら、私からも質問しよう。なぜ、心疾患のことを黙っていた? 」
「知らない。ただ、動くと眠りたくなるんだと思っていたんだ。それこそ、言ったはずだ。痛覚がないんだと。」
 声を荒げた眠り姫は、ふらりと揺れた。それを支えるように抱き締める。
「興奮するな、眠り姫。」
「・・・うるさい・・・・」
 だが、逃げないで、そのままじっとしている。痛みを感じないというのは、ある意味、厄介だ。本来なら、胸を掻き毟るだろう痛みが、眠り姫にはないのだ。
 落ち着くのを待って、口を開いた。
「思い出さなかったのか? 」
 共に活動していた仲間と対面して、それで、何か気付くことはあったのかと思った。その言葉に、眠り姫は何も返事しないで、私の腕を強めに掴んだ。
「帰りたいか? 」
「・・・どこにもないんだ・・・・」
 ぽつりと漏らされた言葉に、たくさんの意味が含まれていた。記憶がないだけではない。敵も味方も、眠り姫にはない。どちらも知らないし、どちらとも係わりがある。どちらにいても、対するほうのことも気になるだろう。

なら、ここにいればいい。

「ここでいいじゃないか。」
「・・・できれば、終わりにしてほしい・・・」
「生憎、それだけは叶えられないよ。そんなことをしたら、私が悲しい。」
「・・・そうか・・・」
「憎むことと愛することは同一だと、私は考えている。だから、あの青いガンダムを憎んでいるし愛しいとも思っている。・・・でも、きみは違う。憎みたくないんだ。ただ、愛しいと思う。だから、私は癒されるんだろう。どうか、きみだけは、そのままでいてくれ。」
 今までは表裏一体だと思っていた。だが、憎悪を向けたくないと思ったのが、最初だ。何も憎むべき言動も行動もしない眠り姫は、ただ愛しいとだけ思った。たまに、まともに会話できて、たまに、不思議なことを話す。生きているのか死んでいるのかも、あやふやで、それなのに、私を思い遣る。

「やっぱり、あんたは不思議だ。」
「きみぐらいだがな、不思議と表現するのは。」
「無理にでも抱かせておけばよかった。」
「だから、私は同性を、そういう対象にしたことはないと言ったぞ? どうせ半分死んでいるんだろ? 眠り姫。それで満足してくれないか?」
「できない相談だ。」
「そうか、でも、それは諦めてくれ。」

 少し咳き込んで、それから、眠り姫の身体から力が抜けた。また、眠ったらしい。もう聞いていないから、真実を少し吐き出した。

「そう遠くない将来で、もう一度、彼らは台頭する。そうなったら、今度は私が死ぬのかもしれない。それまででいいんだ。きみが、ここにいてくれるのは、その間だけだ。・・・私が死んだら、きみも解放される。それからなら好きにしていい。」

 手放すことになるだろう。戦場にいるというのは、そういうことだ。眠り姫は、奇跡的に生きているが、本当は死んでいるはずの人間だ。
 無事に生き残る確率は低い。相手だって、同じ条件だ。どちらもが滅んだとしたら、眠り姫は、それらから解放される。だが、生きていられるかどうかは、わからない。

「きみは、ガンダムに、きみみたいな人間が搭乗していると言った。だが、それは間違いだ。きみのような人間は・・・・きみのように死んでしまうんだ。それに、私も、彼らも、自分が死なないために相手を葬ることを考える。それが戦場で生き延びる手段でもあるからね。」


 搭乗していた時の眠り姫は、そんなことを考えなかっただろう。相手を叩き伏せることで生き延びていたばすだ。それすら忘れて、生来の優しさが現れてしまった眠り姫は、マイスターではない。ただの普通の人間に戻っているからだ。半分死んだ部分が、それなのかもしれない。
 

「きみが眠っている間に、世界が平和になれば、きみは心から笑うんだろうか。・・・・どう思う? 」


 答えはない。そして、答えを期待しない。
 なぜなら、眠り姫は、眠っている。
 すべての過去をなくして。
 おそらくは、未来さえも願わずに。
 ただ、私の傍らで存在していればいい。
 何が正しいか正しくないかではない。
 どちらにも、正義はある。
 それすらもわからない眠り姫だから、私は癒される。
 時間が許す限りでいい。
 優しい空気で満たして欲しい。
 
 

作品名:ぐらにる 眠り姫3 作家名:篠義