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いつか愛になる日まで

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 必死で口を開くと文にならない単語だけがようやく声になる。あー眠い、もうだめ、もう寝る。
「あぁ、わかりました。ありがとうございます。私は勝手にやりますから、このまま眠ってください」
 もにょもにょと何か口走ったがたぶん言葉になっていない。半分眠っていた。
「大丈夫です。まだ9時過ぎです。12時前には起こします。一緒に新年を迎えましょうね」
 そう、それが言いたかったと思ったのを最後に意識が遠のいていく。カカシさんが帰ってきてやっと眠れる。眠れない日々とはお別れか。・・・本当に心配したんですよ。
安心感に包まれて、息をするたびに眠りが深くなっていく、そんなとき。
「あなた、本当にラブって言ったんですか?」
 優しくて、だけどやけに真剣な声を聞いた気がした。


 イルカが目を覚ましたとき、豆電球だけが灯された部屋はうっすら開けた目にも暗いと感じるほどのオレンジ色だった。目を閉じれば、またすぐに寝てしまう。
 こたつ布団がしっかりと肩までかけられていて暑く、汗をかいていた。
 めまぐるしく明滅している天井を見ながら、ああ、テレビがついているからかと思う。耳に届く音量では歌番組らしいということしかわからなかった。
 そっと右に首をよじると丸い背中が思いのほか近くに見える。声をかけようかと思ったが。
「はははっ」
 カカシが突然小さな声で笑った。思わず目を丸くする。何か面白いことを言っているんだろうか。この人、テレビで笑うんだ。笑っちゃうんだ・・・ってか、テレビ見るんだ。あー、さっきも見てたけど、なんかもう全然興味なさそうなのに。
 目が覚めたことはもう少し黙っていようとイルカはまた静かに目を閉じた。
 一人でいるとき、いつもどうしているんだろう。こんな緩やかな気をまとわせて、今なら俺でも背後から襲えそうですよ。中忍の中でも平凡な俺が上忍の中でも最上級のあなたの首を獲っちゃったらどうなりますかね? 不謹慎な話ですけど、ありえないとわかっているからこそなんだか笑えませんか。
 イルカの隣でカカシが今度はららららん、と曲にあわせてハミングする。ずいぶん前に流行った女性歌手の歌だ。流行に疎い自分でも知っているくらいだから、いろんなところで流れていたに違いない。声は穏やかで、低く小さかった。
最初のイメージはすでに崩れていたカカシが、ハミングなんてことをして、さらにイメージを覆す。イライラする人だったり、おかしな人だったり、真面目な人だったり、強い人だったり、穏やかな人だったり、笑ったり歌ったり、当たり前にたくさんの顔を持っている。あなたも普通の男ですもんね。
階級が違って、忍びの技術が違って、仕事が違って、考え方が違って、好きな物が違って、山ほど違うことがあるけど、だから面白くて興味がわく。俺も知りたがりになったのかなぁ。
静かに目を開けるとイルカは目の前の背中にそっと手を伸ばした。瞬時に振り返ったカカシがにっこり笑ったので、なんだか安心して自分も笑顔になる。
「起きました?」
 横になったまま、はい、と頷いた。さっきから起きてましたけどね、と心の中で付け足す。あなたが何をしたか、ぜーんぶ知ってます。
「気分は悪くないですか? かなり酔ってたみたいですけど」
 さらりと髪を撫でられて一瞬返事が遅れた。カカシを見ると平然とした顔をしているから変に意識するのも自意識過剰な気がするけど、顔が赤くなっていくのは止められない。
「・・・もともとそんなに強くないんです。なんだか飲みすぎました。寝てしまってすみません。もう大丈夫です。何、見てるんですか?」
「今年、木の葉で一番聞かれた曲を選ぶ歌番組です。歌謡音楽祭・・・だったかな。毎年やってるそうですよ」
「そうなんですか」
 なぜが小声で話をしていた。部屋が暗く、夜も更けていたからかもしれない。夜更けに大きな声を出すほど子供じゃない。
「毎年年末は出勤してていつもアカデミーにいるんでテレビ番組はよく知らないんです」
「へぇ、意外ですね。家でのんびり過ごしていそうなのに。かく言う私もいつも長期任務で年末年始はたいてい里にはいませんが」
「そうなんですか?」
「身軽な独身なもので。3代目も5代目も、あぁ4代目はもちろんですが、人使いが荒いんですよ」
「今年は里で過ごせて良かったですね?」
「ええ、本当に。ギリギリでしたけど。ところで、本当に気分は悪くないんですね?」
「もちろん。あ、すみません。寝たままで」
 慌てて起き上がろうとしたイルカをカカシは軽く肩を押すことで止め「いいんです」と言ってにっこり笑うと左腕を枕に横になる。思いがけず近くなった顔をなぜか直視できないイルカはウロウロと視線をさまよわせてから、思い切ってカカシを見た。視線が合うとカカシが言った。
「実は私も少し酔っているんです」
「まさか、顔色も全然変わっていませんよ」
 意識して冷静に答えながら、いつもみたいに「酔っちゃいました〜」と軽く言ってくれたらいいのにと思った。
夜更けに顔を寄せて小声で話をする。これってなんだかマズイ。互いの息すら絡まりあってしまう大人の距離だ。
 目を見て話すには近すぎて、かと言って目を逸らすと自分たちの一角だけ空気が濃くなる。それでは困る。酔いが醒めたはずの身体が熱くなる。少し早い心臓の鼓動を意識する。
ごまかすように咳をするとクスッと笑われた。あ、この人、わかってる。俺が困ってることをわかってる。そう感じるとますます困ってしまい、意地が悪いぞと思いつつ本気では怒れない。そのうえ、困っているのに楽しくて心が弾む。
いつでも余裕の銀髪上忍はむやみに濃い空気を全く感じないかのように淡々と話をする。
「どれだけ飲んでも顔には出ないんです。滅多に酔うこともないですが今日は飲みすぎました。気が緩んでいるもので」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ」
 カカシが口を閉ざすとテレビの音だけが部屋を満たした。どうでもいい番組だけど沈黙よりいい。テレビ画面の明るさも薄暗闇よりいい。
 内心、イルカがホッとしていると、カカシはリモコンで背後も見ずにテレビを消してしまった。心細くなるほどふっと何も聞こえなくなる。柔らかな沈黙はすぐに痛いほどになり、視線を逸らすことのできないイルカはひくりと喉を鳴らした。
 真面目な顔をしてカカシがイルカを見つめている。いつもの軽い雰囲気はどこへいってしまったのか。今日はこんな顔ばかり見ている気がする。
 何か喋らなきゃ。喋って欲しい。見つめあったまま身動きもとれず、イルカはひたすら焦っていた。
 この感覚は知っている。胸の鼓動がうるさくて、血液が沸騰していそうで、息があがる。静かに呼吸ができなくて、全身で相手を探っていて、少しでも動いたら何かが始まる予感。
 唇がわずかにでも開いたら、目を少しでも閉じてしまったら、きっと顔が近づく。瞬きもできない、この緊張感。
そうなってもいい、むしろそうなりたいと腰の付け根から湧き出すのはまぎれもなく欲情だった。この人が欲しいと求めているのを否定できない。
 きっとこの人はそれにも気づいている。
「あなた、ラブって言ったんですって?」
作品名:いつか愛になる日まで 作家名:かける