平和島兄弟
学校の休み時間、帝人達は次の授業がある実験室へと移動するため、廊下を歩いていた。
すると目の前に女子の人垣が出来ていて通るに通れない。
「すごいですね・・・羽島幽平」
ポツリと杏里から零された言葉に帝人は頷く。女子の中心にいたのは頭1つ分くらい高い羽島幽平。
整った顔立ちに、類い希なる役者の才を持ち合わせた、今売れっ子俳優なのだ。
その有名人が久々の登校というこうとで女子達が色めきだっている。
(邪魔だなぁ・・・ここ通らないと実験室いけなんだけど)
帝人がげんなりとしながら、どこか空いている隙間は無いのかと顔をキョロキョロさせていると、
羽島幽平が人垣をかき分けてこちらに向かってくるのが見えた。そして帝人の前に、あの有名人が。
「君が竜ヶ峰帝人君?」
「あ、はい・・・そうですけど・・・」
幽平は小首を傾げ、何か思案するように顎に手をあてた。帝人は眉を八の字にしながら、幽平を見上げる。
先程から女子の視線や囁きが地味にいたい。
(いったい何なのっ・・・!)
帝人が心の中で悲鳴を上げた頃、漸く幽平は口を開いた。そして帝人にとっては突拍子もないことを呟く。
「写真で見るよりずっとこっちの方が可愛いね。いつも兄貴がお世話になってます」
「え、お兄さん?え?」
帝人は一瞬、幽平が何を言っているのか分からなかった。しかもご丁寧に頭まで下げて。
幽平は頭を上げると、うん、と頷く。そして目元を和らげて優しく微笑んだ。
とたんに帝人の頬が紅く染まる。流石俳優をやっている人間だ。幽平は男なのに帝人は軽くときめいてしまった。
男の自分が男にときめくのは可笑しいと思いながら。そんな帝人の心の葛藤など幽平が知る由もない。
「今度さ、家においでよ。兄貴も会いたがってるし。ね?」
「え、あ、はい?」
「本当?良かった。じゃぁ今日の放課後一緒に帰ろう」
「はい?!」
今の帝人は幽平が行った言葉をきちんと理解できなかった。もし、出来ていたらきっともっとちゃんと答えられただろう。
「ん?来て、くれるんだよね?一緒の方が路に迷わなくて良いし、それとも別々がいいかな?俺と歩くと何かと煩いし」
先程幽平は今度と言わなかっただろうか。なぜ急に今日行くことになっている。
帝人は開いた口がふさがらない。ポカンとしながら幽平を見つめている。
「あ、そろそろチャイムが鳴るね。じゃぁ放課後、昇降口で」
幽平はそれだけ言うと、教室へと帰っていった。
もちろん幽平の後を追って女子の人垣が消えていくのはありがたかったのだが、今日の夕方をどうしようかと思う。
「竜ヶ峰君・・・」
帝人が頭の中でどうしようどうしようと呟いていると、控えめな杏里の声が聞こえ意識を浮上させる。
「あ、何?園原さん」
「そろそろ行かないと、私たち遅刻です・・・」
すると丁度よく次の授業の始まる鐘の音が学校中に響き渡る。
帝人と杏里はチャイムが鳴り響く中、廊下を駆けながら実験室へと急いだのだった。
放課後、律儀に幽平は待っていた。幽平は帝人と視線が合うと、それじゃあ行こうか、と告げるとそのまま歩き出す。
帝人は置いて行かれないように幽平の隣を着いていく。やはりというか、幽平のコンパスと帝人のコンパスでは幽平の方が長い。
それなのに先程から帝人は苦もなく幽平の横を歩いていられる。
(これって気を遣ってもらってるのかな・・・)
ちらりと見上げると、幽平と視線があった。彼の整った顔に心臓が意味もなく跳ねる。
「後もう少しだから」
「はい、」
幽平と帝人は自分から何かを話す人種ではなかったが、2人の間には重たい雰囲気は無かった。寧ろ帝人は居心地が良いな、と思う。
「ここ」
「ここですか・・・」
幽平が示した家は他の家と何ら変わらない。普通の家だった。俳優の家だからと言って、特別大きいとか豪華だとかではないらしい。
「ごめんね、がっかりした?俺が俳優をやっているだけで、両親は普通のサラリーマンだから」
帝人の考えが伝わったのか、幽平が言葉を添える。帝人はかぶりを振ると、幽を見上げた。
「いえ、僕の勝手な価値観を羽島先輩に押しつけていただけですから。僕こそ勝手に落胆してごめんなさい」
ぺこりと頭を下げて顔を上げてみると、どことなく驚いた顔をしている幽平の顔がそこにはあった。
帝人は心の中で驚きを隠せない。役者の仕事以外ではどこか感情の気迫がない幽平が驚いているのだから。
「帝人君は、優しい子だね」
そしてこれまた帝人が驚くほど、幽平は柔らかく笑うと帝人の頭に手を載せて一なでした。
「じゃぁ、入ろうか」
「っ、は、はい!」
幽平はまた無表情に戻っていて、ドキドキと心臓を慣らしている帝人は顔を赤く染めながら幽平が触った頭に自分の手を置いた。
(・・・恥ずかしいかった・・・)
「帝人君」
「今行きます!」
すると目の前に女子の人垣が出来ていて通るに通れない。
「すごいですね・・・羽島幽平」
ポツリと杏里から零された言葉に帝人は頷く。女子の中心にいたのは頭1つ分くらい高い羽島幽平。
整った顔立ちに、類い希なる役者の才を持ち合わせた、今売れっ子俳優なのだ。
その有名人が久々の登校というこうとで女子達が色めきだっている。
(邪魔だなぁ・・・ここ通らないと実験室いけなんだけど)
帝人がげんなりとしながら、どこか空いている隙間は無いのかと顔をキョロキョロさせていると、
羽島幽平が人垣をかき分けてこちらに向かってくるのが見えた。そして帝人の前に、あの有名人が。
「君が竜ヶ峰帝人君?」
「あ、はい・・・そうですけど・・・」
幽平は小首を傾げ、何か思案するように顎に手をあてた。帝人は眉を八の字にしながら、幽平を見上げる。
先程から女子の視線や囁きが地味にいたい。
(いったい何なのっ・・・!)
帝人が心の中で悲鳴を上げた頃、漸く幽平は口を開いた。そして帝人にとっては突拍子もないことを呟く。
「写真で見るよりずっとこっちの方が可愛いね。いつも兄貴がお世話になってます」
「え、お兄さん?え?」
帝人は一瞬、幽平が何を言っているのか分からなかった。しかもご丁寧に頭まで下げて。
幽平は頭を上げると、うん、と頷く。そして目元を和らげて優しく微笑んだ。
とたんに帝人の頬が紅く染まる。流石俳優をやっている人間だ。幽平は男なのに帝人は軽くときめいてしまった。
男の自分が男にときめくのは可笑しいと思いながら。そんな帝人の心の葛藤など幽平が知る由もない。
「今度さ、家においでよ。兄貴も会いたがってるし。ね?」
「え、あ、はい?」
「本当?良かった。じゃぁ今日の放課後一緒に帰ろう」
「はい?!」
今の帝人は幽平が行った言葉をきちんと理解できなかった。もし、出来ていたらきっともっとちゃんと答えられただろう。
「ん?来て、くれるんだよね?一緒の方が路に迷わなくて良いし、それとも別々がいいかな?俺と歩くと何かと煩いし」
先程幽平は今度と言わなかっただろうか。なぜ急に今日行くことになっている。
帝人は開いた口がふさがらない。ポカンとしながら幽平を見つめている。
「あ、そろそろチャイムが鳴るね。じゃぁ放課後、昇降口で」
幽平はそれだけ言うと、教室へと帰っていった。
もちろん幽平の後を追って女子の人垣が消えていくのはありがたかったのだが、今日の夕方をどうしようかと思う。
「竜ヶ峰君・・・」
帝人が頭の中でどうしようどうしようと呟いていると、控えめな杏里の声が聞こえ意識を浮上させる。
「あ、何?園原さん」
「そろそろ行かないと、私たち遅刻です・・・」
すると丁度よく次の授業の始まる鐘の音が学校中に響き渡る。
帝人と杏里はチャイムが鳴り響く中、廊下を駆けながら実験室へと急いだのだった。
放課後、律儀に幽平は待っていた。幽平は帝人と視線が合うと、それじゃあ行こうか、と告げるとそのまま歩き出す。
帝人は置いて行かれないように幽平の隣を着いていく。やはりというか、幽平のコンパスと帝人のコンパスでは幽平の方が長い。
それなのに先程から帝人は苦もなく幽平の横を歩いていられる。
(これって気を遣ってもらってるのかな・・・)
ちらりと見上げると、幽平と視線があった。彼の整った顔に心臓が意味もなく跳ねる。
「後もう少しだから」
「はい、」
幽平と帝人は自分から何かを話す人種ではなかったが、2人の間には重たい雰囲気は無かった。寧ろ帝人は居心地が良いな、と思う。
「ここ」
「ここですか・・・」
幽平が示した家は他の家と何ら変わらない。普通の家だった。俳優の家だからと言って、特別大きいとか豪華だとかではないらしい。
「ごめんね、がっかりした?俺が俳優をやっているだけで、両親は普通のサラリーマンだから」
帝人の考えが伝わったのか、幽平が言葉を添える。帝人はかぶりを振ると、幽を見上げた。
「いえ、僕の勝手な価値観を羽島先輩に押しつけていただけですから。僕こそ勝手に落胆してごめんなさい」
ぺこりと頭を下げて顔を上げてみると、どことなく驚いた顔をしている幽平の顔がそこにはあった。
帝人は心の中で驚きを隠せない。役者の仕事以外ではどこか感情の気迫がない幽平が驚いているのだから。
「帝人君は、優しい子だね」
そしてこれまた帝人が驚くほど、幽平は柔らかく笑うと帝人の頭に手を載せて一なでした。
「じゃぁ、入ろうか」
「っ、は、はい!」
幽平はまた無表情に戻っていて、ドキドキと心臓を慣らしている帝人は顔を赤く染めながら幽平が触った頭に自分の手を置いた。
(・・・恥ずかしいかった・・・)
「帝人君」
「今行きます!」