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鬼火

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 おれが目をさましたことに気づいたのだろう。鬼はぶんと手に持った槍をふった。
「さっさと出やがれ」
「……あ……」
「けけけ」
 ぽっとカボチャの前にあらわれた焔におれはびくりと身体をふるわせた。遊んでんじゃねぇと鬼はカボチャにげんこつを落とす。
「おめーは今から歌舞伎町収容所に向かうんだよ。逃げようなんてした日にゃあ命はねぇからな。ま、たどりついたからっていいことなんざないけどな」
 今度こそちゃんと連れて来いとカボチャに向かってすごむと、鬼はついてこいと合図をする。おれは言われるままにふらりと立ち上がり、一歩踏み出した。
 部屋の外に出て、おれは自分が牢屋の中にいたことを知った。鬼は二つ先の牢屋を覗きこみ、ひょろりとした人影を引きずり出していた。
 ひいいお助けお助けなのですとわめく人影の腕をむんずとつかみ、さらに歩を進めていく。
「いけ」
 カボチャの声にびくりと身体を震わせると、おれはふらふらと鬼の後を追い始めた。そんなやりとりの間にも、鬼はもう一人捕まえている。今度の少し太い人影は静かだった。
 ふらふら、ふらふらと。縄を打たれているわけでもないのに、おれはおとなしく鬼の後を追った。エレベータを使う前に、ちらりと鬼はこっちを見た。だが、逃げようとするそぶりが一切見られないおれの姿に安心したんだろう。一つうなずくと、あとは放っておかれた。
 促されるままに建物を出たところで、手首をくくられた。映画で見た奴隷商人に連れられた商品みたいに、他のひとたちとひとまとめにされる。端を握った鬼が、きりきり歩けと槍をふりまわしたので、おれたちは少しおびえてから歩き出す。
 久しぶりの外はとてもまぶしかったから、おれは久しぶりに先生やクラスメイトたちのことを思い出した。多分みんなもう生きてはいないんだろうなと思うと、少し悲しい気がした。

fin.
作品名:鬼火 作家名:東明