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2.14の恋人たち

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昼休みになり、廊下は人で溢れていた。今日はいつもよりどこか忙しない。弁当
と一緒に可愛いらしい紙袋を提げて賑やかに話す女子や、手を繋ぎ微笑み合う男
女、目当ての男を見つけてそわそわする女子の集団の中を一人ツキヒコは歩いて
いく。バレンタインデーというだけでこうも盛り上がれるものらしい。この学園
全体が行事好きなのも影響しているかもしれないが、数日前からどことなく空気
がピンク色だ。去年までは関係ないと切り捨てられた。けれど、ピンク色の空気
には毒気でも帯びていたのか、気がついたらツキヒコもふとした瞬間にバレンタ
インに何をしてやろうかと考えてしまっていて、我に返る度に馬鹿だと思うなり
恥ずかしくなっていた。初めは強引で、ずる賢くて、自分のことを可愛いと言っ
てはからかうばかりのギンタのことは嫌いだった。バニシングエージとして一緒
に活動してはいるものの、単に目的がたまたま同じだったから一緒にいるだけで、
こんな境遇にでもなっていなかったら関わりたくなかった。いつだって見下す
ように見られている気がして、気に食わなかった。急に近づいて反応を見ては笑
い、からかわれるのが嫌だったのに、いつの間にかほだされていた。構われてい
るうちに、ギンタの表情が頭の中のフィルムに刻まれて消えなくなっていた。ち
ゃんと言葉に出来ることはほとんどない。本当の気持ちも、好きになった理由も。
上手く言えなくて嫌われるのが一番怖くて、素直になれずにいるものの、互いに
意識するようになってからは二人でいる時間が少し増えた。ただ、バレンタイン
は毎年ギンタもツキヒコも両手で抱えなければいけないくらいにはチョコレート
を貰う。綺麗にラッピングされた箱の山は異様な存在感があって、処理するのは
苦労が伴った。そこに自分までギンタにチョコレートをあげるなんてことはした
くない。でも、少しくらい喜ばせてやってもいいかとは思う。数日ぼんやり考え
て、結局明確な答えは出ていない。何もしなくていいかと自販機に向かいながら
思っていた。今更出来ることなんて限られている。小銭を入れてボタンを押す。
自分の分を買って顔を上げると、ばちんと視線があった。ツキヒコが使った自販
機の隣のものに近づいて小銭を入れる。成分は同じだ。形状が違うだけで。取り
出し口に手を伸ばすと、手のひら越しにじわっと熱が伝わってきて思わず手放し
そうになるところを腕の中で抱え直す。どんな顔をするだろうとか、さりげなさ
すぎて気がつかなかったらどうしようかとか考えながらいつも二人で昼休みを過
ごす非常階段に向かう。一歩一歩足を進めているだけなのに、どれも心なしか足
取りが違う気がする。普段だったら無意識のうちに着いてしまうのに、今日はや
けに長く感じる。ギンタがどんな反応をするか考えているだけで色々な感情が顔
を出しては消えていく。こんなに振り回されるなんて柄にもない。あんなに嫌い
だったのに、振り向いたらすぐ傍に正反対の感情があるなんて、本当に不思議だ
った。







普段なら躊躇わずに回すドアノブが、手が滑ってなかなか回せない。いつもより
待たせてしまったから多少何か言われるかもしれない。一つ深呼吸をして、心を
決めてドアを開けた。途端にびゅうっと冷たい風が吹いてくる。
「あ、ツキヒコ。遅かったじゃん」
パンをかじりながら何かを読んでいたギンタが手を止めて振り向く。視線が合う
と階段すら上手く降りられなくなりそうで、やや斜め下を向きながら階段を降り
る。
「あ、ああ。ちょっと色々、あって」
おぼつかない足取りでギンタのところまで来ると、逃げ出してしまいたいくらい
胸が締まるまま、隣に座った。
「・・・へぇ、もしかして女子に迫られたりとか?」
落ち着く為に自分の飲み物だけを手にして、もう一本を死角になりそうなところ
に隠した。ストローを何とか差して一口飲む。カラカラに渇いていた喉が少し潤
う。
「ち、違えよ。・・・迫られたのはお前の方だろ」
パンを受け取って袋から出すなり、無造作にかぶりついた。パンの調達はギンタ
の担当で、飲み物の調達はツキヒコの担当に、自然となっている。
「いや、迫られるっていうほどではないな。ほら、今年は一年のあの二人がツー
トップなんじゃない?」
ニヤリと笑いつつ、校舎の方を示すように視線を動かす。
「・・・・銀河美少年」
「と、ヘッドがご執心のシンドウ家当主。学園の女子の人気を二分してるような
もんでしょ。タケオはどのくらい持ってくるだろうね」
愉快そうに笑うギンタの横で、自らを銀河美少年と名乗り、タウバーンを巧みに
操るあの少年を思い出すだけで何だか苛々して思わずパンを勢いよく大口で食べ
てしまう。反撃の隙もなく負けてしまった。随分な恥をかかされたことは今でも
勿論根に持っている。もう一度戦いたいのは山々だが、計画外のことをして失敗
した時のリスクは大きいし、何よりサイバディの復元は困難を極める。自分には
ヘッドの指示を仰いで動くことしかできない。それを思い出しては歯痒くなって、
トローをかじるように加えてヤケ飲みした。
「・・・・まあ、負けて悔しいのは分かるけど、多分まだヘッドは切札を持って
るよ。しかもとっておきのが」
まるで実際にヘッドに聞いたかのように話すので、思わず吸いすぎて真ん中がへ
こみすぎたパックから口を離してギンタを見た。たまに誰も知らない間にヘッド
に探りを入れているらしく、バニシングエージの全員に通告していないようなこ
とまで知っていた。頼りにしているのか、それとも駒にしているだけにすぎない
のか、それはよく分からない。ただ、ヘッドの残忍な部分を考えると、知らぬう
ちに彼の策略という闇に呑まれてしまうビジョンが思い浮かんでしまうことがあ
って、不安になった。簡単に呑まれることはないと信じていても、怖い。
「・・・・へえ」
下を向いて、残っているパンをもそもそ食べているツキヒコはどこか不安げな顔
をしている。本人は気がついてないかもしれない。ヘッドの話をするとこうなる
ことがあった。彼なりに自分を心配してくれているのは何となく知っていた。言
葉には出さないが、態度だけでも充分分かる。それが堪らなく嬉しい。
「なに、心配してくれてる?」
ふっと柔らかく笑って、頭をくしゃりと撫でてやる。びくっと肩が揺れて、視線
が合うなり赤くなった。
「っな、なわけねぇだろ!し、してねぇよそんなこと・・・・」
「赤くなっちゃって。・・・可愛いなあ」
パンの袋をツキヒコの手から奪って、背後に捨てると、背に腕を伸ばしてぐっと
引き寄せる。緊張しているのか、鼓動が早い。
「・・・変なこと言うな、バカ」
顔がのぼせたように熱い。ギンタの背におずおず腕を伸ばしたりしなければ収まる
のかもしれないが、そうしたくなってしまうのは酷く心地良かったり酷く苦しくな
ったりする病のせいだ。一生治りそうにない。いや、治らなくていい。
「ん?・・・あ、これもしかして俺の分の飲み物?」
緊張が解けてきて、腕の中でまどろんでいるところをギンタの一声ではっと我に
返った。ここに来た時に色々考え過ぎて渡さないままでいたら、すっかり忘れて
作品名:2.14の恋人たち 作家名:豚なすび