From Your Valentine
From Your Valentine
「はい、帝人君」
二月十四日。恋人達のイベントともいえる日に帝人は臨也のマンションに訪れた
早々花束を受け取った。
「今日はバレンタインデーだからね」
「あ、ありがとうございます。チョコレートじゃなくて花とカードなんて洒落てますね」
花束の中に忍ばせたメッセージカードには『From Your Valentine』と書いてある。
あなたの恋人から、と言う意味だ。
「ヨーロッパなどでは男性が女性に、女性が男性にケーキや花束を贈る日でも
あるんだよ」
「へえ、そうなんですか」
すると臨也ははい、と帝人の前に手を差し出して笑顔を向ける。
君からもちょうだいの合図だ。
「えっと、僕からはチョコです。…お店で買うのは流石に恥かしかったので
手作りですけど」
恥かしそうに少し頬を染めた帝人は鞄からシンプルにラッピングされた
チョコレートを取りだした。
一口サイズの生チョコレートが数個見え隠れしている。帝人が手渡すと
一瞬沈黙が降りて臨也は口を開いた。
「え！？手作り、手作りなの！？」
「わざとらしい、なんでそんなに驚くんですか」
「いや、君の事だからチョコじゃなくて別の物をなにか用意してくれるのかと思った」
「こ、恋人に贈るんですから僕だってちゃんと贈りたいです」
帝人は自分から『恋人』と口にして恥かしい気持ちになった。
付き合い始めてから初めて迎えるバレンタイン。臨也は本当に
帝人を大切にしてくれる。何気ない会話や仕草の中に向けてくる
温かい視線。優しくて男前なのに時折子供のように拗ねたり甘えたりしてくる彼が
帝人は好きだった。今日はせっかくの二人きりなのだ。恋人達のイベントを共に
過ごしたい。
「甘さは控えめにしてあります。お酒とか混ぜたりもう少し工夫してみたかった
んですけど、チョコレート作りなんて初めてで、思っていたよりも苦戦して…」
と帝人は申し訳なさそうに瞳を伏せた。
「ううん、本当にありがとう。すごく嬉しいよ」
後で大切に食べるね、と臨也は鼻歌交じりに気分上々で仕事デスクの上に置いた。
「ねえ帝人君は今日いくつチョコもらったの？」
「臨也さんには負けますよ」
クラスメイトや委員会の面々、園原杏里からのチョコは流石に嬉しかったけれど
みんな義理が付くチョコだ。それに比べてテーブルの上には大量のチョコ山。
テーブルの横に置いてある大きめな紙袋からはみ出しているのは勿論チョコだ。
有名ブランド店の高級チョコレートも置いてあるしどれもこれも本命っぽい。
臨也は端正な顔立ちでスタイルもいい。だから必然的に女性にもてる。
街を歩けば逆ナンされるし、女性の知り合いも多い。そんな事は承知で帝人は
付き合っていたがこうして現実を目の当たりにされれば心中穏やかではなかった。
「どうせ食べきれないし殆どゴミ箱行きだから帝人君食べたいのあればあげるよ」
「そんな…きっと真剣に臨也さんに贈った人だっているのに、ちゃんと応えなく
ちゃ駄目です」
「恋人に浮気しろと勧めるの君は」
「きちんとお断りすれば問題ないです。それに…」
帝人はちらりとチョコを見て、一区切りしていた言葉を小さな声で続けた。
「…普通隠しておきませんか、あの大量チョコ」
「あれ、やきもち？」
「当たり前です」
にやにやと意地の悪い笑い方だ。僕がやきもちを妬く反応を見たかったのか。
本当に仕方のない人だと帝人は思う。
「……（けれど憎めない僕も重症だ）」
「きっと高校生の頃は紙袋持参して学校に行ったんでしょうね」
「そうそう、毎年とてもじゃないけど持ち帰れないし小学生の頃から
自宅のポストにも溢れんばかりのチョコレート押し込まれた時は両親に
モテモテだなって言われて茶化されたっけ」
「…………………」
むかつく。それが帝人の正直な感想だった。女子にもてまくりで取り巻きがいる
なんて彼女いない歴十六年な帝人には無縁な事だ。それは今でも更新し続けている
代わりに年上の彼氏ができてしまったけれど。
「そう露骨に不機嫌になりましたって顔されたら俺嬉しくて嬉しくて
どうすればいいの？」
「僕といちゃいちゃすればいいんです」
「うん。そうする」
臨也は嬉しそうに正面から帝人に抱きつくと軽い口づけを交わす。
帝人も自然と受け入れた。
「ねえ、今日学校で貰ったチョコレート俺に全部ちょうだい」
「え？」
突然何を言い出すのだ。と帝人は臨也の瞳を覗き込んだ。
「嫌ですよ。それに全部義理チョコですよ？きちんとお返しもしないといけないし
感想も言わないと」
「真面目だねえ。中には本命とかあったりしたらどうするの」
「それはないです。確かに手作りチョコも貰いましたけど女子がクラス男子全員に
配っていましたし、ハートの形のチョコなんてよくありますし」
「……帝人君って結構鈍感だよね」
臨也は小さ溜め息を付くとやれやれと呆れた顔をする。
帝人は帝人で人並みに感受性はある方だと
思っていたので鈍感と言われて納得はできないでいた。
「そんなことありません。どう考えてもあれは義理チョコなんです」
「とにかく没収～！」
「あ！ちょっと人の鞄の中勝手に漁らないで下さいよ！」
俊敏な動きで臨也は移動するとテレビの前のソファーに置き去りにされていた
帝人の鞄からチョコを数点取りだして背中に隠してしまった。帝人はそれを
取り返そうとするがチョコを高く持ち上げられて、悔しいかな背伸びをしても
手が届かない。
「義理チョコだとしてもやだ。帝人君が受け取る物は俺からのだけでいいの」
自分に贈られたチョコを恋人にあげると言ったくせにと心の中で毒付いて帝人は
抵抗するのを止めた。諦めたと思った臨也は得意げにそのチョコを持ったまま
キッチンに持って行く。冷蔵庫に入れるつもり？と思ったがそんなはずはない。
嫌な予感がして臨也の後を追った帝人が目撃したのは生ごみ専用ゴミ箱にチョコ達が
放り込まれていた瞬間だった。
「な、なんてことしてくれるんですか貴方は！！」
「帝人君は食べちゃ駄目」
「大人気ない、大人気ないです臨也さん！」
「なんとでもいいなよ」
「ああもう園原さんから貰ったチョコもあったのに…！」
すると臨也はむ、っと眉間に皺を寄せる。
「帝人君へって書いてあったやつでしょ。あれ市販のチョコレートじゃん義理だよ義理」
「そういう問題じゃないんです！」
捨てられてしまったチョコ達を拾い上げようとゴミ箱に近づくが臨也は退く気配がない。
臨也さん、と強めに帝人が名前を呼んでも駄目で彼は不機嫌全開で帝人を見ていた。
「まさか帝人君手作りのチョコって俺以外にも作ったりなんかしてないよね？」
「してませんよ！なんで男が友チョコを作らなくちゃいけないんですか。
臨也さんだけです！」
本当にこの人はすぐ拗ねるんだから！
「そっか！ならいいんだ。じゃああのチョコは世界でたった一つの俺だけのチョコだ」
と今度は嬉しそうにはにかむものだから帝人は何も言えなくなってしまった。
「……ちょっとそこ退いて下さい」
「やだ」
強引に臨也を退かそうと体を押し進めるも帝人の腕力では敵うわけもなく。
諦めたと見せかけて背を向けるフェイントを仕掛けて臨也が離れた瞬間ゴミ箱へ
「はい、帝人君」
二月十四日。恋人達のイベントともいえる日に帝人は臨也のマンションに訪れた
早々花束を受け取った。
「今日はバレンタインデーだからね」
「あ、ありがとうございます。チョコレートじゃなくて花とカードなんて洒落てますね」
花束の中に忍ばせたメッセージカードには『From Your Valentine』と書いてある。
あなたの恋人から、と言う意味だ。
「ヨーロッパなどでは男性が女性に、女性が男性にケーキや花束を贈る日でも
あるんだよ」
「へえ、そうなんですか」
すると臨也ははい、と帝人の前に手を差し出して笑顔を向ける。
君からもちょうだいの合図だ。
「えっと、僕からはチョコです。…お店で買うのは流石に恥かしかったので
手作りですけど」
恥かしそうに少し頬を染めた帝人は鞄からシンプルにラッピングされた
チョコレートを取りだした。
一口サイズの生チョコレートが数個見え隠れしている。帝人が手渡すと
一瞬沈黙が降りて臨也は口を開いた。
「え！？手作り、手作りなの！？」
「わざとらしい、なんでそんなに驚くんですか」
「いや、君の事だからチョコじゃなくて別の物をなにか用意してくれるのかと思った」
「こ、恋人に贈るんですから僕だってちゃんと贈りたいです」
帝人は自分から『恋人』と口にして恥かしい気持ちになった。
付き合い始めてから初めて迎えるバレンタイン。臨也は本当に
帝人を大切にしてくれる。何気ない会話や仕草の中に向けてくる
温かい視線。優しくて男前なのに時折子供のように拗ねたり甘えたりしてくる彼が
帝人は好きだった。今日はせっかくの二人きりなのだ。恋人達のイベントを共に
過ごしたい。
「甘さは控えめにしてあります。お酒とか混ぜたりもう少し工夫してみたかった
んですけど、チョコレート作りなんて初めてで、思っていたよりも苦戦して…」
と帝人は申し訳なさそうに瞳を伏せた。
「ううん、本当にありがとう。すごく嬉しいよ」
後で大切に食べるね、と臨也は鼻歌交じりに気分上々で仕事デスクの上に置いた。
「ねえ帝人君は今日いくつチョコもらったの？」
「臨也さんには負けますよ」
クラスメイトや委員会の面々、園原杏里からのチョコは流石に嬉しかったけれど
みんな義理が付くチョコだ。それに比べてテーブルの上には大量のチョコ山。
テーブルの横に置いてある大きめな紙袋からはみ出しているのは勿論チョコだ。
有名ブランド店の高級チョコレートも置いてあるしどれもこれも本命っぽい。
臨也は端正な顔立ちでスタイルもいい。だから必然的に女性にもてる。
街を歩けば逆ナンされるし、女性の知り合いも多い。そんな事は承知で帝人は
付き合っていたがこうして現実を目の当たりにされれば心中穏やかではなかった。
「どうせ食べきれないし殆どゴミ箱行きだから帝人君食べたいのあればあげるよ」
「そんな…きっと真剣に臨也さんに贈った人だっているのに、ちゃんと応えなく
ちゃ駄目です」
「恋人に浮気しろと勧めるの君は」
「きちんとお断りすれば問題ないです。それに…」
帝人はちらりとチョコを見て、一区切りしていた言葉を小さな声で続けた。
「…普通隠しておきませんか、あの大量チョコ」
「あれ、やきもち？」
「当たり前です」
にやにやと意地の悪い笑い方だ。僕がやきもちを妬く反応を見たかったのか。
本当に仕方のない人だと帝人は思う。
「……（けれど憎めない僕も重症だ）」
「きっと高校生の頃は紙袋持参して学校に行ったんでしょうね」
「そうそう、毎年とてもじゃないけど持ち帰れないし小学生の頃から
自宅のポストにも溢れんばかりのチョコレート押し込まれた時は両親に
モテモテだなって言われて茶化されたっけ」
「…………………」
むかつく。それが帝人の正直な感想だった。女子にもてまくりで取り巻きがいる
なんて彼女いない歴十六年な帝人には無縁な事だ。それは今でも更新し続けている
代わりに年上の彼氏ができてしまったけれど。
「そう露骨に不機嫌になりましたって顔されたら俺嬉しくて嬉しくて
どうすればいいの？」
「僕といちゃいちゃすればいいんです」
「うん。そうする」
臨也は嬉しそうに正面から帝人に抱きつくと軽い口づけを交わす。
帝人も自然と受け入れた。
「ねえ、今日学校で貰ったチョコレート俺に全部ちょうだい」
「え？」
突然何を言い出すのだ。と帝人は臨也の瞳を覗き込んだ。
「嫌ですよ。それに全部義理チョコですよ？きちんとお返しもしないといけないし
感想も言わないと」
「真面目だねえ。中には本命とかあったりしたらどうするの」
「それはないです。確かに手作りチョコも貰いましたけど女子がクラス男子全員に
配っていましたし、ハートの形のチョコなんてよくありますし」
「……帝人君って結構鈍感だよね」
臨也は小さ溜め息を付くとやれやれと呆れた顔をする。
帝人は帝人で人並みに感受性はある方だと
思っていたので鈍感と言われて納得はできないでいた。
「そんなことありません。どう考えてもあれは義理チョコなんです」
「とにかく没収～！」
「あ！ちょっと人の鞄の中勝手に漁らないで下さいよ！」
俊敏な動きで臨也は移動するとテレビの前のソファーに置き去りにされていた
帝人の鞄からチョコを数点取りだして背中に隠してしまった。帝人はそれを
取り返そうとするがチョコを高く持ち上げられて、悔しいかな背伸びをしても
手が届かない。
「義理チョコだとしてもやだ。帝人君が受け取る物は俺からのだけでいいの」
自分に贈られたチョコを恋人にあげると言ったくせにと心の中で毒付いて帝人は
抵抗するのを止めた。諦めたと思った臨也は得意げにそのチョコを持ったまま
キッチンに持って行く。冷蔵庫に入れるつもり？と思ったがそんなはずはない。
嫌な予感がして臨也の後を追った帝人が目撃したのは生ごみ専用ゴミ箱にチョコ達が
放り込まれていた瞬間だった。
「な、なんてことしてくれるんですか貴方は！！」
「帝人君は食べちゃ駄目」
「大人気ない、大人気ないです臨也さん！」
「なんとでもいいなよ」
「ああもう園原さんから貰ったチョコもあったのに…！」
すると臨也はむ、っと眉間に皺を寄せる。
「帝人君へって書いてあったやつでしょ。あれ市販のチョコレートじゃん義理だよ義理」
「そういう問題じゃないんです！」
捨てられてしまったチョコ達を拾い上げようとゴミ箱に近づくが臨也は退く気配がない。
臨也さん、と強めに帝人が名前を呼んでも駄目で彼は不機嫌全開で帝人を見ていた。
「まさか帝人君手作りのチョコって俺以外にも作ったりなんかしてないよね？」
「してませんよ！なんで男が友チョコを作らなくちゃいけないんですか。
臨也さんだけです！」
本当にこの人はすぐ拗ねるんだから！
「そっか！ならいいんだ。じゃああのチョコは世界でたった一つの俺だけのチョコだ」
と今度は嬉しそうにはにかむものだから帝人は何も言えなくなってしまった。
「……ちょっとそこ退いて下さい」
「やだ」
強引に臨也を退かそうと体を押し進めるも帝人の腕力では敵うわけもなく。
諦めたと見せかけて背を向けるフェイントを仕掛けて臨也が離れた瞬間ゴミ箱へ
作品名：From Your Valentine 作家名：りい