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ぐらにる 眠り姫7

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 目が覚めてから、刹那は、ずっと看病している。ほとんど、どこにもいかないので、そろそろ、ロックオンも心配だと思ったらしい。だが、刹那のほうは、むっとして睨む。
「そう怒りなさんな、刹那。そろそろ、本が読めそうだから、俺が読めそうな軽い雑誌でも調達してきてくれないか? ついでに花でも買って来い。」
 視線でアレルヤに合図すると、アレルヤが外出を促して、刹那と出て行く。やれやれ、と、息を吐き出してから、ロックオンは真顔になった。
「それで? 」
「何が、『それで?』なのか、わからない。」
「真実は、どういうことだったんだ? ティエリア。おまえさんたち、嘘を吐くのが下手だと認識したほうがいいぞ? そんな不安そうな顔してて、俺が、それを事実だと思えるか? 」
 さすがに、長いこと一緒に組んでいたのだ。それなりに表情も読めるから、嘘をぺらぺらと喋っていることぐらいは、すぐにわかった。
「刹那・F・セイエイに尋ねればいい。」
「無茶いいなさんな。あいつ、すげぇー顔してるんだぞ? よっぽど、なんかあったんだろ? 」
「覚えていないことなど説明する必要はない。」
「・・・ティエリア・・・だから、なんで、そう泣きそうな顔するんだか、俺は聞いてるんだ。何かやらかしたのか? 俺は。」
「卑怯だぞ、ロックオン。僕だったら懐柔できると思ったのか? 」
「まあ、そういうことだな。刹那とアレルヤは、そういう意味では頑固だからな。後は、ティエリアしかいない。おまえさん、俺に借りがあると今でも思っているなら、今、この場で、それを清算しろ。」
「・・くっ・・」
 庇われたことを、ティエリアは気に病んだ。ロックオンとしては、仲間を助けるために動いたのは、ある意味、反射行動みたいなものだったから、気にしていないのだが、それを利用することにした。刹那は無口だが、その瞳は雄弁だ。何かあったらしいとは、ロックオンも気付いた。そうでなければ、自分の背後を殺気立って睨んだりしないだろう。その視線の先に憎悪するものがあるのだ。
「ティエリア、俺は何もわからない。けど、この二年の経過について、アウトラインだけでも知りたいと思う。そうでないと、俺自身、不安でしょうがないんだよ。」
 目が覚めてから、生きてたか、と、思ったが、二年の時間については、さすがに不安になった。いくら酷い怪我だったとしても、二年も意識が戻らないというのは、どう考えてもおかしい。この二年に何があったのか知りたい。そうでなくては、刹那と向き合うことはできないような気がするのだ。
「・・・ユニオンの捕虜になっていた。だが、あなたは脳に障害を起していて、そこにいた期間、ほとんど正気ではなかった。」
 渋々と言った様子で、ティエリアも口を開いた。アウトラインというなら、この程度だろうというぐらいには留めた。
「捕虜? 奪回したのか? 」
 さすがに突飛すぎて、ロックオンも、口数が減った。
「探すのに一年かかった。組織も、かなりのダメージを受けたから、そちらの修復を優先したからだ。」
「でも、バカになってた俺なんか放っておけばよかったんじゃないのか? 」
 機密事項が漏れることがないなら奪回する必要はない。
「正気に戻られたら、機密は漏れる。だから、奪回した。脳に障害があることがわかったから、それを治療させたら、記憶が戻った。それだけだ。」
「じゃあ、なぜ、刹那は、俺の背後を睨むんだ? あれは、殺気だ。」
「あなたを、なかなか取り戻せなくて焦れていたから、ユニオンを憎んでいるのだと思う。」
「ああ、そういうことか。・・・ありがとう、ティエリア。今の話はなしな? 」
「わかっている。僕だって、あなたがいなくなって、どれほど悲しんだかわからない。」
「・・・悪かったよ・・・先走ったことは謝る。けど、どうしても許せなかった。」
 ロックオンの家族を一瞬でなくしたテロリストに復讐するために、組織に入った、と、ロックオン自身が語った。その諸悪の根源ともいえる相手と対峙したら、理性が吹き飛んだのだ。その後の戦闘も、他のマイスターたちのことも、全て置き去りにした。ただ、殺したいと純粋に憎悪した。
「僕も、あなたのことは言えない。死ぬ気だったから・・・やるべきことが終ってから、あなたの許へ逝こうとした。だから、責めるつもりはない。」
「来なくていい。せっかく、人間らしい感情がわかったんだろ? 」
「逝かなくてよかったと、今は思っている。あなたが生きているとわかって、そう思った。」
 メガネの向こうにある瞳が潤んでいる。ティエリアは、かなり泣き虫だな、と、以前も思った。「おいで。」 と、手を広げたら、素直に飛び込んでくる。刹那より精神年齢は低いだろうティエリアは衝撃に弱い。ヴェーダとのリンクが外れてから、余計に脆くなった。それとなくフォローはしていたが、やはり辛いものがあったのだろう。頼れるものがあると、少し人間は落ち着く。その部分を、ロックオンはフォローしていたつもりだった。
「大丈夫だ、ティエリア。まだやれるだろ? 」
「ああ、アレルヤが、あなたがいなくなった部分をフォローしてくれた。」
「・・そうか・・」
「今度は許さない。」
「わかってる。もうやらないよ。」
 あの後に、何があったのか、ロックオンにはわからないが、それでも少しは精神的に強くなっているのだろうとは思う。崩れることもなく、組織にいられたのだから、衝撃をやり過ごす術は、多少なりとも身に着けたらしい。おそらく、アレルヤが自分の代わりにどうにかしたのだろう。
「アレルヤにも、随分と迷惑かけてるんだろうな。」
「あなたの代わりは難しいと愚痴っていた。」
「代わり? くくくくく・・・それは難しいだろうな。」
 アレルヤは優しい性格だが、それでも、自分とは決定的に違う部分がある。刹那もティエリアとも共通しない部分だ。自分には、家族が居て、愛情というものを、十四歳まで存分に与えられていた。それは、他の三人にはなかったことだ。だからこそ、仲間を護りたいと思うのも、三人以上だった。互いに想い合う気持ちがあれば、人は、その相手のために強くなる。それを判って欲しいと願っていた。
「あなたのように、僕たちを守るのは難しい、と。まだ、僕たちには、あなたが必要だった。」
「ありがとう。」
 その気持ちがわかるようになっただけでも、大変な進歩だ。自分がしてきたことは、ちゃんと成果があったことが嬉しい。
 抱き締めて、そのまま話をしていたら、戻ってきた刹那が、ロックオンの肩に齧りついた。さすがに、脳に衝撃を与えるのはよくないとわかっているから殴らなかったらしい。
「この野良猫っっ、言葉を使え。」
 いたたたたっと肩を擦りつつ、刹那の頭を軽く拳骨で叩く。びっくりして唖然としたティエリアも、刹那の恨むような視線に笑い出した。それから、アレルヤはティエリアを椅子に移動させる。
「ロックオン、ティエリアのフォローは僕がするから。」
「はいはい、そっちは頼んだ、アレルヤ。・・・刹那、花は? 」
「ない。おまえなんかに花なんか似合わない。」
「おいおい、俺ぐらい花が似合いそうな男は少ないんだぞ? 」
「うるさいっっ、浮気者っっ。」
作品名:ぐらにる 眠り姫7 作家名:篠義