二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

チョコレートと二人

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

チョコレートはひとつでいい




 バレンタインデーは予定空けといて、とつきあっている相手から言われた。恋人がいるバレンタインなんて僕は初めてだ。男同士だしどうしようかと思ったけれど、一応チョコレートも準備しておいた。買うのはものすごく恥ずかしかったけれど、臨也さんは甘いものが嫌いではないはずだから、喜んでもらえたらいいなと思う。

 いざ当日、学校が終わってから彼の家に向かう。外はすごく寒かったから、部屋にいれてもらってあたたかさにほっとした。そして、部屋のなかにただよっている甘い香りに気づく。

「外寒かったでしょ。はいこれ、あったまるよ」

 香りのもとは、笑顔で差し出された飲み物だ。柔らかで深い茶色。疑いようもなくチョコレートだろう。
 正直びっくりした。臨也さんからバレンタインチョコをもらえるとは思っていなかった。しかも、ホットチョコレートだから、まあ手作りと言ってもいいだろう。牛乳にチョコを溶かしただけだろうから凝ったものじゃないけれど、そういうことは大した問題じゃない。素直に嬉しいと思った。

「あ、ありがとうございます。…いただきます」
「どうぞ」
 勧められるままカップに口をつける。

(……?)

 なんというか、変わった味がした。

(あれ?なんだろう、これ。普通にチョコを溶かしただけじゃないのかな?)

 すごく不味いわけではない。全体的には安っぽいチョコの甘さではない、高級なカカオの味がする。だが、美味しいというわけではなかった。実に複雑な味だ。チョコレート以外に、オレンジかレモンかといった柑橘や苺のような果実の味がするし、よくわからないが洋酒らしき風味も感じる。不思議に思いつつごくりと飲み下すと、すうっとした後味が舌を冷やし、わずかに辛みが残った。これはミントと生姜ではないだろうか。正直いろんな素材を混ぜ過ぎたために、味の調和がとれていないと思う。
 思わず固まってしまった僕を、臨也さんは興味深そうに眺めている。彼自身は手製のホットチョコレートを口にするつもりはないようだ。その視線に、居心地が悪くなる。これは明らかに観察する目線だ。

「それ、美味しい?」
 臨也さんが尋ねる。手作りのお菓子の感想が知りたいのだろうか、そういう雰囲気でもない気がするのだけれど。

「ええと……臨也さん、これ、チョコ以外にも色々入れました?」
 バレンタインに恋人がくれたものなら嘘でも美味しいというのが良いのかもしれないけれど、どうせ嘘をついたところで見抜かれるだろう。そう思って正直に不思議に思った点を聞いてみた。
「いや、チョコレートしか入れてないよ。俺はね」
(俺は?)
 他にこれを作るのを手伝った人がいるのか。そう聞いてうんと答えられたらちょっとへこむかもしれない。そう考えて、けれど浮かんだ疑心を消せず、僕は視線をうろうろとあたりにさまよわせた。 
 そこで見つけたものがある。部屋の隅、ダストボックスからあふれんばかりになっているカラフルなリボンや紙類。おそらくプレゼント用の包装の残骸だろう。なんのプレゼントかは、今日この日を考えれば答えはひとつしか無い。バレンタインのチョコレートに決まっている。それも、臨也さんがもらったーーー

(あ?)

 僕は自分の手の中のカップを見下ろした。オレンジ、レモン、苺その他のベリー類。たぶん一種類ではない洋酒。ミントに生姜。料理音痴の人でも、これらをいっぺんにチョコレートとまぜることはないと思う。でも、チョコとそれぞれの要素どれかひとつの組み合わせならおかしくない。むしろそれだったら、市販で売られているような美味なチョコレートのお菓子の味になるのではないか。トリュフや生チョコやウィスキーボンボンやフレーバーショコラなどの。
 いや、『そうだった』のではないだろうか。

「……臨也さん、これもしかして」
「うん?」
 臨也さんの瞳が細められた。悪魔の微笑みだ。
「臨也さんがもらったチョコレートを、全部溶かして混ぜたもの、ですか?」

 回答は、最高に面白いと言わんばかりの恋人の笑顔だった。




「なんてもの飲ませてくれるんですかああああ!!!」

 思わず僕は叫んだ。仕方ないと思う、まさか恋人からわたされたチョコレートが、他人から彼へ贈られたものだなんて予想もできない。ひどすぎる。

「そんなに怒らないでよ」
 宥めるようなことを言いつつ、臨也さんは明らかに笑っている。この人本当に性格悪いな!
「いっぱいチョコレートもらっちゃってさあ、困ってたんだよね。俺も甘いもの割と好きだけど、さすがにそんなに沢山チョコばっかりっていうのはねえ。でも、俺を好きだってくれた気持ちを無下にするわけにもいかないだろう?」
(全然平気で無下にできそうですけど!っていうか、今現在のこれが無下な扱いでなくてなんだっていうんだ)
 臨也に食べてほしくて贈ったチョコが、砕き溶かされ臨也以外の人間の腹に納まるなどと、贈り主の女性達も思わないだろう。
「だからさ、一つにまとめたらいいんじゃないかと思いついたわけ。俺に贈られたチョコを食べた帝人君を俺が食べれば、一応全部食べたことになるかなって」
「なりませんよ!!」
(どういう思考なんだ!)
 嫌がらせか。そもそも僕がチョコを食べる、というのと臨也さんが僕を食べる、というのは明らかに意味が違う。ああやっぱり嫌がらせに違いない。なんだかんだ言って、単に僕がこうやって怒るところが見たかったとかそういうことなんだろう。腹立ちが収まらず、僕は思わず自分が買ってきたチョコレートを臨也さんに投げつけた。贈られたチョコにたいしてこんな扱いをしていると知った今、ドキドキしながら渡すとかいう雰囲気にはもうなれないし、ちょうどいい。しかし片手で軽く受け止められた。ちょっと癪だ。

「え、なにこれ、チョコ?帝人君から俺に?」
「そうですけど!……あ、やっぱり返して下さい、自分で食べます」

 それも溶かされて誰か別な人に飲まされたりしたら嫌ですから!と言うと、まだ笑いかけの顔で、え、嫌だよ、これは俺が食べる、と返される。「それに他の人間に飲ませる理由がないよ」と続けられて。
「もらったチョコをひとまとめにするのに帝人君に飲ませようって思ったのは、帝人君の事が一番好きだからだし。なのになんで、その帝人君からもらったチョコを他の奴にやる必要があるのさ」
(うわあああ…)
 平然と言う臨也さんに、僕は思わずため息をつきたくなった。
「嬉しくない、こんな状況で好きって言われたって嬉しくないです」
 嘘だ。頬が熱くなる。見事に振り回されて正直悔しい気もするけど、でもやっぱり嬉しい。
(こんな態度、わざとやってるならやっぱり臨也さんは性格悪い)
 心底そう思う。でも臨也さんは僕が嬉しくないと言ったのが不服みたいで、眉を顰めてる。その上「なんで喜ばないの、俺は帝人君から好きって言われるといつも嬉しいけど」と言い出したので僕は言葉に詰まった。僕は普段ほとんど好きなんて言葉を口に出さない。言うとしたらそれは、まともにものが考えられなくなっている状態の時でーーー

「で、もう食べていいのかな、君のことは」
 などと笑いを含んだ目で言うひとの悪い恋人を、僕は睨んだ。



作品名:チョコレートと二人 作家名:蜜虫