ばれんたいーん
「あー、終わったぜー」
頭の三角巾と割烹着を取りながら当たり前のように居間へ入っていくプロイセンを横目で見ながら、日本は台所へと向かう。
「緑茶とおまんじゅうでいいですか? プロイセン君」
「おー。マンジュウマンジュウ」
微妙に変な発音の言葉が聞こえたかと思うと続けてカチリという音が続き、おこたの電源が入りましたねと日本は小さく苦笑した。
プロイセンの滞在はまだ数日のはずだが、妙にこちらの生活に慣れたものである。
お盆にお茶セットとおまんじゅうを乗せ居間へ入ると、予想通りにプロイセンがこたつで堕落している。
「コタツー。コタツはいいよなー。絶対神様が人類を堕落させるために作ったに違いないぜー」
「いつから和みスレの住人になったんですか、あなた」
言いながら、急須に茶葉を入れポットのお湯をだーっと注ぐ。少し冷えるので、熱湯でOKの煎茶である。客人相手なら宇治の玉露辺りを用意するものだが、ここまで家に慣れた人に対して客人扱いする必要はまったくないだろう。
「お掃除お疲れ様でした」
湯呑みを出しながら労うと、コタツに乗せた顔がへにゃと緩む。
「おー。働いたぜー」
図体のでかいガイジンが背中を丸めてコタツに入り湯呑みを持つ姿というのは、想像しろと言われても難しいが現実に見ると意外と違和感がないものである。プロイセンがこの家に馴染んだからなのか、単に自分の目が慣れただけなのかは日本には判断がつかなかったが。
「ところでプロイセン君、まだお家には帰らないのですか……ってあつうううううう!!!」
プロイセンの噴き出したお茶をまともに受けて日本がコタツに沈む。
「あ、わり」
「……いえ、こちらも噴き出すレベルに動揺されるとは思わず失礼しました」
手拭で顔ふきつつ日本も頭を下げる。しかし、その言葉の後半はプロイセンの動揺ボイスにかき消される。
「どどどど、動揺なんてしてねえし!」
「はいはい」
「別に忘れられた事なんて気にしてねえよ……。うう、ヴェスト……」
動揺というより生傷に塩を塗ったようです、失礼しましたと日本は心の中で謝っておく。
事の始まりは3日前。
国内行事としては建国記念の日。
要するに日本の誕生日に、かつての枢軸仲間がお祝いに来てくれた事に端を発する。
メンバーとしてはドイツにプロイセン、南北イタリアにオーストリアである。他の欧州勢や亜細亜組も来てくれていたのだが、枢軸組に遠慮したのかお祝いを終えると早々に帰ってしまった。枢軸組も日帰りの予定と聞いていたのだが、なぜかお昼頃からお酒が入り、ドイツ以外の全員のテンションがだだ上がりだったのは確かである。
しかも外は雪。
吹雪といってもよいレベルだったが、何故かイタリア兄弟がナンパに行くと家を飛び出し、それを止めに行ったオーストリアが予想通り道に迷い、帰国時間の迫ったドイツが三人を捕獲し飛行機に乗った時に家に残った兄の存在を思い出したという次第である。
忘れられた兄は一人楽しくコタツでビールを煽っていたらしい。
スーパー○ライウメーと言っている間に置いていかれたらしい。
その日からかつての軍国プロイセンはコタツムリと化している。
「お掃除を手伝ってもらったお礼といってはなんですが、お昼ご飯はお蕎麦を打ちますね」
「おう、楽しみにしてるぜー」
すり寄ってきたぽちくんのおなかをもふもふしながらのプロイセンの返事に、しばらくぽちくんを構ってるようですねと日本は袖の下に入れておいたPSPを取り出し電源を入れる。まだお昼までは時間があるので、一狩り行きますかと装備を考えていた瞬間、ぴんぽーんと玄関のチャイムが鳴り響いた。
「おや、どちら様でしょう」
出てみると宅配便が届いていた。居間に戻るとプロイセンが興味津々と言わんばかりの表情で荷物に視線を送っているので、私の知り合いからですよとコタツに入ってから箱を開ける。
「……そういえば、今日はバレンタインでしたね」
中身は色とりどりのラッピングがされたチョコレートの箱だった。近所の小学生がまとめて送ってくれたらしい。今日は学校の日ですしねと日本が目を細めると、プロイセンの顔が真っ青になっていた。
「……念のため言っておきますが、私の家のバレンタインとそちらのバレンタインは違いますからね」
「……だよなー、いやてっきり日本まで幼女趣味がと」
「”まで”が果てしなく気になりますが、触れずにおきますね」
もわーんと風車が浮かんだような気がしたが、敢えて深く考えないようにした。
「しかし、大変だよなー。本命だの義理だのと」
「ある意味お歳暮的な感覚になっているような気がしますけどね。今では女性同士でも贈りあっているようですよ。友チョコとかいうらしいですが」
「……バレンタインってそういう行事だったか?」
「西洋の方はそっとしておいてくだされば良いと思います」
そう言って日本は遠くを見つめた。
頭の三角巾と割烹着を取りながら当たり前のように居間へ入っていくプロイセンを横目で見ながら、日本は台所へと向かう。
「緑茶とおまんじゅうでいいですか? プロイセン君」
「おー。マンジュウマンジュウ」
微妙に変な発音の言葉が聞こえたかと思うと続けてカチリという音が続き、おこたの電源が入りましたねと日本は小さく苦笑した。
プロイセンの滞在はまだ数日のはずだが、妙にこちらの生活に慣れたものである。
お盆にお茶セットとおまんじゅうを乗せ居間へ入ると、予想通りにプロイセンがこたつで堕落している。
「コタツー。コタツはいいよなー。絶対神様が人類を堕落させるために作ったに違いないぜー」
「いつから和みスレの住人になったんですか、あなた」
言いながら、急須に茶葉を入れポットのお湯をだーっと注ぐ。少し冷えるので、熱湯でOKの煎茶である。客人相手なら宇治の玉露辺りを用意するものだが、ここまで家に慣れた人に対して客人扱いする必要はまったくないだろう。
「お掃除お疲れ様でした」
湯呑みを出しながら労うと、コタツに乗せた顔がへにゃと緩む。
「おー。働いたぜー」
図体のでかいガイジンが背中を丸めてコタツに入り湯呑みを持つ姿というのは、想像しろと言われても難しいが現実に見ると意外と違和感がないものである。プロイセンがこの家に馴染んだからなのか、単に自分の目が慣れただけなのかは日本には判断がつかなかったが。
「ところでプロイセン君、まだお家には帰らないのですか……ってあつうううううう!!!」
プロイセンの噴き出したお茶をまともに受けて日本がコタツに沈む。
「あ、わり」
「……いえ、こちらも噴き出すレベルに動揺されるとは思わず失礼しました」
手拭で顔ふきつつ日本も頭を下げる。しかし、その言葉の後半はプロイセンの動揺ボイスにかき消される。
「どどどど、動揺なんてしてねえし!」
「はいはい」
「別に忘れられた事なんて気にしてねえよ……。うう、ヴェスト……」
動揺というより生傷に塩を塗ったようです、失礼しましたと日本は心の中で謝っておく。
事の始まりは3日前。
国内行事としては建国記念の日。
要するに日本の誕生日に、かつての枢軸仲間がお祝いに来てくれた事に端を発する。
メンバーとしてはドイツにプロイセン、南北イタリアにオーストリアである。他の欧州勢や亜細亜組も来てくれていたのだが、枢軸組に遠慮したのかお祝いを終えると早々に帰ってしまった。枢軸組も日帰りの予定と聞いていたのだが、なぜかお昼頃からお酒が入り、ドイツ以外の全員のテンションがだだ上がりだったのは確かである。
しかも外は雪。
吹雪といってもよいレベルだったが、何故かイタリア兄弟がナンパに行くと家を飛び出し、それを止めに行ったオーストリアが予想通り道に迷い、帰国時間の迫ったドイツが三人を捕獲し飛行機に乗った時に家に残った兄の存在を思い出したという次第である。
忘れられた兄は一人楽しくコタツでビールを煽っていたらしい。
スーパー○ライウメーと言っている間に置いていかれたらしい。
その日からかつての軍国プロイセンはコタツムリと化している。
「お掃除を手伝ってもらったお礼といってはなんですが、お昼ご飯はお蕎麦を打ちますね」
「おう、楽しみにしてるぜー」
すり寄ってきたぽちくんのおなかをもふもふしながらのプロイセンの返事に、しばらくぽちくんを構ってるようですねと日本は袖の下に入れておいたPSPを取り出し電源を入れる。まだお昼までは時間があるので、一狩り行きますかと装備を考えていた瞬間、ぴんぽーんと玄関のチャイムが鳴り響いた。
「おや、どちら様でしょう」
出てみると宅配便が届いていた。居間に戻るとプロイセンが興味津々と言わんばかりの表情で荷物に視線を送っているので、私の知り合いからですよとコタツに入ってから箱を開ける。
「……そういえば、今日はバレンタインでしたね」
中身は色とりどりのラッピングがされたチョコレートの箱だった。近所の小学生がまとめて送ってくれたらしい。今日は学校の日ですしねと日本が目を細めると、プロイセンの顔が真っ青になっていた。
「……念のため言っておきますが、私の家のバレンタインとそちらのバレンタインは違いますからね」
「……だよなー、いやてっきり日本まで幼女趣味がと」
「”まで”が果てしなく気になりますが、触れずにおきますね」
もわーんと風車が浮かんだような気がしたが、敢えて深く考えないようにした。
「しかし、大変だよなー。本命だの義理だのと」
「ある意味お歳暮的な感覚になっているような気がしますけどね。今では女性同士でも贈りあっているようですよ。友チョコとかいうらしいですが」
「……バレンタインってそういう行事だったか?」
「西洋の方はそっとしておいてくだされば良いと思います」
そう言って日本は遠くを見つめた。