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嘘をつく人

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「ああ、そうだ。帝人くん、君に言っておかなくちゃいけないことがあるんだ。

 俺ね、君が好きなんだよ。」


その言葉を聞いた時、なんて性質の悪い冗談なんだと、僕は苦虫を噛み潰したような渋い表情になった。

臨也さんは僕がその異様な『告白』を全く本気にとらなくても、全然構いやしないようで、あの、いつものへらにへらとした表情で笑っていた。



こう見えて僕は今まで何事も無く平凡に生きてきただけあって、他人の顔色を窺うのは得意な方だと思う。
空気も読める方だと思うし、他人の気持ちにもまぁ敏感な方だと思っている。
それは、この世の多くの人が世の中を上手く渡って行くためには必要不可欠な能力のはずだ。

けれどたまに、稀に、その手の能力を一切遮断し、『自分』を見せない様にする人種が居る。
それが、臨也さんだった。
他人に冷たい様に見えて、人間を愛する臨也さんは妙に僕に懐いた。
自分で言うのもなんだけど、何の取り柄も無い平凡な僕に。

臨也さんは良く『その驚くほど平凡な中に隠している秘密を俺は暴きたいんだよ。』と、笑っていたけど。
僕自身知らない僕の『秘密』など、暴こうとしても暴けるわけも無いだろう。

僕は最初、得体のしれない臨也さんが苦手で仕方が無かった。


「や、帝人くん。」
休日の午後3時。
惰眠を貪る僕の元へ臨也さんはよく現れる。
「・・・なんですか?」
「ふふ、その声のトーンといい、格好といい、ついさっきまで寝てましたって顔だね。」
「わかってるならこんな真昼間に来ないで下さいよ。」
「えー。帝人くんてばツれないね〜。少し付き合ってよ。」
臨也さんが僕を誘う理由なんて一つだ。
僕は若干目を輝かせて、期待した声で聞いた。
「…今度は、何処のお店ですか?」
「この前行ったお店の近くにね、新しく甘味屋が出来たんだよ。」
「っ、和菓子ですか?」
「好き?」
「はい、ちょっと待ってて下さい。」
僕が慌てて部屋に引っ込むのを見て、臨也さんはクスクス笑う。
そう、今時珍しくも無いが、僕はスイーツ男子だった。
最近の傾向では男性同士でカフェに入ってケーキを食べるのも珍しくない。

意外だったのは、臨也さんも甘党だったことだ。

『…帝人くんて、甘い物嫌いじゃない?』
最初にそう言われたとき、僕は思い切り喰いついてしまった。
ああいう店はさすがに1人では入りにくい、とか言って、彼女も居ない。
どうしても入りやすいお店は決まってきてしまう、と。
『俺はあんまり気にしないけどね。良かったら、今度一緒に行く?』
僕は喜んで頷いた。

慣れてないうちは臨也さんに気を使って疲れてしまうのではないかと思っていたが、臨也さんは話し上手だった。
博識、と言うのだろうか、臨也さんは色々なことを知っていた。
けれど、臨也さんと話しているとこの世の正論が何なのかわからなくなるのが、難点だ。
『・・・帝人くんてバカじゃないよね。』
『え…あまりテストは得意じゃないですけど。』
『違う違う、愚かなバカでは無いってこと。空気読むの上手いでしょ?』
『…はぁ、まぁ。』
『他人の気持ちにも敏感だし。』
『・・・臨也さんが今何を考えているかは謎ですけど。』

僕がそう言うと、臨也さんは声をあげて笑った。


『もし、今俺が考えてることを帝人くんが知ったら、君は今此処には居ないよ。』


臨也さんは油断ならない人だ。
それが僕の臨也さんへの評価だった。

「みーかーど、くん。まだ?それとも着替えを手伝ってほしいアピール?」
「違います、今出ます。」
僕がドアを開けると、臨也さんは「残念。」と笑った。

臨也さんに連れられてきた店は、失敗したことがない。
情報屋という職業は、こんなほのぼのとした情報まで必須なのかと思うと、少し微笑ましい。
「クリームあんみつが絶品らしいよ。」
「あんみつなんて、久しぶりです。」
僕が笑うと、臨也さんは目を細めて僕の頭をぽんぽんと叩く。
「あんみつくらいで喜べるなんて、帝人くんは安い子だねぇ。」
「な、臨也さんだって内心喜んでるくせに。」

「うん、喜んでるよ。嬉しくて、涙が出そうなくらい。」

臨也さんはまたにへらと笑いながらそう言った。
本音がどうなのかなんて、僕に悟らせる気なんてない。

クリームあんみつは噂通り絶品で。
臨也さんはまた下らないようで面白い話をしてくれて。
心を許しすぎるのは危険だと、そう感じながらも僕は臨也さんと過ごすこの休日が楽しくなっていた。

まずいなぁ。と、思う。
臨也さんはきっといつか僕を裏切る。
そんな予感がした。『裏切り』とは、どんなものなのかも知らずに。

毎週のように休日を僕と過ごす臨也さんには恋人は居ないのだろうか?
今までそんな踏み入ったことは聞かなかったけど、なんとなしに聞いてみた。
「臨也さんて、恋人は居ないんですか?」
臨也さんはにや〜と、嫌な笑みを浮かべた。
心底楽しそうに。
「気になる?」
「え、まぁ…ちょっと、は。」
臨也さんは楽しそうだ。恋愛トークで盛り上がれるタイプだったのか、この人。
本当に、読めない。
「居ないよ。絶賛募集中。」
「へぇ、意外ですね。」
僕は素直に言った。
臨也さんは少し変わっているが、話し上手だし、顔も格好いいし、スタイルも良い。
…職業柄、おいそれと特定の人と付き合えるわけではないのかもしれないが。
「そう?」
「はい。」

もし、恋人が居れば、その人には本当の顔を見せたりするのだろうか。
僕はそんなことが気になった。

帰り道、まだ5時前なのだからわざわざ送ってくれなくても良いという僕に、臨也さんはどこまで本気なのか、
「俺がもっと一緒に居たいんだよ。」と言って、送ってくれた。

日が長くなった。
傾き始めた夕日に照らされて、臨也さんは鼻歌を歌って歩いている。
僕は機嫌が良いんだなぁ、と、思って臨也さんを見ると、目が合った。
「ね、帝人くん。」
「はい。」
「手、繋がない?」
臨也さんはすごく楽しいことを思いついたかのように言う。
「はぁ?」

僕が「嫌ですよ。」と言っても、臨也さんは知らん顔で僕の手を握る。
それを振りほどくほどには嫌でも無かったのと、周りには人が居なかったのもあって、僕たちはそのまま歩いた。
臨也さんの手は妙に熱い。
なんとなく手が冷たいイメージのある人だったので、意外だった。

僕んちのアパートに到着して、僕が礼を言うと、臨也さんはさも今思い出したかのように言った。

作品名:嘘をつく人 作家名:阿古屋珠