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いつか愛になる日まで

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「火影様は彼女が忍のことを愛していることを知っていました。そうなるよう彼に命じており、報告も受けていたからです。・・・・・・気分の悪い話を聞かせてすみません。ここまでお話したらあなたもお気づきでしょうが、彼女は最初から利用できるだけ利用して捨てられる運命でした。木の葉はあらゆる手段を使って他国の情勢を集めていたんです。彼女の存在もその一つでした」
 火影が三代目だったとして、冷酷な顔を知っても驚くことはない。自分に向けていた好々爺然とした顔は多くある一面に過ぎないことは承知している。私情を捨てる非情さを持ち合わせ、腹黒くなければ里のトップなど務まりはしない。
「さて、ここでやっと『凍夜』が登場します」
 カカシは大きく息を吐いた。
「彼女を始末するよう指示されたのが『凍夜』でした。女は凍夜を愛していたんです。このとき彼は18歳で、数々の戦場で武勲をあげ、暗部の中でも指折りのエースに育っていました。特に通り名が『凍夜』だというのが暗部たちの間では納得でした。最初は初任務時の日のことを表していただけでしたが、彼自身が恐ろしく冷徹な忍になっていたからです。彼が発する気は味方をも切り裂くような鋭さで冷たく、彼より後で暗部になったほとんどの者が人柄から通り名をつけたのだと思い込んでいるくらいでした」
 イルカは想像した。なんの因果か、ただ才能があったというだけで子供の頃から暗部に所属して闇の世界で生きる冷徹な男。暗部内でも有名になるくらいだ。相当に汚い仕事をしている―。しかし、木の葉に生きる限りそのことに嫌悪感を持つことは許されない。彼もまた木の葉で生きる者なのだから。
 そして、この人も同じような過去を持っているのだ。イルカはそっとカカシの横顔を見つめた。
「火影様の考えがどうだったのかわかりませんが、彼女が愛した忍が凍夜だったことを考慮して暗殺に向かわせたというのは間違いないと思います。彼の前では彼女はすべてをさらけ出していましたから殺しやすいと思ったのか、最後に好きな男に会わせてやろうと似合わないことを思ったのか。しかし彼は彼女をまったく愛していませんでした、というより誰も愛していませんでした。人間の心なんてなくなるんですよ、暗部なんてやってると」
 当時を思い出したのか、忘れられないのか、カカシが一瞬擦れた口調になった。それからちょっとの間、カカシは黙っていた。イルカはその沈黙にカカシの苦しみを感じた。
 しんしんと夜が更けていた。静かだった。冬の夜は物悲しい気分にさせる。だからいつも文句を言いながらも仕事をしていたんだろうか。
「凍夜は彼女が眠っているときに毒薬を口に含ませて立ち去りました。ところが翌朝、死体となっているはずの彼女の姿が消えていたんです。凍夜がそれを知ったのは内乱が収まって数ヶ月後のことでした。彼女を愛していた男が凍夜を殺しにきたんです。二人の実力は歴然でした。男が暗部にかなうはずはなかったんです。それは二人が顔をあわせたときに互いが瞬時に理解しました」
 カカシのわらい声は聞いたこともないほど皮肉っぽくて、こんなわらい方もするのかとイルカは少し悲しくなった。この人は自分のわらい声がどんななのか気づいていないんだろうな。
「男は凍夜に洗いざらい話しました。女は生きていること、自分の子を身ごもっていること、凍夜を愛していること、住んでいるところ以外何もかも全部です。最後に人の感情のわからないかわいそうな人だと、一度でいいから考えればいいのにと凍夜に同情して死にました。でもね、イルカさん。凍夜は冷酷でしたが感情がなかったわけではなく、あえて感情を殺しているうちにわからなくなっただけなんです。生きていくために感情は邪魔なものでした」
 生きていくのに感情は邪魔、か。以前、カカシさんも言っていた。
 この人たちの世界はどんなだろう。里からは過剰に期待され、功績は闇にまぎれ、存在はあいまいで、畏怖され、ときに嫌悪される。何を目標に、何を楽しみに、何を支えに生きているんだろう、仲間の顔さえ知らずたった一人で。
 カカシさんの親族はすでになく、家庭もない。任務内容は口にできず、やりきれない思いや理不尽な思いを外に出すことができないのならば、すべては身体に蓄積されているんだろうか。心を許せる存在がいないことは精神を疲弊させる。昔カカシさんが身体を壊したことからも明らかだ。
 イルカは哀しかった。傷ついて、なお笑っていたカカシのことを思うとやりきれない。任務が終わって帰る家には食糧さえ置いてなく、誰にも迎えられず、ただ精神の崩壊を防ぐために他人より多めの休みをもらって身体を休める。
 自分たちが安穏と暮らしていた日々はこんなに近くの人を犠牲にしていた。自分だって時間を犠牲にして里の事務処理をしてきてた。他人より多くの残業をしてきた。それでも精神を崩壊させるようなことは起こらず、起こるとも思わず、仲間たちに支えられてきた。くだらない飲み会でくだらないことを喋り馬鹿笑いをして気分よく家に帰った。
 イルカさん、と柔らかな声で呼ばれ、物思いにふけっていたイルカは慌てて「はい」と横を向いて返事をした。
「つまらない話をしました。呆れていますか?」
 イルカはふるふると首を振った。それをカカシは優しい目で見ていた。
「私は愛を知りません。若い頃から戦場で過ごして心も凍えきりました。私は結局弱かったということなんでしょう。どこか壊れてて、いびつなんです。冷酷に人を切り捨てることはできても、人を優しく慰撫することはできません」
 優しい目に暗い影がさす。薄暗がりの中でもそれがわかる。この人は傷ついてもそれを治す術を知らないんだ。目を逸らすことしかできない。
「だから、あなたに惹かれたんだと思います。本当にあなたはあたたかくてまぶしい」
 カカシはにっこりと笑った。こんなに哀しくて素敵な人に、こんなにまっすぐな気持ちを口にされてクラリとよろめかない方がおかしい。イルカは泣きたいような笑いたいような気持ちで口を開いた。
「大丈夫ですよ。私が人の愛し方を教えてあげます」
 たぶんあなたよりはマシだから。
 先輩に『お前は恋愛したことがない』と言われたけど、この人にうんと優しくしたい。わがままを聞きたい。「おかえりなさい」と声をかけたい。でも、今はまず。
「カカシさん、明けましておめでとうございます」
 イルカがこたつの中で手を伸ばし軽く横腹を叩くと、カカシは組んでいた手をはずし、そっとイルカの手を握った。
「明けましておめでとうございます、イルカさん」
 イルカが少し震えている手を握り返したとき、時計の針は午前0時を過ぎていた。

 結局、『格子』はその後どのような人生を送ったのか、子供はどうなったのか、『凍夜』はどうしているのかなどはわからなかった。
 カカシは話さなかったし、イルカは聞かなかった。すべては終わったことだ。
 カカシの話はところどころで、第三者の立場を超えていた。たぶん『凍夜』はカカシさんのことなんだろうな、とイルカはなんとなく思った。火影様が『幼年時代から戦場にいた』と話し、『心が冷えるのも当然』と表現した。
作品名:いつか愛になる日まで 作家名:かける