チョコレートと二人
おまけ:2月15日の二人
ーーーーー恋戦日和だった二人
(恋人、か。俺がこんな子供に本格的に捕まっちゃうとはねえ)
まあそんなに悪い気分ではないな、と思いつつ、傍らに身を横たえた少年を見る。帝人は臨也があげた指輪をはめずにじっと光にかざして見ていた。無言で彼の左手をとって、指輪をよこすよう促す。
「臨也さん」
「ん?」
薬指に指輪をはめてやろうとしたところで、声をかけられる。帝人の声は少し掠れている。寝起きのせいと、それ以外の理由もあるだろう。昨夜の情事を思い出す。ちょっと夢から覚めきれないような、とろっとした目で見つめてくる帝人に、胸が温かくなった。自分でも驚くような優しい声で返事をしてやる、とーーー
「そういえば、バレンタインの贈り物の返事ってホワイトデーにすればいいんですよね、一般的に」
「え、」
なにそれ、まだちゃんとつきあう気になれないとか言うわけ? どの口で? 昨日俺に抱きついて散々啼いてたこの口で? ぎゅう、と頬をつまんでやると、痛いですと訴えられた。でも帝人の目は笑っている。冗談のつもりなのだろう。
当然だ、この上1ヶ月も宙ぶらりんな状態を続けるなんて、それこそ冗談ではない。
深みに嵌る事を怖れて回避していた関係だけれど、一度手に入れてしまえば、手放す気には到底なれなかった。
ーーーーーチョコレートはひとつでよかった二人
「臨也さん、鍋に残った大量の溶かしチョコレートどうするんですか」
「うん?飲んでいいよ?」
「いりませんよ!材料の話を横に置いたとしても、そもそもそれ、美味しくないです」
「へえ、そうなんだ。バレンタインに贈られたチョコなんて、いわば愛情そのもの……そんな数多の恋心を凝縮したら不味くなるだなんて、皮肉なものだね」
「ポエムみたいな言い方したって駄目ですよ。恋心も市販のチョコも、他と混ぜるべきではないです」
「でもさ、帝人君からしたら、俺が他の人間から貰ったチョコを他と一緒くたにしたり捨てたりしたって、別に大したことじゃなくない?むしろ『結局バレンタインに臨也さんは僕からのチョコしか食べなかったんだ……臨也さんってばそんなにも一途に僕のことを、』ってときめいてくれてもいいと思うんだけど。この事実重要」
「え、あ、え!?あれ、そ、そういうことになるのかな……って、誤摩化されませんよ!僕からのチョコしか食べなかったのは、他人からのチョコは僕に食べさせて反応見ようっていう嫌がらせの結果じゃないですかあああ!」
「それはまあ、それだよ。チョコレートなんて、本命からのひとつがあればいいって思ってるのも本当だよ」
「どんなにいい感じの台詞を吐いても、あんなもの飲まされた後ではもうチョコ関連の話でときめいたりできませんから」
「そう?残念。じゃあバレンタインはこれで終わりってことで、さーホワイトデーにはどんなことしよっかな」
「!?」