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如月の恋

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最初の一目で恋を感じないなら恋というものはないだろう。
                              by マーロー

2月14日前日…
「…本当に、よろしいんですね」
「うん、頼んだよ」
「……かしこまりました」
 雲雀は頷き、草壁はしっかりとお辞儀をしてその場を去る
 その手には、分厚い書類
(大丈夫なの、だろうか…)
 前代未聞のことが行われようとしている並盛中
 特に、雲雀が風紀委員長として活動し始めてからは一度も例がない、異例のお達し
(…凶と出るか、吉と出るか――)
 一抹の不安を感じつつも、草壁は指示されたことを遂行する為、人気のない廊下をずんずんと歩いていった

 その頃…
「…あっちー!!」
「はひーっ!!ツナさん、大丈夫ですか!?」
「ったく、ホントーにダメツナだな」
「まったくね」
 ある一軒家の台所では賑やかな声が響いていた
「うぅ…どうせ、ダメツナだよ」
「そ、そんなことないですよっ!ほら!!綺麗にできてますしっ!!」
 女子に混じってなにやら作っているのはこの家の沢田綱吉
 ただいま、熱々に焼けたケーキを素手で取り出し、絶賛火傷を冷却中である
 その傍には、ビアンキに抱えられた綱吉の家庭教師リボーンが鼻で笑っていた
「そんなんじゃ、雲雀の嫁にはなれないぞ」
「よ、よ、嫁っ!!!??」
 思わぬ単語に綱吉は慌てる
「はひっ!!花嫁姿のツナさん、見たいですー!」
「オオオレ、男だしっ!それに、嫁、とかっ…!!」
 絶対無い!!ありえないっ!!
 綱吉は全力でリボーンの発言を拒否する
 ちなみに、綱吉は雲雀に片思い中で、綱吉は知らないが、雲雀も綱吉に片思い中
 つまり、お互い好きだと知らない、両片思い
 リボーンはやれやれ、といった風に肩を竦めた
「だが、それは雲雀にやるんだろ?」
「これはっ…その、いつもお世話になっているお礼、とか…え、と…」
 必死で言い訳する綱吉だが、だんだん語尾が消えていき…
「…情けない男ね」
「ほっとけっ!!!」
 ビアンキに哀れみの目を向けられてしまう始末
「そのまま告白の一つでもしてこい」
 まったく、見てらんねぇ
 そう言って、リボーンはビアンキに抱えられて台所を後にする
「…できたらこんなに苦労しないっつうの」
 その背中に、綱吉は小さく小さく悪態を吐いた

*

『沢田綱吉、』
『ひ、ひばりさ、ん…?』
『君は…不思議な子だね』
 応接室で初めて雲雀に出会い、一戦を交えた日から3日後、
 偶々通りかかった綱吉に、雲雀はこう呟いた
 ――ふんわりと、優しい微笑を浮かべて
 きっと本人は無自覚であっただろうが、綱吉にとっては衝撃的だった
 あの雲雀が、微笑んでいる…
 恋に落ちるのに、多くの時間は必要なかった
 …そんな回想をしながら綱吉は朝の道路をてくてく歩く
 鞄には昨日火傷しつつも作った、ケーキの入った箱
(気付いて…もらえるかな)
 カードに込めた自身の気持ち
 不安の方が勝る、けれど、ここで諦めたらもう渡せない気がした
「…大丈夫、だよなっ」
 よし!と自身に言い聞かせ、校門をくぐる
 本当ならここで荷物検査が行われているはずなのだが…
『本日荷物検査中止』
 でかでか貼られていたビラに、綱吉を含めた生徒―特に女子―が色めきたった
(珍しいこともあるもんだなぁ…)
 風紀を重んじる雲雀恭弥にとっては極めて異例な、それ
(でもこれって、結構チャンス?)
 神まで味方してくれた、と綱吉は溢れる笑いを抑えながら応接室へと足を運んだ

*

「…誰にあげるんだろ」
 ポロッと零れた本音に、つい口元を押さえて周囲を確認…誰もいない、当たり前だ
 雲雀は一人、応接室で黙々と仕事をこなしていた
 実際は、ある事に気を向けすぎて、手は動いていなかったけれど
(情けないな…)
 一昨日聞いた、赤ん坊の情報が頭を駆け巡ってどうしようもなかった
『ちゃおっス、雲雀』
『やぁ、赤ん坊。今日はどうかした?』
『一つ、確認してーことがあってな』
『確認?』
『あぁ。明後日のバレンタイン…お前としてはどう動くんだ?』
『どうって…いつもどおり、没収だけど』
『その件なんだが…』
 その時聞いた内容の半分は、もう朧気になってしまった
 確か、その日だけは検査を勘弁してやれ、とかそんな内容だった気がする
 馬鹿馬鹿しい、いくらなんでもこの頼みは聞けない
 そう否定した。否定したはずだった しかし…
『ツナも誰かに渡す気満々で作るらしいからな』
 その部分がやけに強調されて聞こえ、雲雀は思わずペンを落としてしまった
 雲雀の動揺をこの赤ん坊が見逃すわけなかった
 赤ん坊の黒い瞳が光る
『…』
 一瞬の静寂、そして――
『頼んだゾ★』
 赤ん坊は不敵な笑みを浮かべて素早い動きでその場を去っていった
 残されたのは動揺のあまり固まってしまった雲雀、ただ一人
 負けた、完全に赤ん坊の策に嵌った
 雲雀は己の不甲斐なさを心底後悔した

「…はぁ、」
 思い出しては溜め息がまた一つ、
 いっそのこと綱吉を呼び出そうか、それとも自分から出向こうか…
 考えてはその全てを却下する
 だって、もし通りかかった場面が…誰かに綱吉がチョコをあげている場面だったら…
「泣ける…」
 最悪の場合、本当に立ち直れない
 あの、傍若無人・最凶・鬼の子…などと呼ばれ畏れられる風紀委員長が、
 たかだかチョコだけでこうなってしまうとは…なんとも情けなさすぎる
 しかも、気になる相手は同性、あんなかわいい顔をしているが正真正銘、男
 手を打とうと思っても、どうにもしようがない
 雲雀は書類をどかし、頭を机に乗せた
(ただ…見てるだけで良かったのに)
 コロコロと忙しなく表情を変える彼を、遠くから見ているだけで満足だったのに
(いつからこんなに貪欲になったのかな、僕は)
 そっと目を閉じれば、浮かんでくるのはいつだって彼の笑顔…
(…きっと、)
 きっと始めから、彼に出会ったあの日から
 ――恋を自覚したあの時から
「…よし、」
 雲雀は勢いよく顔を上げ、デスクチェアに掛けてあった学ランを手にとる
 うじうじしてても何も始まらない、いつだって自分は思うままに行動してきた
『君は…不思議な子だね』
 そう呟いた自分に、まるで蕾が花を咲かせたような笑みを向けた彼
 自分の思い違いじゃなければ、少なくとも彼だってきっと…
 コンコン、
 軽快なノック音
 どくん、心臓が跳ねる
「…誰」
 薄っぺらい扉の向こうに問いかければ、
「さ、沢田で、すっ…!」
 まさに運命の瞬間
「は、入って…」
 思わぬ来訪者に雲雀の心臓はどくどくと波打つ
 そぉっと覗くように入ってきた綱吉は、照れているのか、少しはにかみながら
 赤いリボンでラッピングされた箱を雲雀に手渡した
「雲雀さんにコレ…渡したくて」
 差し出された箱に――カードに雲雀は釘付けとなる
(だって…これは…)
 箱に挿まれたカードの文字は――「I love you」
「…っ」
 雲雀の顔は真っ赤、それに気付いた綱吉もまた…負けないくらいに顔を真っ赤に染めていた
 お互いが両思いだと知るまで、もう時間は必要ない

【恋は一目惚れ】
作品名:如月の恋 作家名:雪兎