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如月の恋

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真面目に恋をする男は、恋人の前では困惑し、拙劣であり、愛嬌もろくに無いものである。
                                 by カント

 オレの恋人は、
「雲雀さん?」
「………ん」
 少々、感情を顕わにするのが苦手だ

*

 かれこれ10年以上の付き合い
 10年も一緒にいると、その変貌ぶりを実感する
 まずは身長
 10年前は大して差がなかったはずなのに、今では見上げなくては彼の表情を見ることは叶わない
 次に体格
 中学生の時から細身に見えてしっかりとした体だったのに、今では本当に戦闘する男の体つきだ
 しなやかについた筋肉…あまり筋肉がつきにくい体質のオレには羨ましい限り
 あとは…雰囲気
 刺々しさがすっかりなくなり、丸くなった(他の人達は揃って否定するけれど)
 しかも貫禄充分。…どういう人生を歩んできたら貫禄なんかつくのか、謎である
 そんな彼でも変わらないもの、それが
「好きです雲雀さん」
「……ん」
 感情を表に出さない、というか出せないこと
 好きです云々言うのはもっぱらオレで、雲雀さんはそれにただ頷くのみ
 時々抱きついてきたり、と甘えてくるけど本当に、1ヶ月に一度あるかないか
 少し寂しい、というか悲しいけど、気持ちはオレと一緒だしただ単に表現が苦手なだけだと理解しているからそこまで不満じゃない
 それに…雲雀さんに傍にいてほしい時はいつもいてくれるから…不安じゃない

「ねぇ、雲雀さん」
「何?」
 久しぶりの休日に、オレと雲雀さんは風紀財団アジト(in日本)でゆったりとした時間を過ごしていた
「今年のバレンタイン、何が欲しいですか?」
 地下なのに春の陽射しが差す
 ぽかぽかとした温かさが嬉しい
「バレンタインか…」
 雲雀さんはオレの問いに考える素振りを見せる
 ただ腕を組んだだけなのに、これだけで絵になる美しさ
 オレはついつい見惚れてしまった
「綱吉?」
「ん……っなんでしょうか!」
 すぐ目の前に迫った美麗な顔に驚くオレ
 大きな声を出したオレに、雲雀さんは一瞬目を見開いたがすぐに口元を緩めた
「今年は君が欲しい」
「……ぅぇええっ!?」
「正確には君の"時間"かな」
 ふんわりと、それはそれはかなり珍しく微笑んだ雲雀さん
 一気に熱が顔に集まる
 だらしないけれど、口元が緩んだ
 そんなオレに雲雀さんは少し首を傾げる
「綱吉は何かないの」
 自分のした質問が返ってくるとは思わなくて、オレは頭の中を探った
「オレ、ですか?……うーん、ないこともないですけど」
「言ってごらん」
 雲雀さんに言われてオレは悩む
 どうせなら叶えてほしいが、彼には酷かもしれない…
 そう考えたら、口に出すのを躊躇った
「あるんでしょう?」
「で、でも」
「…無理だったら言うから」
 妥協、と言わんばかりで促され、オレはとうとう言った

「雲雀さんにたくさん"好き"って言ってほしい」

 言った後、やっぱり、後悔した
 雲雀さんには難しいと…無理難題だと分かっていたのに
 吐き出す空気が、重い
 言わなきゃ良かった、心に秘めておけば良かった
(でも、)
 本当は、1日くらい言ってほしかった
 いくら不満じゃなくても不安じゃなくても、やっぱり好きな人には言ってほしい台詞で
 それが長年付き合ってきた恋人ならなおさらで
 雲雀さんはしばらく黙っていた
 オレはいたたまれなくて、取り消そうと口を開きかけた
 けれど、
「…っ…」
 不意に抱き寄せられて、雲雀さんの胸に手をつく
 鼓動はいつもよりも速かった
 抱き締める腕の強さは強く、でも優しい
「……好きだよ」
 頭上から落ちてきた言葉に目を丸くする
 今、なんて
「好き、君が一番、好き……愛してる」
 連なって飛び出す言葉はすべて雲雀さんから発せられたもの
 そのどれもがオレの欲しかった言葉
 オレは身体を離して雲雀さんを見上げる
 彼は真剣にオレを見つめていた
「ひばりさ…」
「僕は、いつだって本気で君に恋しているよ。…ただ、なかなか言葉で言えなくてね、」
 10年前から努力はしているんだけど
 そう言った彼の眉間には皺
 …その表情が本当は照れているのだと知っているから、嬉しかった
 本当はずっと、言いたかったのだとも知ることができて…
「…ありがとう、雲雀さん」
「ん」
 慣れないことはするもんではないね、と雲雀さんは赤く染まった顔をオレに見えないよう隠す
 ――その仕草がよりいっそう、オレの心を温かくしたのだった


【不器用な恋人】
作品名:如月の恋 作家名:雪兎