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ぐらにる 眠り姫6

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戦争なんてものは、なければいい。けれど、実際は世界のどこかで、常に繰り返し行われているありきたりの行為だ。そこには、戦争と関係のない人間もいて、関係もないのに巻き込まれる人間もいる。避けようがないから、不幸だったと感想するしかない。
「眠り姫、シリアスな顔をしているな。」
「そうかな。ニュースを見ていたら気が重くなった。」
「ん? 」
 つけられているのは、どこかの小国同士の小競り合いが始まったというニュースだ。農業をしていた人たちは畑を焼かれ、難民として、別の国へ流れて行くというようなドキュメンタリー仕立てのものだ。どこかで、何かがひっかかるような気がするのだが、考えると頭痛がする。
「そういうものは、きみが見るには相応しくない。」
 そう言って、彼はチャンネルを変えて、何かの自然派のドキュメンタリーに変えた。元テロリストという肩書きがある俺が、難民を気にするのはお門違いではある。たぶん、以前は、俺も、難民を作り出していた原因だろうからだ。
「同情するのも、おこがましいと思うか? 」
「そうじゃない。きみは、優しいから心を痛める。だから、極力、きみの胸を痛めるものは遠去けたいと願うだけだ。」
「・・・優しくなんかない・・・」
「いや、きみは優しい。私が疑問に思うほど、きみは思い遣りに溢れた眠り姫だ。なぜ、きみがあそこにいたのか、私には理解できない。」
「思い出したら、凶悪なテロリストになるのかもしれないぞ。」
 そう、俺が脅すように言ったら、彼は大笑いをして、俺にキスをした。最近は、よくされるから、あまり気にならない行為になってきた。
「凶悪か、眠り姫に最も相応しくない表現だろうな。・・・きみは、凶悪なんかじゃなかったさ。おそらくは、信じるものがあったから、あそこで戦っていたんだ。心は痛めていただろうが、それさえ、隠してな。」
「見て来たように言う。」
「見なくても、今のきみを見ればわかるさ。きみは、私に疑問すら抱かずに、私のためにできることをしようと考える。・・・そんなこと、思い遣る心がなければ不可能だ。」
 そうだろうか、彼に寄りかかりながら変えられた綺麗な映像ばかりの画面に目を向けた。どうしようもないほど壊れた俺には、何が信じられるものなのかさえ、わからない。目の前に居る彼が、生きていろと言うから、とりあえず、彼が生きている間だけは生きていると約束はした。

・・・・これって、背信行為なんだろうな・・・・

 組織にしてみれば、敵に保護されて、ノウノウと生きている俺は、裏切り者ということになるだろう。殺されても仕方がない。死ぬことについては、別に恐怖はない。ただ、彼が残念がるのだろうと思うと、少し迷うぐらいのことだ。
「眠り姫、難しく考えなくていい。きみは、私のために生きている。それだけでいいんだ。・・・それ以外のことは忘れてしまえばいい。」
「残念ながら、それほど都合良く俺の頭は壊れてない。早く俺以外の癒しを確保すればどうなんだ? 」
「きみ以外はいらないな。」
「どこが癒しになるのか、俺には見当もつかないんだけどな。」
「存在していることに意義がある。・・・・くくくくく、そうだな。私にとって、きみに口付ける行為が癒しになっていると言っておこうか。」
「それ以上はできないのにか? 」
「では、手術を受けてくれるか? 眠り姫。そうすれば、その先も付き合うことができる。」
「付き合うって・・俺は誘ってるわけじゃない。だいたい、あんたが、男は対象外だと言ったんじゃないか。」
「きみはね、私の眠り姫だから、除外なんだ。きみは、性別なんかで判断できる存在ではないからね。」
「やっぱり、その言動は不思議だぞ? 」
「きみにしか言わない。」
 手術を受けようと拒否しようと、手元には爆破コードを打ち込んで起爆できる装置がある。だから、心疾患の治療をしても問題はない。けれど、どこかでひっかかるものがあって、そればかりは頷いたことはなかった。すっかりと、この生活に馴染んでいるが、現実感は、あまりない。

・・・・俺は、どうなるんだろうな・・・・

 記憶が一切ないから、どうしたらいいのか判断できる材料がない。組織に殺されるのか、彼が死んで、自分も終わるのか、それとも、もっと壊れて何もわからなくなるのか、どれひとつ、とっても望むものではないのだが、たぶん、組織に消されるのが、一番正しい幕引きだろうとは思っている。どんなに思い出そうとしても思い出せないが、確かに、あそこにいたのだ。それなら、組織が判断することに従うのが正しい。

・・・でも、そうなると、グラハムは、どうするのかな・・・

 これだけ執心している彼は、悲しんでくれるだろう。たぶん、彼は組織に対して苛烈な報復に出るに違いない。それで、どちらもが滅ぶ結果は、とても胸が痛い。

・・・なぜ、戦うんだ・・・・

 どちらにも言い分があって、それが連鎖していく。和解できる共通点がなければ、それは延々と続くだろう。
「眠り姫、考えるな。」
 考えに沈みこんでいて、ふいに彼に抱き締められた。
「・・・全部、忘れられたら幸せなんだろうな・・・」
「忘れればいい。」
「もう疲れた。眠りたい。」
「仰せのままに。」
 思考がぐるぐると回って、収拾がつかなくなると、大抵、俺は彼に眠りを要求する。目を閉じれば、いつものように唇が合わさって、それから舌が口腔へ侵入する。湿った音がするほどに絡め合うと、唐突に闇がやってくる。

・・・全部、壊れてしまえ・・・

 そうすれば、何も判らなくて、彼に、本当に微笑んでいられるだろう。責任逃避だと罵られても、裏切り者と謗られても、俺にはわからないなら、何も感じなくていい。





 まともな時の眠り姫は憂いを帯びたセルリアンブルーの瞳で遠くを見ていることが多い。心優しい眠り姫は、おそらくは、自分のことではなく、私や彼らのことを案じているのだろう。世界がひとつになれば、その憂いは排除できる。だが、それは容易いことではない。連合となった今でさえ、一枚岩の状態ではないからだ。さらに、彼らは活動している。いつか、表立った動きへと転じてくれば、私たちも戦うことになる。
 どちらも知っている眠り姫は、その事実を受け入れるのは辛いだろう。いっそ、全てを忘れてしまえばいいのだろうが、そう簡単なことではない。
 眠りたいと呟く声が、やけに哀し気で、私の心にも響く。開放してやれれば、眠り姫は楽になる。だが、それもできない。愛しくて、その暖かい空気を知った私は、さらに貪欲になった。奪われることのないように、眠り姫を閉じ込めて独占しておきたいと思うまでになっている。

・・・そんなことはできない相談だ・・・・

 まともでない時は、閉じ込めても眠り姫は何も感じないだろう。だが、まともに戻ったら、その時に眠り姫は、どう感じるか、それを考えるとできなくなる。
・・・きみが全てを思い出したら、私は、きみを憎むことができるだろうか・・・
作品名:ぐらにる 眠り姫6 作家名:篠義