二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ぐらにる 眠り姫7

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
病院へ搬送されたという報告があってから、すぐに、検査の報告も逐一、もたらされた。心疾患に関しては、元から判明していたが、脳障害のほうは、三人も聞かされるまでは、かなり緊張した。
「報告によりますと、やはり障害があるそうです。その手術をしてみなければ、記憶が戻るかどうかは判断できかねるそうですから、移動させられるように手配をします。」
 その報告に、三人も安堵した。ここで、障害がない、という判断があれば、その場で処分という指示が出てもおかしくなかったからだ。いくらなんでも、三人で、重傷のロックオンを秘密裏に移送させることは不可能だ。何かしらのバックアップは必要だった。
「発信機等の除去は、手術の後で、速やかに行えるとのことですから、容態が安定したら、移送します。それでよろしいですね? 」
 王留美からの報告に、ティエリアは頷く。王財閥の力があれば、後の手術を行える医師も確保される。そして、ロックオン自身を隠して治療できる場所も、だ。
「承知した。移送について、私達ができることは? 」
「いえ、マイスター様たちのお手を煩わせることはございません。移送場所を、先にお知らせしますので、そちらで待機してください。」
 今のところ、機体がロールアウトしてくるまでは、それほどマイスターも仕事があるわけではない。だから、割と自由に地上を移動している。
「王留美、ロックオンを保護していたのは、グラハム・エーカーだと言ったな。」
 ひとつ、気になることがあって刹那は口を開いた。その人物は、以前の戦いで、刹那と死闘を繰り広げた相手だ。
「はい、そうです。」
「ロックオンがマイスターだと気付いているのか? 」
「おそらくは、気付いているでしょう。ですから、セキュリティーの厳しい病院を選んでいるのだと思われます。私達が、彼を処分する可能性を考えてのことではないかと。」
 だが、ロックオン自身から機密自体は引き出せていないはずだとも答えた。それは、刹那の聞きたいことではない。
「それはわかっている。噂の真相だ。」
「ああ、それは、できなかった、と、申し上げておきましょう。もし、そういうことになっていたら、彼は生きていられなかったはずです。」
「わかった。」
 噂についての報告を読んで、刹那は、かなり焦燥感を感じたのは事実だ。グラハム・エーカーの愛人にされているという噂だけは許せなかった。
「刹那、それは大丈夫だと思うよ。というか、ロックオンは、今、正気じゃないんだ。もし、そうだとしても、それを責めちゃいけない。」
 アレルヤは、刹那の苛立ちに気付いていた。ただ、相手は記憶すらないのだ。どうされていたとしても、それは、ロックオンが望んだことではない。正気でないロックオンに、それを問質しても、わかりはしないのだ。
「刹那・F・セイエイ、そんな下衆の勘ぐりみたいなことはするな。」
「うるさい、確認しただけだ。」
「ティエリア、その言い方は失礼だよ。とりあえず、王留美に任せて、僕らは移動しよう。」
 ロックオンと刹那の関係について、マイスターの残り二人も気付いていた。大切に、壊れ物を扱うように刹那を想っていたロックオンと、そのロックオンに唯一甘えていた刹那の姿は、とても幸せそうで、見ていて心が和んだ。ロックオンが消えてからの刹那の落ち込みは、酷いものだったから、生きているとわかってからの立ち直りもすごかったのだ。
 だからこそ、刹那は、グラハムを憎んでいる。自分の保護者で大切な人だったロックオンを隠したからだ。エクシアを破壊して、ロックオンまで隠した相手は、個人的に殺したいと思った。だが、表立って動くわけにはいかない現状で、今のところは、ロックオンを奪回するだけで止めた。そのうち、再戦することがあるだろう。その時は確実に仕留めるつもりだ。個人的に憎いと思ったのは、今までない。いや、もう一人いたが、それ以上の憎悪を感じた。強い相手だが、負けるつもりはない。自分の許へロックオンは戻ってくる。それが力になるからだ。



 ユニオンの領域ではなく、AEUにある王財閥関係の病院に、搬送されたロックオンは、そこで目を覚ました。まだ、正気ではなくて、刹那を見ても、わからないふうではあった。誰何することもなく、ぼんやりと刹那を見ている。
「思い出したか? 」
「・・・・・」
 答えもない。ただ、ぼんやりと刹那を見て、少し笑った。
「どこにも行くな。」
「・・・・どこにもない・・・・」
 ぽつりと言葉が吐き出された。
「ここにあるっっ。」
「・・・ない・・・」
「俺がいるっっ。」
 叫んだ言葉に、ちょっとセルリアンブルーの瞳は大きくなって、さらに笑顔になった。ふわりと持ち上がった手を刹那は掴む。スナイパーだったロックオンは、仕事道具とも呼べる手を保護していた。だから、あまり素手に触れることはなかった。細く綺麗な手は、ゆっくりと刹那の手を握る。
「・・・いい子・・・」
「ロックオン。」
「・・・泣くな・・・」
「泣いてない。」
「・・・いつか・・・」
「え? 」
「・・・ある・・・」
 まともでないロックオンが紡いでいく言葉はわからない。けれど、自分に対して紡がれているという事実が、刹那を安心させる。もし、記憶が戻らなくても、この温かみが自分の傍にあればいいと思った。それだけで満たされるものがある。



 少し体力を回復させた後に、再度、手術されることになった。かなりの難手術だったが、どうにか、無事に終った。しばらくして、意識を取り戻したロックオンは、刹那に向かって、
「答えは出たのか? 」
 と、尋ねた。爆発に吹き飛ばされたところから、今までの記憶が、今度は抜け落ちてしまったのだ。
当人は、それから二年の歳月が経過しているという事実に、驚いた。





「酷い怪我だったんだ。それで、何度も手術したから、ほとんど意識はなかったんだよ。」
 しばらくして、ロックオンがベッドに座れるように回復してから、アレルヤとティエリアも顔を出した。全てなかったことにしておけばいい、と、ティエリアとアレルヤは嘘をでっち上げた。
「よく生きてたな、俺。」
「悪運があったってことだろ? もうダメかと思ったもの。」
「・・・そうだな。悪運だけは強いのかもな。おまえら、こんなとこで、のんびりしてていいのかよ? あれから、どうなったんだ? 」
「機体がロールアウトするまでは待機だ。そんなことは、退院できてから説明する。」
「ああ、そうか。デュナメスも、ほとんど全壊してたからなあ。ハロは無事だったか? 」
「フェルト・グレイスが預かっている。ロックオン・ストラトス、あなたは、とりあえず回復することを善処しろ。」
「手厳しいねぇーティエリアは。」
 記憶が戻ってからのロックオンは、以前と変わらない陽気なおしゃべりを展開する。三人に向けて、いつものように気遣いつつ、明るい話題を振り向ける。
「もう少ししたら退院して、王留美の別荘に移ることになるからね。」
「もう飽きたんだけどな。アレルヤ、刹那を、今日は連れ出してくれないか? こいつ、ちっとも外へ行かないんだ。たまには気晴らしさせてくれ。」
「気晴らしなんて必要ない。」
作品名:ぐらにる 眠り姫7 作家名:篠義