A cat may look at a king
整わない呼吸に上下する胸に、元親は無遠慮に掌を這わせた。手触りのいいシャツは、まだ暖房も行き渡らない2月の夜とは思えない程に熱気を含み、しっとりと湿っていた。政宗の上気した頬や鼻梁、瞼と口付けながら、器用に彼のネクタイを取り払い、次いでシャツの釦を解いていく。
耳朶を軽く口に含み、舌先で輪郭をなぞるってやると、途端、政宗の身体がビクリと跳ねる。汗ばんだ首筋をたどって下り、肌蹴させた襟元から覗く鎖骨に唇を寄せる。
邪魔なシャツを除ければ、普段あまり外気に晒される事のない肌が露になる。仄かに赤味の差す、白い肌。思わず元親の喉が上下した。
元親はやおら折っていた腰を伸ばし、政宗を見下ろした。
「Is it already the end?(もう仕舞いかよ?)」
嘲笑するように口の端を持ち上げた政宗が、荒い呼吸で強がる。
拘束していた手を外してやれば、政宗は熱に潤んだ眸を細めて元親を見上げてきた。そして、誘うように両手を広げる。
億劫そうにネクタイを解き嘆息すると、元親は襟元を寛げた。
「勘弁しろや……ここンとこ残業続きでヘトヘトだ、っつ〜の」
言うも、テーブルに上体を横たえた政宗の顔の両側に手をついていて。
「so what?(だから?)」
するりと首にまわされる腕に引き寄せられるように、元親は身体を重ねた。
─────しまった、
元親は自省していた。
自身の思い通りになど決して動かない猫が気紛れに足元に擦り寄ってきては上目遣いに喉を鳴らすのを、適当にあしらう事など常の事だというのに。
軽く往なしたところで誰も責めはしないだろう(いや、ひとりだけ心当たりがないではないが)
なのに、時折こうして挑発にのってしまう。
己の体格を考えて購入したセミダブルのベッドヘッドに背を預け、当然のようにそこに潜り込んで微睡の淵を揺蕩う大きな猫を見下ろした。白い頬にかかる癖のある髪をそっと払い除けてやると、「ぅン」と唸りながら身動ぎする。
あと数時間後には、相変わらずの不遜な態度で己のペースを固持しつつ、元親の部屋であるにも関わらず我が物顔で闊歩するのは目に見えているのだが、しかし───
何時もより少し豪華な朝食にありつける事だし、それで勘弁してやるか、
元親は微苦笑すると、ずるずると身体を滑らせて布団へと潜り込んだ。
(そして、謂れの無い蹴りを気紛れ猫から食らうのだった)
** あとがき **
友達と企画した背景設定で書いたバレンタイン小咄です
受付の人達は、軍神とその剣という設定…
初出:2007.2.20
** 2011.2.12 **
作品名:A cat may look at a king 作家名:久我直樹