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長谷川桐子
長谷川桐子
novelistID. 12267
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残さず召し上がれ

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365分の1
あなたが生まれた大切な日だから
精一杯お祝いしたいのです


「去年どうしたかって?」
必死な様子で訊ねてきた少年に、田中トムはうーん……と首を捻りつつ記憶を掘り起こしていた。
昨年の1月28日―――トムの後輩であり部下である平和島静雄の誕生日である―――何をしたのか?どうやって祝ったのか?…と。そう訊ねてきた額が特徴的な他はごく普通の少年の名は、竜ヶ峰帝人。前述の、静雄の、交際相手である。
同性同士であることと、良くも悪くも池袋での有名人である静雄の立場を鑑みて、その『お付き合い』は密やかなもので、知る者は少ない。……で、あるから、帝人はその数少ない『知っている』人物にそれを訊ねている訳なのだが。
「……ありきたりなことを言うようだがなぁ…坊主が祝ってくれるっつーんなら、何でも喜ぶと思うぞ、アイツは」
「…っ、そ、それはともかく、」
頬を朱に染めながら、少年はもごもごと言葉を詰まらせる。そして、なんとかといった体で続きを口にした。
「参考のために、お聞きしたいんです」
すきなひとの誕生日をお祝いするのなんて、初めてなんですから。
その、いまどきの男子高校生にしては全く擦れた様子のない、可愛らしいはにかみぶりを目にするに、何とか協力してやりたくなる。トムはそうだなぁ…ともう一度首を傾げて考えた。
「そうだ、ケーキだ」
ぴく、と少年が薄い肩を揺らして面を上げる。頭上で長い耳がぴん、と立つのが見えた気がした……毒されてるなあ、と男は内心で苦笑する。
「キル……なんとかっていう、銀座にある果物が沢山乗ったタルト…っていうのか? ビスケットみたいな生地のケーキで有名な店の。苺がびっしり乗ってるやつをまるまるひとつ……これが結構な値段しやがるんだが、まあ社長と会社の奴らで金出し合って、おめでとさんってな」
トムの紹介で、今の会社に就職をして暫く経ち。喧嘩人形などと呼ばれる男の意外な味覚が、周りに知れはじめた矢先のことだったと思う。社長などはだいぶ面白がってケーキ丸ごと、などというものを選んだようなのだが。「いいんすか……嬉しいっす」と素直に喜んだ静雄はそれを苦もなくぺろりと平らげたのだった。
「……やっぱりケーキかぁ…」
トムの言葉になにやら思いに耽った様子で、囁くような声でひとりごちた少年は、ひとつ息をついて顔を上げるとぺこりと頭を下げた。
「トムさん、教えてくださってありがとうございました」
「おう、こんなんで参考になったんなら何よりだ」
「はい、とても助かりました」
にこりと微笑んで、少年はもう一度深々と頭を下げる。遠ざかる小さな背に手を振りながら、トムは静雄に休憩終了を知らせるために、携帯電話を取り出した。



一方、トムと別れた帝人も携帯電話を取り出し、歩きながら片手で素早くメールを打っていた。送信ボタンを押して、メールが送信されたことを画面で確認した後に、相手の多忙さを思えばすぐに返事は貰えないかもしれない、と思う。28日まではあと数日だ。それまでに返事を貰えなければこの問いかけの意味はなくなってしまう。
だからと言っておいそれと電話をかけられる人物ではなくて……どうだろうな、と考えているうちに手にしたままの携帯電話が震えだした。
「わ、わっ…!」
マナーモードになっていた携帯が知らせるのはメールではなく通話の着信で。それがまさに今メールを送信した相手からだと知って帝人は慌てた。
「か、かすかさん?!」
「うん」
わたわたと通話ボタンを押した帝人の耳に、短い返答が返ってくる。
「帝人くん、今時間大丈夫?」
「ぼ、ぼくは大丈夫ですけど…幽さん、は?」
尋ねてからすぐに愚問だと気づいた。時間がないなら向こうから電話をかけてくる筈がないじゃないか。
「今、撮影待ちで楽屋だから大丈夫」
そうは言っても、売れっ子俳優の時間をそう長く取るわけにはいかないだろう。「あ、あの…」とどもりながらも帝人は質問のために言葉を紡いだ。


「やっぱりなー…」
通話ボタンをぴ、と押して、帝人は深いため息をひとつ零した。
先ほど幽から訊ね聞いた内容を脳内で反芻しながらもうひとつため息。うん、そうケーキ。いちばんおおきいのひとつ。返ってきた言葉とその店の名前を聞いて、半ば予想していたとはいえ、電話口で帝人は息を呑んだ。池袋のデパ地下にも入っているそのパティスリーの長い横文字の名を知っていたのは、前もって調べていたからだ。ケーキをプレゼントしようと考えた、そのときに。
ア、で始まる店名のスペルがAでなくHであるのはフランス語であるからだということも店のHPで知った。一番大きいバースデーケーキの、大きさとその値段も。
三度目のため息を飲みこみながら、帝人は最後の一人に尋ねるために再び携帯を操作した。

作品名:残さず召し上がれ 作家名:長谷川桐子