【現パロ】清涼剤
「伊達」
「ん?」
「…あちぃ…」
俺にいちいち言うな。俺が暑くしているわけではない。元々この部屋に冷房を利かせてなかった、チカちゃんのせいだろうが。
「知るかよ。夏なんだから暑くて当たり前」
「そうじゃねぇよ」
チカちゃんは俺を抱き寄せると、唇を重ねて来た。
…暑いんじゃねぇのかよ!
チカちゃんはあっさりと舌を差し入れてきて、俺の舌を絡めとる。
「…っ、こらっ!」
俺はチカちゃんの体を押し退けた。
「せっかく伊達に冷ましてもらおうと思ったのに」
「…そりゃ、無理な話だな」
チカちゃんの火照った思いを静めることなど、俺に出来るわけがない。
俺の方が熱くなるに決まってんだろうが。
「…残念…」
「もっとドロドロになるってんなら、良かったんだがよ」
「伊達!」
チカちゃんの右目がきらん、と光った気がした。
「それはまた後でな」
俺を再度抱き寄せようとしていたチカちゃんの手をピシャッとはたいて、ソファーから立ち上がる。
「出かけるぞ」
「どこへ?」
「百貨店」
「何で俺が行く必要が?」
チカちゃんは、よっ、と軽く掛け声を掛けて、ソファーから飛び起きる。
「チカちゃんは必要。ま、デートってことでいいじゃねぇか」
「まあ、いいけどよ。10分待って」
「あのなぁ、伊達さんよぉ。俺、てめぇの感覚がわかんねぇ」
「普通だろ?」
チカちゃんは大きく息を吐き出した。
「あのなあ、スイカをわざわざ百貨店に買いに行くことのどこが普通なんだよ。しかも、お届けものとかじゃなく、自分で食うんだろ?」
「帰ったらすぐに冷やさないとな」
チカちゃんはスイカを一玉ぶら下げている。
百貨店の地下で美味しそうなものを仕入れてきた。
ついでに食材を色々買ってきたが、チカちゃんは何かにつけて驚いていた。
「てめぇ、絶対贅沢に育ってんな。金銭感覚の違いに驚いたぜ」
「…そうか…?」
「そう。何かショックだ…」
チカちゃんは自宅の入り口の前で、スイカを俺に渡してきた。
「俺の冷蔵庫はこの食材で一杯になる予定。だからスイカはチカちゃんの冷蔵庫によろしく」
「…マジかよ…」
「その方がチカちゃんちに遊びに行きやすいしな」
「スイカに関係なく、てめぇは入り浸ってるじゃねぇかよ」
「もちろん、お礼はするぜ」
「お礼?」
俺はチカちゃんの首に腕を回して、軽く口づけた。
「前金」
「…しゃあねぇな。忘れんなよ」
「夕飯作りにそっち行くから」
「あー、勝手に入ってこい。俺、仕事してるから」
「じゃ、後でな」
「おうよ」
チカちゃんはスイカを大事そうに抱えながら、部屋の中に消えた。
スイカはこの「アツサ」を静める為に買ってみたんだが、どうやら、役に立ちそうにはないな。
俺は苦笑してから、自宅の部屋へと一度入った。
<終>