こらぼでほすと 留守番1
純粋培養テロリストの面々は世俗に疎い。だから、あっちこっち案内するのは楽しいだろう、
と、アスランも引き受ける。
「あのな、ママ。ひとつだけ頼みたいことがある。」
三蔵が唐突に切り出したので、一同が沈黙する。寺のことで重要な頼みごとでもあるのか、と
、思ったからだ。
「なんでしょう?」
「おまえ、うちにいる間に、和食を作れるようになっといてくれ。俺は、どうも洋食は好かねぇ
ーんだよ。酒の肴とかメシのネタ、そこのイノブタから教わっておけ。」
「「はあ?」」
八戒と悟浄が、同時に呆れたという声を出す。
「和食? はあ、まあ、努力はしておきますけど・・・・かなり長いことなんですか?」
「ていうか、三蔵。何とんでもないこと命令してるんですか? この人、根っからの西洋人なん
ですよ? 和食なんて食べなれてもいないものをっっ。」
「三蔵、あんた、ママニャンを嫁にでも貰うつもりかよ?」
真面目にロックオンは返事したが、後から追い被さるように非難の声が連続攻撃だ。しかし、
三蔵のほうも慣れたものだ。攻撃なんてスルーする。
「日数は十日ぐらいだと思うんだが、戻ってみねぇーとわからねぇ。俺のカードをおまえに預け
ておくから、それで買い物はしてくれ。」
ほらよ、と、懐からカードを取り出して無造作に、ロックオンに投げる。はいはい、と、ロッ
クオンも、それを受け取った。
「じゃあ、今夜は和食のほうがいいんですか?」
「いや、初手からは無理だろう。なんでもいいぜ。」
なんなら、イノブタに作らせろ、と、三蔵は立ち上がる。これから準備するらしい。
「明日は何時に?」
「あーサルと一緒に出る。」
うーんと伸びをして、部屋からスタスタと消えてしまった。マイペースにも程があるという態
度だが、ロックオンのほうも慣れたものだ。マイペースさ加減ならマイスターたちで慣れている
ので、動揺することもない。
「八戒さん、和食のレシピって頼めますか?」
渡されたカードを卓袱台に置いて、親猫のほうは、すでに夕食についての段取りを考えている
らしい。
「それはいいですけど、無理に和食なんて作らなくてもいいですよ、ロックオン。」
「ロックオンさん、俺、どっちでもいいぜ。さんぞーがいねぇーんだから、わざわざ作らなくて
もいい。それから、朝も俺がやるからさ。」
「いや、この際だから、作れるようになるさ。それから、メシのほうは俺がやるよ、悟空。しば
らく慣れない味付けになっちまうかもしれないが我慢してくれ。・・・・あ、このカード、おま
えに預けとくわ。買い物は、案内してもらわなきゃいけねぇーからな。」
貴重品なので、家の人間が管理するほうがいい、と、それを悟空に押し付ける。
「うん、わかった。でも、無理しなくていいからさ。」
「無理じゃねぇーよ。本堂のほうの管理はしてくれよ? 俺、仏教なんてよくわかんないからさ
。掃除は言ってくれれば、できることだけはやる。」
「お勤めは俺がする。掃除は適当でいいんだ。土日にでも俺がやるからさ。それはほっておいて
。」
とりあえず、簡単な打ち合わせだけすると、悟空も奥へと引き込んだ。準備の手伝いに出向い
たらしい。
「ママニャン、あんま無理すんなよ? 」
悟浄も、ちょっと真面目な声で注意する。
「無理はしませんよ。たぶん、昼寝しながら、ぼちぼちとしか動けませんからね。」
「僕らも顔を出しますから、食事も適当に手を抜いてくださいね、ロックオン。和食も作らなく
ても・・・・」
「いや、刹那たちにも食わせてやりたいんで。そっちのレシピはお願いします。」
所詮、親猫は親猫だ。子猫たちに新しい料理を食べさせてやろうと思ったらしい。普段から家
事はやっているから、子猫たちにサルが一匹増えたところで困ることもない。まあ、さらに、天
然電波とその保護者が加わることも予測済みだ。
「アスラン、今日、こっちで食ってから出勤すんだろ?」
「ええ、そうなるでしょうね。」
「じゃあ、冷蔵庫確認してメニュー考えるか? 」
「そうですね。八戒さんたちは、どうします? 」
八戒たちは出勤時間が微妙に違うので、アスランは尋ねた。時間からすれば、そろそろ、八戒
たちは出掛ける準備をしなければならない。『吉祥富貴』は、トダカが、まず店を開ける。それ
から経理担当の八戒が、出勤し、最後に店を閉めるアスランとキラが出勤する。他のスタッフは
、八戒とアスランの間に出勤するようになっている。だから、二組の間には二時間くらいの差が
ある。
「申し訳ないですが、僕らは食事の時間はありませんね。ロックオン、レシピは明日にでも届け
ます。悟浄、行きましょうか?」
「はいよ。」
ふたりは玄関へ向かわない。奥へと足を向けた。あんまりなんで、とりあえず、留守番してく
れるマイスター組に礼ぐらい言え、と、注意するためだ。
「ああ? 気晴らしに呼んでやったんじゃねぇーか。何が礼だ?」
で、腐れ鬼畜の高僧様の返事がこれだ。
「ですけど、三蔵。留守番してもらうんですよ? そういう場合は、『お願いします。』のひと
つもあってしかるべきではないですか?」
「言ったぞ? 『頼む』とな。・・・・だいたい、おまえら、全員、勘違いしてるぞ。」
「何が勘違いだよ、腐れ坊主。はっきり言えよ。」
荷物を作る手を止めさせて、悟浄がツッコミがてらにタバコに火をつける。
「あのな、あいつ、ひとりしないほうがいいんだ。けど、ちびどもは、また近々、宇宙へ上がる
んだろ? ・・・・・そういうことだ。サル、せいぜい、あのママに世話させろ。おまえも手が
かかるって思わせておけばいい。」
「ああ、うん。俺、ちょっと刹那が羨ましかったんだよな。」
「つまり、刹那君たちが仕事で離れた場合の予行演習ということですか? 」
親猫が体調を崩したので、慌てて戻ってきたが、実際は、あちらの組織の建て直し段階で、人
手が必要な時期だ。すぐではなくても、いずれ、親猫以外は、組織のほうへ戻らなければならな
い。そうなった場合に、親猫を一人にしないためには、留守番なんて用事を与えるのも有効とい
うことだ。『吉祥富貴』の仕事だけだと、先日のようなことになるのだから、どこかの家に居る
ほうが安全だ、というのが三蔵の意見であるらしい。
「碌なことしないんだから、これぐらいの用事させるほうが、精神衛生上もいいだろうよ。」
「ほおう、腐れ坊主も、ママニャンには優しいじゃねぇーか。」
「じじいーずどもが、せっかく甘え方を教えたんだ。それ、活用させりゃいい。」
「まあ、応用編といったとこか。」
「そんなとこだ。適当に様子は見てやってくれ。」
先日、『吉祥富貴』の年上組たちが、親猫に甘え方を教授した。なんでも、一人で抱え込む必
要はない、ということをわからせたので、同年代組まで、その範囲を広げさせようという意図が
あったらしい。
「わかりました。悟空も、あなたが留守の間は店のほうへは出さないようにします。それでよろ
しいですか?」
元々、悟空の仕事というのは、三蔵が飲みすぎて誰彼構わず口説くのを防いでいるということ
作品名:こらぼでほすと 留守番1 作家名:篠義