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平和島兄弟

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案内されたリビングに来ると、ソファの上に黄色い髪の毛の人が座っていた。

「ただいま、兄貴」

「あぁ、帰ったのかかすか・・・」

帝人は驚きを隠せず、瞠目してその金髪の人を見つめ続ける。相手も口を開けて帝人を凝視していた。

「兄貴見過ぎ」

幽平が帝人を抱きしめながら相手からその姿を隠す。

「は、羽島先輩!?」

「お、おい!幽!竜ヶ峰を放せっ!」

顔を真っ赤に染めて幽平に抱きしめられた帝人の頭の中は真っ白だった。あの、人気俳優である幽平に抱きしめてもらっている。
世の女性陣が聞いたら卒倒するか、発狂を上げる光景だろう。

「だって、兄貴。帝人君見過ぎ。俺だってそんなにがん見したこと無いのに・・・ずるいよ」

そういいながら幽平はさらに帝人を抱きしめる腕に力を込める。

「ズルイってお前!お、俺はただ驚いただけで竜ヶ峰に見とれてたとかそんなんじゃって・・・何でお前は帝人呼びなんだ!?」

「だってその方が親しげでしょ?名字呼びなんて堅苦しいし」

「だからって!」

「兄貴だって本当は呼びたいの?ねぇ帝人君、兄貴も君の事名前で呼びたいって」

急に話題を振られて帝人はパニックに陥る。幽平と幽平の兄である静雄を交互に見た。

「えっと、その・・・」

「い、嫌だったら良いんだぞ!ほら、俺なんかに名前呼びなんてそんな親しげに呼ばれたくないだろっ」

静雄は慌てて顔の前で手を振りながら、頬を染めている。
別に帝人は静雄を怖いと思ったことはない。寧ろ帝人が持っていない圧倒的な力に憧れを抱いているくらいだ。

「あの・・・平和島先輩が良かったら、名前で呼んで下さい」

帝人は恥ずかしさのあまりへにゃりと笑うと、途端に静雄の顔が更に紅くなる。
そして俯き、頭を掻きながらボソリと囁いた。その囁きは小さかったが、帝人の耳には届く。

「はい、平和島先輩」

「っ」

耳まで紅くなる静雄というものは滅多に見られる物ではない。

(平和島先輩でもこんなに恥ずかしがることなんだな・・・)

驚きと感動がない交ぜになって帝人は幽平の腕に抱かれていることを半分忘れかけていた。

「兄貴ばっかずるいよね・・・帝人君にかまってもらってさ。ねぇ帝人君俺のこと名前で呼んで」

「え?」

急に顔の角度を変えられて、幽平と視線を合わせられる。帝人の視界の先で慌てる顔の静雄の顔が映った。

「俺の名前、呼んでよ」

「えっと、・・・幽平先輩?」

「違うよ、それは俺の業界の名前。俺の本名は平和島幽」

「へ?」

帝人はあっけにとられながら、今し方告げだれた幽の言葉を心の中で反芻する。
そういえば幽平は静雄に対して、兄貴と言っていた。静雄も幽平のことを幽と呼んでいた。

(とうことは・・・つまり・・・)

「お、お二人って兄弟だったんですかー!?」

驚きを隠せない帝人に、一瞬きょとんとした静雄はすぐにあーだとかうーだとか唸り、幽平は深く深く頷いた。

「やっぱ芸能界では本名名乗れねぇし、もし俺と兄弟だってばれてこいつの芸能界での路に傷を付けたくないしな」

「兄貴は心配しすぎ。俺は兄貴の弟で良かったと今でも胸を張れるよ」

未だに呆然としている帝人に幽平は頭を撫でてやる。

「俺の本名を入れ替えてごらん。そうすれば俺の業界名になるから」

(平和島幽・・・羽島幽平・・・あぁ!)

「うわぁ!本当ですね!」

有名人の知られざる情報を知ったという好奇心が帝人の瞳を煌めかせる。

「うん、だから俺の本当の名前は幽だよ、帝人君」

幽平、もとい幽が名前を呼んで欲しがっている、と言うことは分かったので帝人は初めて呼ぶ幽の名前を口にした。

「かすか・・・先輩」

恥ずかしくて苦し紛れに帝人は微笑む。帝人が幽の名前を呼ぶと幽の目元が和らいだ。
その顔は一瞬遠目から見れば無表情に見えるだろうが、今帝人は近場でじっくりと幽の顔を見ることが出来る。

(よろこでくれてる・・・)

それがなぜか無性に嬉しくて、帝人はまた笑った。

「あー!幽!いい加減に帝人を放せ!いつまでお前帝人を抱きしたままでいるんだよ!」

「そんなの、ずっとに決まってるじゃない」

「良いから放せッ」

「兄貴って心が狭いよ」

「今のお前には流石に俺も言われたくなんだがな・・・」

静雄はため息を吐きながら、言い出したらてこでも動かない幽の性格を知っていたので、
せめてソファに座ったらどうだ?という妥協案を提示することにした。

「俺、帝人君のこと気に入ったんだよね」

「はぁ、」

「俺と付き合わない?」

「へ?」

「ぶっ幽ぁっ!」

「俺、本気だから」



end....
作品名:平和島兄弟 作家名:霜月(しー)