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【米英←仏】フランシスの受難の一夜

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 まったく、今日はツイてない。夜道をとぼとぼと行きながら、フランシスは思う。
 週末だと云うのに仕事でトラブルが発生し、夜までその尻拭いに追われた。おかげで可愛いあの子と約束していたデートの予定は流れてしまった。
 ……というか、アレは振られたな。
 仕事で行けなくなった、と伝えただけなのに、さよなら、と返されたのである。まず間違いなく次はないだろう。
 肩を落としながら外に出ると、おいうちを掛けるかのごとく、雨が降っていた。気が滅入ることと云ったらない。どしゃ降りではないものの、それなりに地面を打ちつけているそれは、濡れて帰るには冷たすぎる。
 雨宿りがてらどこかへ飲みに行こうか、と考えて、行きつけのバーをフランシスは思いついた。あそこなら雨をしのげる上に、キャンセルになった今夜の相手まで探せて一石二鳥だ。
(よし、即決)
 さっそく、足を方向転換させた。

**

「――ああ、いらっしゃい」
 カランカラン、と呼び鈴を鳴らしながらドアが開く。入口を抜けると、マスターがカウンター越しに常連客を歓迎してくれた。こんなバーを営むとはおおよそ思えない、渋く男らしい雰囲気のマスターである。
 フランシスは軽く手を上げ、カウンター席の一つに陣取る。とりあえず軽めにジントニックを頼んでから、カウンターに一人でいる男性客にそっと目を向けた。
 ここはいわゆるゲイバーだ。フランシスは女も好きだが男も好きで、いわゆるバイセクシャルである。美しければ性別は問わない、愛さえあればどちらだろうが気にしない、それが彼の持論だ。ゆえにこういった場所に出会いを求めて来ることもしばしばで、今日もそのために足を運んでみたのだ。このささくれた心を癒してくれる誰かがいれば良い、という希望を胸に抱きながら。
 カウンターにはフランシスのほかに三人の男性客がいた。相手を募集している者はカウンターに座るというのがここの暗黙のシステムだ。好みの者がいれば声を掛け、双方の意見が合致すれば一緒に飲むも良し、店を出てホテルになだれこむも良し。まぁゲイ同士でちびちび酒を飲みかわすだけで終わるということはあまりなく、ほとんどは前者を経たのち後者の流れとなるのがセオリーというものである。
 さて、カウンター席の三人のうち、二人は残念ながら好みではなかった。一人はポッチャリしすぎているし、一人は髪が薄すぎる。どちらもよほどのマニアでなければ、声など掛けないだろう。今日は外れか、となかば諦めながらも、奥に座っている三人目に目を向ける。
 ――ああ、神はいた!
 フランシスは思わず心の中で叫んだ。彼はかなり自分好みの外見をしていたからだ。
横顔でも分かるくりんとした大きな目。小作りの鼻と口は可愛らしく、眉だけがやけに主張しているけれど、愛嬌があると云えなくもない。二十歳そこそこといったところだろうか。狙っていたより若いが、この際、歳なんてどうでもいいに等しい。柔らかそうな金髪は多少跳ねているが、そこがまた無防備さをさらけ出しているようで魅力的だ。
 身体つきは見るからに華奢だが、それも悪くない。グラスを傾ける手は白く細く、掴んだら今にも折れそうだ。あの手を握れたらどんなに良いだろう。
(って、見てる場合じゃねえよな)
 これまで彼に話し掛ける者がいなかった幸運に感謝しながら、フランシスはマスターを呼ぶとカクテルを注文した。それは自分にではなく、彼へと捧げるものだ。ここでは気になった相手に直接声を掛けるのではなく、こうして酒を相手に注文することで誘うというのがスマートなやり方である。向こうが嫌なら酒は断られ、自分のところに戻ってくるというわけだ。――さあ、彼は誘いに乗ってくれるか否か。
 マスターが出来上がったカクテルをグラスに注ぎ、彼の前に置いた。顔を上げた彼は、きょとんとした様子でマスターに向かって何か云った。頼んでない、といったところだろう。彼の歳でこんなところに来ているのは珍しいと思ったが、やはり不慣れな様子だ、小首を傾げた姿がまた初々しい。じっと見守っていると、マスターがフランシスのことを話したようで、彼はこちらを見てきた。即座に微笑みかける。良ければそっちかこっちで飲まないか、と身振りで表現すると、ああ、と漸く理解してくれたらしい彼は、じゃあこっちで、と彼の隣の椅子を差した。……やった!
 内心でほくそ笑むと、フランシスはいそいそと立ち上がった。

 **

「よお。次はてめえの番かよ?」
 だが見た目からの想像に反して、傍に寄ると、その男はぞんざいな口調で云った。
「この俺を相手にしようってんだ、さぞや自信のほどはあるんだろうな、ああ?」
「は?」
 近くで見れば、想像以上に相手が酔っていることにフランシスは気づいた。どれだけ飲んだのかは分からないが、自分を見る目はとろんとしている。色っぽいと云えなくもないが、それよりも彼の乱暴な話し方と、何よりも台詞の内容にフランシスは呆気に取られた。
 次は自分、とはどういうことだろう。
 思わずマスターを見るが、わざとらしく視線を外されてしまった。怪しい。
 マスターからは聞き取れそうにないので、仕方なく向き直る。すると彼は、得意げに右手の指を三本立ててみせた。
「お前で三人目だ。俺が勝ったら、飲み代は全部払ってもらうぜ?」
「……」
 フランシスはようやく、相手の云わんとしていることが分かった。要するに、彼は自分を飲み比べ対決の挑戦者と思っているわけだ。しかも既に二人抜きをしているという。彼に声を掛ける者がいなかったというのは、勘違いもいいところだったようだ。
(云ってくれよ、マスター!)
 抗議の意味を込めてカウンターの向こうを見るが、そ知らぬふりで別の客へのカクテルを作っている。文句を云うのは諦めたほうが良さそうだ。
 それに、ひとつ、気になることがある。
「じゃあもし、俺が勝ったら?」
 その可能性は充分にあるはずだ。自分が勝った場合の条件を確認しておきたい。尋ねると、彼はフランシスがあげたカクテルを見つめながら答える。
「そうだな。……そのときは、お前の好きにしていい」
「……!」
 その言葉は、フランシスの萎えかけていた気持ちを再び奮い起こすには十分すぎた。がたん、と椅子を彼に向き直らせると、姿勢を正す。
 店内の薄暗い照明の下で見る目の前の男はうっとりした様子で、あと数杯も酒をあおれば簡単に落ちそうな気がした。この分だとすぐにお持ち帰り出来るのではないか。そこまで考えて気づいた。なるほど、マスターの目的はそれか。
(早く酔い潰して帰したいってことね……なら一役買ってやるとするかな)
 何のことはなく、据え膳食わぬは――というやつである。
「やんのかやらねえのかどっちだよ? とりあえずコレは貰うぜ」
 フランシスの返事がないことに早くもしびれを切らしたらしい、彼は手の中のグラスを口につけると勢いよく傾けて中身を飲み干した。あらわになった細い喉元から、ごくんごくん、と音が鳴る。
「……良い飲みっぷりで」
 グラスに半分以上は注がれていたはずの中身はほとんど一瞬で空になっていた。半ば感心し、半ば唖然としながら感想を述べると、彼はグラスをテーブルに戻してから己の口元を手の甲で拭う。