二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
逢坂@プロフにお知らせ
逢坂@プロフにお知らせ
novelistID. 16831
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

【米英←仏】フランシスの受難の一夜

INDEX|2ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

「別に、これくらい何でもねえよ。で?」
「いいよ。やってやろうじゃない」
 彼は満足そうに目を細めた。
「良し、マスター! 同じやつ、ボトルで」
「っていきなりボトルかい!」
「何だよ、文句あんのか?」
 むっとした様子で彼は向き直るとフランシスを見つめる。視線には甘えるような色を含んでいて、思わずどきっとしてしまう。やっぱりこいつ可愛いな、と思った。相変わらず口調は可愛くないが。
「……いや、ないない。じゃ、まずは乾杯するか?」
「何に?」
 フランシスはいつも誰かを口説く時に見せる、とびきりの笑みを浮かべて甘く囁いた。
「それはもちろん、二人の出会いに――」

 **
 
 こうして一緒に飲むことになった二人だが、考えてみればまだお互いの名前も知らなかった。フランシスが自分の名を名乗ると、彼は「……アーサー」とぶっきらぼうに云った。アーサー。良い名前だな、と呟く。すると彼は「……そうか? 別にありふれた名前だろ」と答えるが、少し照れた様子だった。褒められて悪い気はしないらしい。よくよく観察して見れば、なかなか分かりやすい性格をしている。
「アーサーは恋人いるのか?」
 こんなところに来ているとはいえ、恋人もちじゃないとは限らない。フランシスは念のため聞いてみた。あまりに直球の質問にアーサーは戸惑ったようだったが、いや、と首を横に振る。
「……いねえよ。いるように見えるか?」
 良かった。三角関係のゴタゴタは避けられそうだ。
「そりゃあ、可愛い顔してるしな」
「か、可愛い顔って……どうせ童顔だよ」
 気にしているのか、彼は嫌そうに顔を背ける。俺は良いと思うけどな、と心の中で答えながらフランシスは話を戻した。
「いやね、今夜は随分と飲んでるから、何かあったのかと思ったんだけど……恋人とってわけじゃないのか」
「関係……ねえだろ」
 そう云う声はなんだか消え入りそうだ。
「まぁ、そうだけどな。話したらスッキリするんじゃないか? 俺で良けりゃ話聞くけど」
 出来るだけやんわりと提案してみる。するとアーサーはしばし云うか云うまいか迷っていたが、やがてちいさな声で呟いた。
「……恋人じゃねえけど」
「ん?」
 それは騒がしい店内では聞き耳を立てないと聞こえない程度の声だった。フランシスは続きを待つ。
「喧嘩したんだ」
「誰と?」
 尋ねると彼は吐息混じりに云った。
「弟」
「……は?」
 弟、って云ったか? あまりにも唐突に響いた単語に、フランシスは思わずぽかんとして聞き返す。果たしてそれは聞き間違いでも幻聴でもなかった。
「だから、弟とケンカしたんだよ!」
 アーサーは半ばヤケという感じで繰り返した。
「……ああ、弟がいんのか」
 それはいてもおかしくない。で? と先を促す。
「ああ。四つ下なんだけど、近頃あいつ、反抗期で……」
「反抗期というと、十五、六くらいか?」
「いや、今年で十九」
「……そりゃまた遅い反抗期で」
 いや、ちょっと待て。じゃあこいつは二十三なのか、と計算してフランシスは驚く。二十歳そこそこかと思っていたからだ。まぁいいけれども。
「あ、血は繋がってねえんだけどな。あいつは義母の連れ子だから……八年前、うちに来たころはどこに行くにも俺の後を付いてきて、俺の云うこと何でも聞いてくれて、そりゃあ可愛かったんだぜ」
「あ、そう……」
 弟自慢はどうでもいいんだけどな、と思いながらも話を合わせてやる。
「で、何でケンカしたんだ?」
「あいつ、家を出るって」
 フランシスは再び、へ、と間の抜けた声を出すこととなった。聞き取れなかったと思ったのか、彼は説明を加える。
「うちを出るって行ったんだ。あいつ、二年前にもそう云って家出して、そのときはまだ高校生だったから俺が探し出して連れ戻したんだけどな。今度は大学に入るから一人暮らしするって云い出して……」
「はぁ……」
 させてやれよ、とは答えたら駄目なんだろうな、コレは。フランシスが返事に窮しているうちにアーサーは感情を高ぶらせてしまっていた。
「止めようとしたら、あいつ、俺のことウザいって……っ」
「お、おい……」
 目の前の大きな碧眼がゆらりと揺れ、フランシスは慌てる。だがみるみるうちにそれは潤んでいった。
「ウザいって云ったんだ。ひでえだろ? あんなに面倒見てやったのに、俺のこと鬱陶しいって……っひっく」
「おいおい、泣くなよ。弟だって本気で云ったわけじゃねえだろ」
 焦りながらポケットからハンカチを取り出して差し出す。アーサーはそれをひったくると鼻をかんだ。
「いや、あいつは本気だった! ううっ」
「そりゃ、困ったな……」
 正直なところ、困っているのは彼よりもフランシスである。彼には悪いが、初対面の自分ですらちょっと鬱陶しい。……とは口が裂けても云えそうにないが。
「あー、まあ、とりあえず……飲め。な?」
「……おう」
 こうなったら、意地でも今夜はコイツを持ち帰ってやる――。そう心に決めて、グラスに酒を注いだ。

 **

(こんなに酒癖が悪かったなんて、聞いてねえぞ……!)
 それから二時間後、フランシスはげんなりしていた。肩口にはアーサーの頭がある。彼はおとなしくフランシスに負ぶわれて、寝息をたてていた。……さきほどまで暴れまくっていたのが嘘のように。
 アーサーはというと酷いものだった。いかに昔は可愛かった弟が今は憎たらしく変わってしまったかについて切々と語り、いい加減に辟易したフランシスがそんなことよりお前さん自身のことが聞きたいんだけど、と口説くと、そんなこととは何だと切れて絡む始末。だが何より最悪だったのは、最終的に限界を超えた彼が店内でげえげえと吐き出したことだろう。飛んできた店員に店を追い出されたのは、夜更けをとうに過ぎた時刻だった。
 そして今、フランシスはアーサーを背負ってとぼとぼと真夜中の繁華街を歩いている。確かこのあたりにあったはずの安ホテルを探しながら。
 幸い雨はもう止んでいるが、何の慰めにもならない。
 予定通りに潰させたとはいえ、予想以上に酷い目に遭わされているな、とフランシスは溜息を洩らした。

 **