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【イナズマ】マイ・リトル・パッサ

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思い立ったら行動派?そんなとこまで疾風?

「……いやでも、やっぱり最初の質問につながらないんだけどさ」

再度どういうことかと問うと、鬼道は視線を膝上で組んだ指に落としながら、

「……さっきも言ったが、俺はその、そういうことは不得手なんだ」
「……モテそうなのに?」
「手紙やらプレゼントやらは貰っていたが、付き合ったりとかそんなことはしたことがない」

やっぱり風丸と同じタイプか……

「だから、その、こういう場合何をどうすればいいのかがよくわからなくてだな。
風丸は……ああいう奴だから、俺に無理を強いたりしないんだが……
風丸が何を望んでいるのか理解する努力をしないままに現状に甘えているのは……
だから、その、お前と松野はどうだったのかと……」

……うわあ、松野と交換して欲しいな。
さすが風丸。惚れ惚れするほどの格好良さだ。

「うーん……いや、でも、その……多分鬼道が思ってるようなことって人それぞれ……
じゃないのか?俺の話はあんまり参考にならないと思うけど……」
「……それはわかっているんだが……」

しきりに指先を組み替えている鬼道に、なんだかこちらまで気恥ずかしくなってくる。
大体、俺自身、松野とそんなことを意識しているわけじゃない。
……あっちが押せ押せってこともあるけど。
恋人って関係に、決まりやマニュアルがあるわけじゃない……と思う。
いつ手をつないで、キスして、それから、なんてこと。
鬼道もその辺りは分かってるんだろうけど、まったく踏み込んだことのない場所に
気がついたら引きずり出されてたって戸惑いなら、俺にも分かる。
何か、指針が欲しくなる気持ち。

「あー……その、多分あれだよ。パスと同じでさ、こういうのって」

突然何を言い出すのか、と鬼道が顔を上げる。
目があったら恥ずかしさに逃げ出してしまいそうで、
視線はフェンスの向こう、眩しいくらいの青に固定する。

「ボールだけ見て蹴っても相手に届かないのと同じでさ、
相手を見て、調子を合わせるのが一番大事なんじゃないの?
……って、鬼道はこんなこと俺に言われなくても、分かってるだろうけどさ。
俺よりパス出しずっと上手いし。
だから、ええと、この時はこうしなきゃならないって決まりはないだろ?
状況なんてあっという間に変わっていくしさ。
だから、俺の話聞く云々ってよりも、風丸のことちゃんと見て、
自分の気持ちとか、その、タイミングとかを見逃さないようにするのが、
重要なんじゃない、かなあー……って思うんだけど……」

自分でも途中から何を言っているんだかよくわからなくなったけれど、
ちらりと見た鬼道は笑うでもなく、真面目な顔をして、
俺の言葉を反芻しているみたいだった。
ふうーっと、細くて長いため息が隣で聞こえる。

「……そういうものか」
「うん……いや、多分……」
「半田は、そうしてるのか?」
「え!?あ、いや……俺は……そうしたくても松野がさせてくれないっていうか……
あいつが常に剛速球のパスを出してくるから受け止めるのに必死というか辛いというか……」

はあ、とため息をついてうなだれると、小さく笑ったみたいな気配がした。
顔を上げると、鬼道が苦笑するみたいに少しだけ口元を綻ばせている。
ああ、こういう顔もするんだなあ、と思った。
思えば、こんな突っ込んだ話をするのも、そもそもこんなに喋ったのも、
初めてかもしれない。
ふと、湧き出した疑問が、ためらう間もなくするりと唇から零れ落ちた。

「あのさあ……」
「なんだ」
「なんで、俺にこんな話したの?」

鬼道の瞳が、ゴーグルの奥でひらりと瞬くのが見えた。
水の中で、魚が身を翻したような、一瞬の光。

「信用に足ると思ったからに、決まっている」
「……俺が?」
「他の誰にかかる言葉だと思うんだ?」

鬼道の唇がほころぶ。
なんだか、妙に照れくさいような、誇らしいような気分になった。
自分よりも『凄い』と思っている人間に頼られるのは、やっぱり嬉しい。
なんとかして応えたくなってしまう。
多分、鬼道は人をそういう気持ちにさせるのが上手いんだろう。
見るからに癖の多い帝国のメンバーを纏め上げてきたのは伊達じゃないってことだ。

「その、あー……俺に出来ることなら協力するからさ。相談、してくれれば」

でも、但し、人のいないところで。
そう言い置くと真面目な顔で、善処する、と返ってきた。
わかってるのかなあ。わかってないんじゃないか、これ。
くすぐったい気持ちのまま、俺は視線をもう一度フェンスの外に投げる。
綺麗だ。空が丸い。

「なんていうか、うん、上手くいけばいいよな、全部」
「……そうだな」