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黒桃ははやくくっつけよ

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(…きっと、変に思われたよね。)
桃井はとぼとぼと、廊下を歩いていた。もしかしたら、黒子に嫌な子だと思われたかもしれない。そんなことになったら、耐えられるわけがなかった。
(授業なんてサボっちゃおうかな…。)
そんな風に落ち込んでいると、急に肩を叩かれる。
「きゃっ!」
びくりと身体が飛び上がり、桃井は脈がはやくなった心臓を押さえながら後ろを向いた。そこには、桃井を悩ませる原因の黒子がいた。
「テツ、君。」
「すみません、驚かせたみたいで。」
「あっ、ううん!平気だよ!でも、どうかした?」
なにか桃井に急ぎの用事でもあるのだろうか。黒子のことだから、内容は間違いなくバスケのことだ。桃井はマネージャーとしての頭に切り替え、予定を脳裏に巡らす。
けれどその作業は、黒子によって止められた。
「いえ、用事があったわけではないんです。ただ桃井さんの様子が、おかしかったので。」
少しだけ首を傾げる黒子に、桃井はなんと言うべきか迷う。言いたいことはたくさんあるはずなのに、上手く言葉が見つからない。黒子は静かに、桃井の言葉を待っている。桃井はぐるぐるした頭のままで、勢いに任せて口を開こうとした。
丁度その時、予鈴のチャイムが校内に響き渡る。桃井は言葉を放つタイミングを奪われ、口を開閉させた。
「次、移動教室だって言ってましたよね。」
「う、うん…。」
急がなくては駄目ですねと言う黒子に結局何も伝えられなくて、桃井は重い足を愚鈍に動かそうとした。
すると、急に桃井の手を何かが包んだ。少し冷たいそれは、桃井の手を掴んだまま引っ張る。
「すみません。」
その正体が黒子の手だと、混乱する桃井の頭でもすぐにわかった。桃井は自分の顔に一気に熱が集まるのを、まるで他人事のように感じていた。
けれどそんな冷静さは、黒子のたった一言で崩壊した。
「少し走りましょう、さつきさん。」
小走りで桃井を引っ張りながらわずかに視線を寄越す黒子に、桃井はもう自分は泣いてしまっているのではないかと思った。
(どうしよう。…どうしよう。)
初めて黒子に呼ばれた名前は、聞き慣れた自分のものなのに、知らない響きで桃井の耳に届く。
(好き。好き。どうしようもないくらい、テツ君が、)
教室なんて一生たどり着かなければいいのにと、桃井は黒子の手の中にある自分の手に力を込めた。




作品名:黒桃ははやくくっつけよ 作家名:六花