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前世を言っても聞かないよ

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「はい、どぼーん。」
「は?」
「うそっ!」

どぼーん。  ・・・ばしゃばしゃ。ぷか。

チカちゃんが脂下がった顔でニヤニヤしている。
伊達ちゃんは、は?と驚愕した顔のままだった。
俺様は一度浮かんだ驚愕をすぐに表情から消して、伊達ちゃんを見て、チカちゃんを見て、快晴の青空を見上げて、呆れた溜息を吐いた。
9月の終りにしても、今日は汗ばむくらい暑い。
ヨット部のヨットパレードが丁度終わった頃だった。
爽快な景色が広がる船着場。軽快な音楽がまだスピーカーから流れている。
水音に気がついた周囲の人たちがこっちを見ているし、学生スタッフが小走りにやって来る。

伊達ちゃんは、海に突き落とされた。チカちゃんに。

ぷかぷかと肩から上が海に浮かんでいる。立ち泳ぎしているのだろう。
そして、表情は無表情だ。
アレだよ、怒りすぎて無表情というやつだ。
「・・・チカちゃーん、手段選ぼうよ。片倉さんが居たら斬って捨てられてたよ、間違いなく。」
居合いをやっているという片倉さんは、武田の大将に頼まれたお土産を買いに、車で行ってしまっている。
北陸は昔の流通の関係があったのか、海沿いにいい酒蔵が多いとかで、武田の大将は片倉さんに馴染みの蔵元への紹介状まで渡してあった。
車を停める場所も学校には無いし、学校祭事体に興味が無い片倉さんは、友人同士水入らずで楽しんで来いと気を利かせてくれていた。
・・・まさかこんな事態が勃発するとは想定外だったんだろう。
「んー、お前ら遅刻したしさ、罰ゲーム?」
「・・・佐助は?」
低い押し殺した声は、どうして伊達ちゃんだけ落とされるのか、という意味だろう。
「えー?だって遅刻の理由、伊達の所為だろ?」
遅刻、というのは、正午のロボット操演を途中から見始めたことを指す。
開始直前に会場の体育館で落ち合って、応援する予定だった。
が、途中のサービスエリアで、伊達ちゃんが地域特産の軽食を食べたがって時間を思いがけず取ったのだ。
ロボット操演は、おかげで途中から見ることになった。
開始になっても現れない俺様たちに、チカちゃんが不安になったのは当然で、意趣返しをしたがるのも当然だ。
だが、俺様はこの後の展開が読めてしまっているので、果たしてそれがどこまで本気かわからない。
伊達ちゃんは、すいっと泳いで岸壁に近寄って、船の衝突避けにぶら下がっている古タイヤを掴んで上がる。
俺様が差し伸べた手なんて無視で。ご機嫌は最悪だ。
結構高さがあるのに、運動神経がいいから難なく登っていてすごい。
学生スタッフが、「大丈夫ですか?」と声をかけると、屈辱に口を引き結ぶ伊達ちゃんの代わりに、チカちゃんが
「いやー、ヨット良く見ようとして落ちたんだわ。ヨット部のシャワー使わせてやって?風邪ひくと大変だし。あ、これ、着替えな。関係者以外、部室今日は立ち入り禁止だろ、放送用のテントで待ってるわ。」
と紫色のスポーツバッグをスタッフの女の子に手渡す。
後で聞いたら、ヨット部の同級生だったらしい。
・・・うん、この展開が俺様には読めていた。
ていうか、伊達ちゃんも危機感は持ってたと思う。
操演後に自由になった後もチカちゃんが持ち歩く、謎のバッグに眼を向けて、口を開きかけては黙ってたし。
自分からこの手の話題を向けなかった賢しらな態度に俺様もこっそり苦笑していた。
「あ、伊達ちゃんちょっと待って。」
俺様はそのまま行こうとした伊達ちゃんを呼び止めて、背中のメッセンジャーバッグから出した小振りの防水ポーチを渡す。
「中の小瓶、オキシドールが脱脂綿に含まれてるから使って?」
「・・・真田が居なくても持ってんのかよ?」
くっ、と喉を鳴らして、ようやく少し、伊達ちゃんの無表情が崩れた。
「言わないでくれない?もう習い性ってやつ。」
肩を竦めれば、髪をかき上げながら小さく笑って、伊達ちゃんはスタッフに促されるまま人ごみに紛れて行った。
「なんだ?あれ。」
「ん?ああ、医療キット。」
チカちゃんの問いに、俺様は苦笑したまま答える。
小さな怪我を頻繁にする真田の旦那のために日常的に持っているのを、高校に入ってから伊達ちゃんにからかわれた品だ。
まさか自分が使うことなど思っても見なかったろう。
同じ理由で持っているソーイングセットは・・・今日はチカちゃんがいるから使わないだろうな、と思う。
「・・・落ちたの海だぜ?怪我なんかさせるかよ。」
「ばっかだなー。海なんて雑菌多いじゃない。伊達ちゃん義眼なの、忘れてたでしょ?」
「あ。」
「まあ、そんなに問題でもないとは思うけどね、気休めでも処置しとかないと、後が怖いからね・・・」
「・・・片倉さんには内緒に、」
「出来ると思ってんの?考えなし。」
「佐助ぇ~・・・」
情けない顔を二人で見合わせて、溜息を吐いた。
ちなみに、チカちゃんまでが片倉さんと呼ぶのは、伊達ちゃんに禁止されているからだったりする。
伊達ちゃんのお目付け役の戸籍上の名前は、小十郎ではない。
家督相続の襲名みたいなもので、当代の小十郎はお爺さんだそうだ。
相続税の関係もあって次に継ぐことは決まってるそうだが、主人の伊達ちゃん以外は誰も小十郎とは呼んでいない。
というか、呼んではいけないのが伊達ちゃんルールらしい。
何度聞いても、砂吐きそう。何その砂糖と蜂蜜まぶしたみたいな独占欲。
と、ふっと影が差して涼しい声が掛けられた。

「片倉くんも来てるのかい?」

チカちゃんと同時に顔を上げれば、見事な銀髪が眼に入ってギョッとした。
次いで眼に映るのが大きい紫のレンズが特徴的なサングラス。映画でしか見ないような、古いタイプ。
でも、それでも判る華やかで精緻で、そしてどこか冷淡な美貌。
「竹中さんっ!」
チカちゃんが喜色に溢れた声を上げた。

―うわー、西軍関係者揃いすぎー。

俺様は思わず胸中で呟いてから、首を振った。
こんなところに来てまで前世とか!!関係ないからっ!!
首を振る俺様に、竹中さん、どう見ても竹中半兵衛で、しかもさっきの言葉が幻聴でなければ電波な記憶持ちのその人は、周囲を見蕩れさせるような笑顔を浮かべた。
俺様、知ってる。コレ、戦場で敵を甚振るときに浮かべた笑顔だ。
「そう警戒しなくても。ええと、佐助くん、でいいのかな?」
「・・・猿飛佐助です。チカちゃん、コノヒト何?」
「あ、悪い佐助、知り合い。他所の高専の先生で、」
「竹中半兵衛です、ロボコンで準優勝したチームの顧問をしてるよ。彼女とはそのときに知り合ったんだ。」
ああ、なるほど納得、知らない大人に懐いちゃいけませんってチカちゃんに説教しようにも、学校の先生なんて信用しないわけにはいかない。
それもあのロボコンで準優勝したチームの顧問なんて、尊敬の対象に十分だ、チカちゃんには。
そこらへんの説明をした辺り、竹中さんは俺様が誰だと聞かなかったところを汲んでくれたらしい。
腹立たしいほど軍師の冴えは健在だ。
「でも、本当に来てくれるなんて!」
「折角の招待だもの、嬉しかったしね。でも、こっちの知り合いに挨拶に行く予定もあったから嘘みたいかな?」
「いや、そんなこと!その予定聞いたから誘ったんだし!」
照れて否定するチカちゃんに、俺様は思わず半眼になった。