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黒桃ははやくくっつけよ

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お昼ご飯を一緒に食べたり、手を繋いで登下校したり、親に怒られながら長電話したり、そんな交際中の男女なら当たり前の日常に、桃井は憧れる。
(私だって、テツ君といちゃいちゃしたい…。)
屋上のフェンスに背をもたれ弁当をつつきながら、桃井は煩く騒ぐ青峰と黄瀬を睨む。本当は、今日は黒子と二人だけで食べる予定だった。桃井なんて約束した昨日からどきどきしてなかなか眠れなくて、弁当は手作りという気合いの入れようだったのに。
それをどこで嗅ぎ付けたのか、二人で屋上のドアを開けた時にはすでに青峰たちの姿はあり、ようなんて手を振られた日には黒子の前では可愛く装っていた態度をかなぐり捨てるところだった。
しかも促されるままに黒子と桃井が腰をおろすと、黒子の両隣は青峰と黄瀬に奪われる始末だ。
「黒子っち、もっと食べないと駄目っスよ!」
「オレのパンわけてやろうか、テツ?」
「いりません、十分足りてますから。黄瀬君くっつきすぎです、暑苦しい。青峰君肩に肘置いて体重かけないでください、重いし鬱陶しい。」
酷いと騒ぐ二人も黒子は華麗にスルーだ。
(ざまあみろ!っていうか、アンタたち死ねばいい。)
何時も何時もこうだ。お昼の時間も登下校も青峰や黄瀬だけでなくレギュラーの面々にも邪魔をされ、黒子と桃井は付き合っているはずなのに、付き合う前より二人だけの時間が減った気がする。何度冷たくされてもめげずにアタックし、ようやく黒子と彼氏彼女アハハウフフな関係になれたというのに!
朝早く起きて作った、桃井の自信作である弁当を淋しく口に運ぶ。
美味しそうですねそれと弁当を覗く黒子に、食べてみる?とさりげなくはいあーんで食べさせてあげて、お料理上手なお母さんですねって言われたら私が作ったのって言って、そしたらもしかして、お嫁さんに欲しいとか言われたり。
(なんて!なんて!きゃーーー!!…それが、どうしてこうなるのよ!)
散々味見した弁当は美味しく出来たはずなのに、なんだか味気ない。ほとんど中味が減っていないままで、桃井は箸を置いた。俯きがちで黒子の様子をうかがう。黒子は青峰と黄瀬に絡まれ相手をするのを面倒そうにしながらも、至って普段と変わらない。桃井を気にする素振りもない。
(…やっぱり、しょうがなくOKしてくれたのかな。)
もともと交際の始まるきっかけは、桃井の無理矢理みたいなものだ。もちろん、桃井だってあの黒子がしたくもないことを了承するはずがないと、わかってはいる。けれど、自信が持てない。黒子にとって魅力的な女の子に、自分はなれているだろうか。
緩みそうになった涙腺を唇を噛むことでぐっとこらえ、桃井は立ち上がる。
「そろそろ私、教室に戻るね。次、移動教室だから。」
それだけ告げると、桃井は足早にその場を去る。黒子の表情も返事も、今は受け止められそうになかった。
なんだか逃げるように桃井が姿を消し、残された男たちに気まずい沈黙が訪れる。目配せしあう青峰たちに、黒子は溜め息を吐いた。
「キミたちは、小学生ですか…。」
「…はあ?」
空々しい青峰の声を無視し、黒子は立ち上がる。
「ボクももう食べ終わったので、行きます。」
「えっ、黒子っち?!ちょっと待って!オレも、」
「キミは、自分の分をちゃんと食べてからにしてください。」
慌てる黄瀬を適当にいなしながら、黒子は屋上のドアに手をかける。ドアを開けると、首だけで振り返り黒子はこう言った。
「いい加減にしないと、ボクも怒りますよ。」
黒子の感情の読めない眼が細められると奇妙な迫力があり、青峰と黄瀬は口ごもり一歩退いた。それに嘆息した黒子は、今度こそなにも言わず屋上を後にする。





作品名:黒桃ははやくくっつけよ 作家名:六花