嘘をつく人
「ああ、そうだ。帝人くん、君に言っておかなくちゃいけないことがあるんだ。
俺ね、君が好きなんだよ。」
なんだそれは。
僕は一瞬理解できなくて、理解してからは渋い顔をした。
臨也さんは今自分が言ったことも気にせずに、「危ない危ない、言い忘れるとこだった。」と、笑う。
「・・・なんで今突然そんなわけわかんないこと言うんですか?」
今日の臨也さんは全体的にずっとテンションは高めだった、気がする。
いつもと変わらないだろうと、そう言われてしまえばわからないくらいに若干。
そして、最後にはこれだ。
なにかがおかしい。
「わけわかんないかなぁ、すごく単純なことを言ったと思うんだけど。」
臨也さんは楽しそうだ。
僕の言葉に、からかうでも憤慨するでもなく、いつもと同じように笑う。
微妙な違和感を感じさせない。
「…一応有り難く受け取って置きます。」
「ほんと?」
臨也さんは「帝人くんは良い子だね。」と言って、また僕の頭をぽんぽんと叩く。
「だから、好きになったんだ。」
ちょうど逆光で、そう言った臨也さんの表情はよく分からなかった。
折原臨也が死んだ。
そんな噂が池袋の街に流れた。
それが事実か嘘か、臨也さんからの連絡はあれから無かった。
臨也さんの連絡先は一応ケータイ番号とアドレスは知ってる。
けど、僕からかけたことは無いし、臨也さんからかかってきたことも無い。
今さらかけて、もし出たらなんて言えば良いのか。
『死んだのかと思ってました』?
そんな、まるで心配してるみたいに。
…心配は、してるけど。
臨也さんに連れてきてもらったお店は多い。
その中でも何度か来たことのあるお店に僕は足を運んだ。
このお店だって臨也さんと何度か来たからこそ1人で入れるようになった。
・・・次会ったときは、僕の方から美味しいお店を紹介してみても良いな。
「1人です。」と、店員さんに伝えて、空いてる席を探すと、女性ばかりの店内で唯一の男性を見かけた。
その、見知った顔に、僕は思わず近寄る。
その人は気配でわかったのか、顔を上げて「ああ。」とにこやかに笑った。
「こんにちは。合席どうぞ。」
眼鏡をキラッと光らせて、新羅さんは僕に向かいの席を促した。
「帝人くんも甘い物好きなんだね〜、知らなかったな。僕もなんだよ。」
正直新羅さんとはあんまり話したことは無いが、何度かお世話になっている。
新羅さんはいつもと変わらない口調で話していた。
そのことに僕は安堵した。
「はい。此処は何度か、臨也さんに連れてきてもらって。」
「え?臨也に?」
「はい・・・そういえば臨也さんの姿を最近見ないんですが…お仕事お忙しいんでしょうか、何か知ってますか?」
そう言った僕に新羅さんは「あー、うん…。」と、言葉を濁す。
「たぶん、もう生きてないんじゃないかなぁ。」
「・・・・え?」
「いや正確に言うとね、僕もよくわからないんだよ。臨也が生きてるか死んでるか。」
新羅さんは苦笑して、「ごめんね。」と言った。
僕は茫然としたまま「いえ…。」と言うしかなかった。
「それにしても、この店に臨也と来たんだ?帝人くんは。」
「あ、はぃ・・・。」
僕が頷くと、新羅さんはにっこりと笑った。
「あいつね、甘い物って死ぬほど嫌いなんだよ。」
「僕が何度美味しいから、って誘っても一緒に来ようとしなかったのに。」
「愛だねぇ。」
そんな風に呟く新羅さんの声が、茫然とした僕には遠くの方で聞こえた。