こらぼでほすと 留守番2
朝から、珍しく高僧様の正装で三蔵は出掛けていった。普段は、黒い袈裟だが、真っ白な袈裟は、金髪の髪と相俟って神々しくなるから、不思議なものだ。
悟空のほうは、いつもの学生服で、すったかたぁーと走り出して行った。学校は、それほど遠くはないのだが、時間はギリギリだから、走らないといけないらしい。
ふたりが出かけてしまうと、親猫と黒子猫だけになって、途端に静かになる。とりあえず、食事の片付けとか洗濯なんていう日常の家事に勤しんでいると、すぐに昼時になる。朝の残りに適当なものを足して、昼ごはんを食べようと準備していたら、イザークが唐突に現れた。
「三蔵さんは留守だぞ? イザーク。」
もちろん、イザークもオールセルフサービスの寺のことは熟知しているから、居間まで勝手に顔を出した。
「おまえが、こっちにいるって聞いたから、顔を見に来ただけだ。」
「別に、俺の顔なんて見ても、なんともないと思うがね。・・・ああ、昼飯作ってるとこだから、食ってけよ。ディアッカは?」
ちょうど、おかずの準備をしていたところだ。一人や二人増えても、問題はない。
「ディアッカは、まだ寝てるはずだ。俺は、本職のほうへ出てたからな。」
イザークは母親の私設秘書が本業だから、そちらの仕事がある場合は、『吉祥富貴』には出てこない。母親はプラントの議員だが、地球にも出先の事務所があって、イザークは、そちらに勤めている形になっている。
食事に付き合うつもりなのか、イザークは、どっかりと卓袱台の前に座り込む。名家のぼっちゃまは、食事の支度を手伝うなんていう概念は持ち合わせていない。
「わかった。」
付き合いも長くなってきたから、そのあたりは、ロックオンも判っているので手伝えなんて言わない。ささっと簡単な料理をして、すぐに食事の用意を卓袱台に準備する。もちろん、運んでいるのは黒子猫だ。
さすがに、レシピがないので、自分たちが食べる分だから、洋食チックなものになる。はい、どうぞ、と、卓袱台に並んでいるのが、完全な洋食というミスマッチも、いちいち気にしてはいけない。囲んでいる面々だって、卓袱台とそぐわない面だ。
「大丈夫なのか? ロックオン。」
「ああ、日常生活は普通でいいんだ。ただ、夜中まで起きてられなくて、そっちの仕事まで出向けないってだけだ。」
刹那、じゃがいもを除けるな、とか、叱りつつ、気楽にパンを齧っているロックオンに、イザークも微笑む。
「別に無理することはないだろう。しばらく、ゆっくりしていればいい。」
「けど、働きもしないで、メシ食わせてもらえるっていうのは、申し訳ないんだ。」
「それについては気にするな。そのうち、こき使われる。それまでは、ゆっくりしていろ。」
根っから貧乏性なロックオンにしてみれば、どうも働かないなんていうのは性に合わない。今回、留守番というお仕事が貰えて、内心、喜んでいたりするぐらいだ。
「働くのはダメだ。あんたは、大人しくしてればいい。」
黒子猫も、イザークと同意見なので、そう口を挟む。お金の概念なんてものがない純粋培養テロリスト様にとって、働いて稼ぐというのが、ピンと来ないというのがミソだ。
「とはいってもよ、刹那。俺、自分にかかってる医療費を考えるだけでも怖いぞ? 再生治療って、すげぇー高い代物なんだからな。」
「だが、ロックオン。組織から退職金もふんだくれなかったんだろ? その分だと思えばいい。」
組織は壊滅状態なので、退職金とかいう問題ではなかった。自分の口座もあったのだが、それすら、どうなっているのかわからない状態だ。まあ、怪我をした時に、口座のほうのお金は、ほとんど移動させていたから残っていても微々たるものだが。
「俺が働くから、あんたはいい。」
「刹那くーん?」
「なんなら、今夜からでも、俺が店へ行く。」
「いや、おまえだけなんて、そんな危険なことはさせられねぇーだろ?」
というか、むしろ、お邪魔虫になりそうで怖い。野良猫な刹那なんて、単独で店に行かせるわけにはいかない。いろいろと破壊しそうで、そっちのほうが心配だ。
「刹那、おまえの仕事は、ロックオンの監視だ。きっちりと静養させておけ。」
「わかっている。だが、そのうち、アレルヤたちが合流してくるから、そうなったら、働ける。」
「・・・・まあ、それならアレルヤだけ貸出してもらうかもしれないな。その辺りは、アスランか八戒さんと打ち合わせろ。」
「了解した。」
つまり、俺は、ここでも軟禁なわけかい? と、内心でロックオンはツッコんでいるが、口にはしない。言おうものなら、「当たり前だ。」 と、ふたりからツッコミを食らうのは必定だ。
だらだらと食事して、食後のコーヒーまで、きっちりと飲み干すと、さて、と、イザークが立ち上がる。帰るのかと思ったら、おもむろに刹那に、「布団を敷け。」 と、命じる。
「昼寝か? イザーク。」
「おまえが、だ。ロックオン。・・・・虎から聞いてるぞ? 食後は、昼寝が日課だろ。」
「いや、そこまで厳密にしてもらわなくてもいいんだけど?」
だいたい、後片付けもあるし、悟空のおやつを作る用事もある。だが、イザークにも、そんな理由は通じない。
「一時間休め。それからでも遅くない。」
「おまえさんまで、それか? 」
「おまえが日課を守らないだろうというのは、想定内だ。明日からも、誰かが来るからな。ちゃんとしないなら、別荘へ強制送還させる。」
「え? 」
刹那たちがいない時も、別荘で、そういうことになっていた。つまり、必ず、昼寝をさせるという監視のローテーションが組まれているらしい。大袈裟な・・・と、親猫は呆れているが、黒子猫は客間に、すぐにすっ飛んで行って布団を準備している。
「もしかして、それ、虎さんからの指示? 」
「昨日、八戒さんから連絡が回ってきた。」
「わざわざ、そこまでするか? 」
「刹那だけでは心許ないということだろう。ティエリアたちが来たら、そちらで、やってもらうつもりだと思うがな。」
ティエリアたちが、すぐに合流できないから、そういうことになったらしい。たぶん、ティエリアのほうからも依頼したのではないだろか、と、ロックオンは怪しむ。たまたま、イザークは昼の休憩時間だから、頼まれたそうだ。
「刹那、ロックオンを一時間、確実に寝かせるんだぞ。」
「わかった。」
布団を敷き終えた刹那が戻ってきたので、イザークは、そう言うと、ようやく玄関へと出て行った。もしかして、毎日、誰かが来るのか? というか、そこまで信用ないか? 俺、と、ロックオンががっくりと肩を落としていたら、刹那にくいくいと腕を引っ張られた。
「寝ろ。」
「あれだけ片付けさせてくれ、刹那。」
「ダメだ。それは、俺がやる。」
「いや、おまえは触るな。ここの食器は壊しても補充されないからな。頼むから触らないでくれ。」
別荘でなら、そこの人間が壊したものは補充してくれていたが、ここでは、それはない。三蔵が帰って来た時に、新しい食器ばかりになっているなんていう事態は極力避けたいと、親猫は慌てる。五分だけ、と、頼み込んで洗い物だけ済ませた。
「クスリ。」
悟空のほうは、いつもの学生服で、すったかたぁーと走り出して行った。学校は、それほど遠くはないのだが、時間はギリギリだから、走らないといけないらしい。
ふたりが出かけてしまうと、親猫と黒子猫だけになって、途端に静かになる。とりあえず、食事の片付けとか洗濯なんていう日常の家事に勤しんでいると、すぐに昼時になる。朝の残りに適当なものを足して、昼ごはんを食べようと準備していたら、イザークが唐突に現れた。
「三蔵さんは留守だぞ? イザーク。」
もちろん、イザークもオールセルフサービスの寺のことは熟知しているから、居間まで勝手に顔を出した。
「おまえが、こっちにいるって聞いたから、顔を見に来ただけだ。」
「別に、俺の顔なんて見ても、なんともないと思うがね。・・・ああ、昼飯作ってるとこだから、食ってけよ。ディアッカは?」
ちょうど、おかずの準備をしていたところだ。一人や二人増えても、問題はない。
「ディアッカは、まだ寝てるはずだ。俺は、本職のほうへ出てたからな。」
イザークは母親の私設秘書が本業だから、そちらの仕事がある場合は、『吉祥富貴』には出てこない。母親はプラントの議員だが、地球にも出先の事務所があって、イザークは、そちらに勤めている形になっている。
食事に付き合うつもりなのか、イザークは、どっかりと卓袱台の前に座り込む。名家のぼっちゃまは、食事の支度を手伝うなんていう概念は持ち合わせていない。
「わかった。」
付き合いも長くなってきたから、そのあたりは、ロックオンも判っているので手伝えなんて言わない。ささっと簡単な料理をして、すぐに食事の用意を卓袱台に準備する。もちろん、運んでいるのは黒子猫だ。
さすがに、レシピがないので、自分たちが食べる分だから、洋食チックなものになる。はい、どうぞ、と、卓袱台に並んでいるのが、完全な洋食というミスマッチも、いちいち気にしてはいけない。囲んでいる面々だって、卓袱台とそぐわない面だ。
「大丈夫なのか? ロックオン。」
「ああ、日常生活は普通でいいんだ。ただ、夜中まで起きてられなくて、そっちの仕事まで出向けないってだけだ。」
刹那、じゃがいもを除けるな、とか、叱りつつ、気楽にパンを齧っているロックオンに、イザークも微笑む。
「別に無理することはないだろう。しばらく、ゆっくりしていればいい。」
「けど、働きもしないで、メシ食わせてもらえるっていうのは、申し訳ないんだ。」
「それについては気にするな。そのうち、こき使われる。それまでは、ゆっくりしていろ。」
根っから貧乏性なロックオンにしてみれば、どうも働かないなんていうのは性に合わない。今回、留守番というお仕事が貰えて、内心、喜んでいたりするぐらいだ。
「働くのはダメだ。あんたは、大人しくしてればいい。」
黒子猫も、イザークと同意見なので、そう口を挟む。お金の概念なんてものがない純粋培養テロリスト様にとって、働いて稼ぐというのが、ピンと来ないというのがミソだ。
「とはいってもよ、刹那。俺、自分にかかってる医療費を考えるだけでも怖いぞ? 再生治療って、すげぇー高い代物なんだからな。」
「だが、ロックオン。組織から退職金もふんだくれなかったんだろ? その分だと思えばいい。」
組織は壊滅状態なので、退職金とかいう問題ではなかった。自分の口座もあったのだが、それすら、どうなっているのかわからない状態だ。まあ、怪我をした時に、口座のほうのお金は、ほとんど移動させていたから残っていても微々たるものだが。
「俺が働くから、あんたはいい。」
「刹那くーん?」
「なんなら、今夜からでも、俺が店へ行く。」
「いや、おまえだけなんて、そんな危険なことはさせられねぇーだろ?」
というか、むしろ、お邪魔虫になりそうで怖い。野良猫な刹那なんて、単独で店に行かせるわけにはいかない。いろいろと破壊しそうで、そっちのほうが心配だ。
「刹那、おまえの仕事は、ロックオンの監視だ。きっちりと静養させておけ。」
「わかっている。だが、そのうち、アレルヤたちが合流してくるから、そうなったら、働ける。」
「・・・・まあ、それならアレルヤだけ貸出してもらうかもしれないな。その辺りは、アスランか八戒さんと打ち合わせろ。」
「了解した。」
つまり、俺は、ここでも軟禁なわけかい? と、内心でロックオンはツッコんでいるが、口にはしない。言おうものなら、「当たり前だ。」 と、ふたりからツッコミを食らうのは必定だ。
だらだらと食事して、食後のコーヒーまで、きっちりと飲み干すと、さて、と、イザークが立ち上がる。帰るのかと思ったら、おもむろに刹那に、「布団を敷け。」 と、命じる。
「昼寝か? イザーク。」
「おまえが、だ。ロックオン。・・・・虎から聞いてるぞ? 食後は、昼寝が日課だろ。」
「いや、そこまで厳密にしてもらわなくてもいいんだけど?」
だいたい、後片付けもあるし、悟空のおやつを作る用事もある。だが、イザークにも、そんな理由は通じない。
「一時間休め。それからでも遅くない。」
「おまえさんまで、それか? 」
「おまえが日課を守らないだろうというのは、想定内だ。明日からも、誰かが来るからな。ちゃんとしないなら、別荘へ強制送還させる。」
「え? 」
刹那たちがいない時も、別荘で、そういうことになっていた。つまり、必ず、昼寝をさせるという監視のローテーションが組まれているらしい。大袈裟な・・・と、親猫は呆れているが、黒子猫は客間に、すぐにすっ飛んで行って布団を準備している。
「もしかして、それ、虎さんからの指示? 」
「昨日、八戒さんから連絡が回ってきた。」
「わざわざ、そこまでするか? 」
「刹那だけでは心許ないということだろう。ティエリアたちが来たら、そちらで、やってもらうつもりだと思うがな。」
ティエリアたちが、すぐに合流できないから、そういうことになったらしい。たぶん、ティエリアのほうからも依頼したのではないだろか、と、ロックオンは怪しむ。たまたま、イザークは昼の休憩時間だから、頼まれたそうだ。
「刹那、ロックオンを一時間、確実に寝かせるんだぞ。」
「わかった。」
布団を敷き終えた刹那が戻ってきたので、イザークは、そう言うと、ようやく玄関へと出て行った。もしかして、毎日、誰かが来るのか? というか、そこまで信用ないか? 俺、と、ロックオンががっくりと肩を落としていたら、刹那にくいくいと腕を引っ張られた。
「寝ろ。」
「あれだけ片付けさせてくれ、刹那。」
「ダメだ。それは、俺がやる。」
「いや、おまえは触るな。ここの食器は壊しても補充されないからな。頼むから触らないでくれ。」
別荘でなら、そこの人間が壊したものは補充してくれていたが、ここでは、それはない。三蔵が帰って来た時に、新しい食器ばかりになっているなんていう事態は極力避けたいと、親猫は慌てる。五分だけ、と、頼み込んで洗い物だけ済ませた。
「クスリ。」
作品名:こらぼでほすと 留守番2 作家名:篠義