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A cat may look at a king

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A cat may look at a king ==こっちにも意地ってものがある!==



今日は朝からどこもかしこも、おかしな風だった。
─────あぁ、いや、受付のヤツ等がオカシイのは何時もの事か、
表面上は平素と何ら変わるところは見出せないが、強いて言うならば空気、が。何やらそわそわと浮ついているような。
政宗は擦れ違う女性社員が愛想よく挨拶してくるのにそつのない微笑で返しながら、職場へと向かった。


それに気付いたのは、朝一番で召集されたミーティングが漸く終わろうかという頃だった。
この後の行動予定を確認しておこうと開いた、愛用の黒い革のカバーに覆われたシステム手帳。細かに書き込まれた約束の数々の更に下、やや控え目なグレーの文字が目に止まった。彼が書き込んだのではなくもとから印字されていた文字。
─────なるほど、それで……
政宗は得心すると共に、人知れず溜息をこぼした。
ややして、この日の進行役を担っていた小十郎の「では本日のミーティングはこれで、」との声が聞こえ、政宗は手帳を閉じた。しかし出席者が三々五々退室していく中、政宗はミーティングルームを出ようともせず深く腰掛けたままで。ひとつきりの切れ長の眼を、資料を纏めて立ち上がろうとする腹心の部下へと向ける。その視線に気付いた小十郎は、僅かに双眸を細めた。
「……如何致しましたか?」
上司の意を汲み取って、小十郎が声音を落として問うてくるのに、政宗は満足気に口の端を持ち上げて見せ、
「俺のデスクから鞄取ってこい。ノーパソも忘れンじゃねーぞ」
と命じる。小十郎は慣れた様子で黙したまま小さく礼をすると、ミーティングルームを出た。その背に、「コートもだ」と付け加える。聞こえたかどうか定かではなかったが、しかし小十郎の事、思惑を理解しているならば必ず持ってくるだろう。そう確信し、政宗は行儀悪く机に足を乗せ、だらしなく体を滑らせて背凭れに頭を預けると、瞼を閉じた。
自身より年嵩の部下が、仕立ての良い黒のコートとよく使い込まれたヌメ革の鞄を手に戻ってくるのに、そう長くはかからなかった。



終日外回りに徹した政宗は、やや酩酊した足取りでマンションへと戻った。
1つだけ飛び出したキーを握り、キーケースをくるくるとリズミカルに回しながら、社員寮と言うには贅沢な作りのエントランスに入る。と、
「お、チ〜カ!」
大荷物を手にした長身に気付き、機嫌良く声をかけた。
「That’s unusual!(めずらしいねぇ)日付の変わる前にアンタと会えるなんて、な」
どすん、と体当たりよろしく肩をぶつけてやると、高い位置から睨むような視線が寄越された。
「伊達、テメェ…酔ってやがんのか?」
いいご身分だな、と眉根を寄せてポケットや鞄をかき回して言う元親に、
「Ah〜n?これくらい、酔ったうちに入ンねーよ」
と、政宗は手にしていたキーを目の前にあった差込口にいれ、クイッと回した。途端、軽妙な音をたてて傍らのガラスの扉が左右に開く。
「……チッ」
元親は小さく舌打ちすると、先を行く政宗を追うように扉をくぐった。その背後で再び軽い機械音を伴って、ガラス扉が寒風の進入を阻んだ。
エレベータホールで、赤く点灯する数字を首を仰け反らせ見上げている政宗に、元親は手にしていた紙袋のうちのひとつを差し出した。
「取れよ、」
威圧的な物言いだったが、政宗には全く通じていない。
黙したまま元親を見遣り、次いで差し出されたモノにひとつきりの眸を向ける。
ポン、と場違いに明るい電子音が響き、鋼の扉がスライドすると、政宗は矢張り無言のまま足を進めた。
「おい!テメッ、シカトすんじゃねーよ!」
そのまま「閉」ボタンを平気で押しそうな政宗の様子に、元親は慌ててエレベータに乗り込んだ。既に目的階は選択されていて、あと数瞬遅ければ本当に置き去りにされかねない状態だったらしい。
元親はあからさまに嘆息すると、
「あのなぁ、オマエ……片倉に言っとけ。俺はテメェの荷物持ちじゃねーんだ、ってな」
言って、再び紙袋を政宗の前に押し付けた。
「I don’t get you.(言ってる事が分からん)」
しかし今度は一瞥だにせず、政宗はあらぬ方向に視線を流す始末で。
「はァ?日本語で言え、日本語で!って言うか、何時まで俺様にっ」
言い掛けたところに、またしてもポン♪と目的階に到着した旨を伝える音が邪魔をする。
「テメェ分かっててシカトしてんだろ!?」
自身よりやや小柄な背を睨み付けて怒鳴る元親に、政宗の足が止まった。くるり、とステッチの入ったコートの裾を翻し振り返ると、
「Be quiet、ご近所迷惑だ」
と口元に人差し指を宛がう動作をして見せる。
確かに社員寮とは言え随分な時間だし、政宗の言い分は至極当然である。が、その世間では当然とか常識とかいう言葉を誰あろう政宗に言われた事に、元親は理不尽な怒りを覚えずにはいられなかった。
「あのなぁ、元はと言えばテメェが………おい、待て」
エントランスからこっち、何度言い掛けた言葉を飲み込んだか。足にぶつかる紙袋がガサガサと神経を逆立てる音を立てるのも無視して、元親は歩を早めた。何故なら、前を歩いていた2つ違いの生意気な同期が、事もあろうに「長曾我部」の表札のあがったドアに手をかけたのだから。
「テメェの部屋は隣だ、酔ってんのかっ?!」
自身もそうだが、このマイペースな同期も滅法酒に強い。先程からちゃんと自身の足で歩いていたので気にしなかったが、しかし元親の思っているよりも彼は酔いがまわっているのだろうか、そう思った矢先、

ガチャ

聞き慣れた音がして、あっけなく施錠が解かれた。
「………おい、政宗っ」
思わず名を呼ぶ。
「Was something wrong?(どした?)」
どうしたもこうしたも、彼が開錠したのは彼のではなく元親の部屋で、しかし手にしているキーケースは紛れもなく政宗の所持品。だが今朝出勤の折には元親自身で施錠して、以来鍵を手放した覚えも政宗に預けた覚えも、ない。
「早く入れよ、寒ぃだろうが」
部屋の主ではない男が平然と形の良い上等そうな靴を脱ぎ、上がり込んでいく。
元親は、脱力しながら漸くの帰宅を果たした。
「伊達、オマエなぁ…」
入って直ぐのところにある寝室に鞄を放り込み、紙袋だけを持ってダイニングキッチンまで行く。キッチンではコートと上着を脱いだ政宗が冷蔵庫に頭を突っ込んでいるところだった。
元親は、政宗のブリーフケースに並べるように紙袋をひとつ立て掛け、もうひとつをキッチンへと持って入る。
勝手にミネラルウォーターを開けている政宗を横目に、元親は紙袋から幾つものカラフルな包みを冷蔵庫に放り込み始めた。
「テメェの預かってきたから、ちゃんと持って帰れよ」
言うも、相変わらず返事はない。
「聞いてんのか、伊達?」
屈めていた背を戻し、傍らにいるであろう政宗を見遣る。と、
「………ンだよ?」
ペットボトルを口に押し当てたまま上目遣いに見上げてくる政宗に、元親はコチラもひとつきりの眸を眇めてみせた。
物言わず、差し出された政宗の手。見上げてくる酔いをふくんだ眼差し。
作品名:A cat may look at a king 作家名:久我直樹