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こらぼでほすと 留守番5

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年少組が出かけると、やれやれと、八戒が、コーヒーの準備をする。悟浄も、それを手伝っている。
「これで、万事安泰か? 」
「それならいいんですけどね。・・・・すぐに復活しそうで怖いです。」
「一応、肋骨は折ったんだけどな。」
「肋骨ですから、固定したら動けますよ。」
「しばらくは、警戒態勢のままのほうが安全か。まあ、いいけどさ。ここんちで、こういうことすると、スリルがあるからな。」
 薬缶から、カリタにお湯を細い筋で落としている八戒の背後から悟浄が軽く抱き締めてくる。八戒の右肩に顎を乗せて、その動作を静かに眺めている。腕は、もちろん、軽く八戒の腹の辺りで交差している。
「火傷してもしりませんよ、悟浄。」
「そこまで不器用じゃないでしょ? あなた。」
 ポタポタとカリタからコーヒーサーバーへと落ちていく雫を、ふたりして眺めている。普段、ここには鬼畜坊主が居るから、こんなことはできない。やろうものなら、確実にマグナムで狙い撃たれる。
「しかし、懲りませんね? ああいう人種は、消滅させるしか悔い改めないものなんでしょうか? 」
「せつニャン以上の『運命の恋人』に出会えばいいんじゃね? 」
「人の好みなんて、よくわかりませんけど、刹那君以上となると、どういうことになるんでしょうね。」
「追っかけてるのに、共通項目は、少年ってだけなんだよな。でも、ティエリアには目もくれないとくる。俺からしたら、紫の子猫ちゃんのほうが美人だと思うんだが、おまえは、どう?」
「外見なら、僕もティエリア君のほうが綺麗だと思います。でも、『あれ』は、そういうところで見てないってことですね。」
「内面ってヤツか?・・・それなら、俺は、黒子猫のほうが面白いと思うが、付き合ってみないと、そこんとこはわかんねぇーよな? おまえだって、最初は猫被ってたからさ。」
「失礼な。僕は、素のまんまでしたよ。猫被ってたのは、悟浄のほうでしょう。女ったらしだと思ってたら、僕を押し倒しましたからね。」
「・・・それ・・・猫被るっていう形容詞はおかしくないか? だいたい、最初から『好き好き、愛してるー』なんて状況じゃなかったじゃねぇーか。9割方死んでたおまえを拾ったって段階で、それなりの感情があったとは思うけどな。」
 カリタのお湯が少なくなれば、それを継ぎ足す。そうやって、サーバーに二人分のコーヒーが溜まるまでの時間を楽しんだ。過去の出会いについて、どちらも、思うところはある。だが、どちらも、その出会いを喜んだことは同じで、こうやって長い時間、一緒に暮らしている。今更、それを撤回するようなことは起きない。
「俺としては、一目惚れだったかもな。」
「内臓はみ出して死にかけてた僕に? ですか。悟浄も変態かもしれませんねぇ。」
「それ、あなたがおっしゃいますかね? 八戒さん。」
「ああ、その変態に惚れたんだから、僕も変態だとおっしゃりたいんですか?・・・・くくくくくく・・・そういうことでいいですよ。」
 たっぷりと、二人分の黒い液体が溜まった。薬缶を流し台に置いて、八戒が微笑みつつ、振り返る。
「どうでもいいよ。」
「離れてくださらないと、コーヒーが飲めませんよ?」
「はいはい、ご褒美を頂きましょう。」
 するりと腕を解いて、悟浄が離れる。マグカップへコーヒーを入れて差し出したら、「とりあえず、これぐらいは。」 と、軽く掠めるようなキスを八戒にやりつつ、受け取った。
「ロックオンが居ることは覚えていたようで、よかった。」
「いつ起きるかわかんねぇーママニャンに声を聞かせてやるほど、俺は心が広くないだけだ。」
「露出狂タイプの変態でないのが、僕らの共通項ですか。」
「八戒さんのリクエストには忠実に従いますよ、俺は。」
「へぇーそうでしたかね。」
「あら、あなたの瞳がリクエストされるんですが? 」
「それは思い込みです、悟浄。」
 思うままのことをやってて、まだ言いますか? と、八戒は苦笑して、そのまま居間へ歩いて行く。おや、つれないことを、と、悟浄も相槌をうちつつ、それに従う。
 どこであろうと、この夫夫は、いちゃいちゃしていることに変わりはない。



 悟空は、運動クラブの助っ人はやっているが、基本は帰宅部だ。今は、刹那がいるから、寄り道もしないで帰ってくる。
「ただいまぁー」 と、玄関から声をかけたら、「「おかえりぃー」」という刹那でもロックオンでもない声が返ってきた。
「あれ? なんで、ふたり?」
「せつニャンは、キラが連れ出した。ママニャンは、ダウン。で、午前中に、アレルヤとティエリアも合流して、みんなで、変態ストーカーを撃退した。以上。」
「えーーーもう終わったのかよっっ。俺も参加したかったのに。」
「まだ油断はできませんよ、悟空。一応、凹って捨てましたけど、執着はすごい相手ですからね。」
 とりあえず、着替えてください、と、八戒が、おやつの準備をする。ロックオンが昼に用意していたチキンライスをレンジにかける。お昼の一品を、悟空のおやつに当てて、それと、茶菓子あたりを準備しているのだと、八戒は聞いたので、茶菓子も出して、自分たちも、お茶を淹れる。
「ロックオンさん、ダウンって大丈夫なのか? 八戒。」
 普段着に着替えてきた悟空が、おやつに手をつけて尋ねる。
「疲れて電池切れしただけです。そろそろ、起きるんじゃないですか? 」
「なあ、サル、ママニャンの世話はどうだ? 窮屈じゃないか? 」
 今まで、全部、悟空が、この家のことをしていた。さらに、保護者の三蔵の世話もしていたのだから、いきなり、それが世話される側なんかになると、自分のスケジュールで動けなくて、些か不便だろうと、悟浄は言う。
「窮屈じゃないんだけどさ。なんか悪くて・・・全部やってくれて、弁当まで作ってくれるんだぜ? 悟浄。それでさ、靴とかまで洗ってくれて、洗濯物もアイロンかかってやんの。至れり尽くせりでさ。俺、三蔵が帰ってきたら、元に戻れるか心配だ。」
「おまえ、この際だから、三蔵にも家事させたらいいだろ? あんまり甘やかしてると、あいつ、何にもしなくなるぞ。」
 いや、すでに、なんにもしていないですね、と、八戒が容赦なくツッコむ。
「たまに、風呂洗ってくれるぞ。」
「そりゃ自分が入りたいからだろ。」
「今のところ、俺、扶養者だからな。それぐらいはしてやらないとさ。・・・それより、さんぞー、いつ帰ってくるんだか聞いた? 」
「いいや、予定は未定だって言ってたから、結構かかるんじゃねぇーの。事務仕事にキレたら戻ってくんだろ。まあ、二週間ってとこだ。」
「やっぱ、そうだよな。俺がついていけたら、どうにかなったんだけどなあ。次は冬休みとかにしてもらえないかな。」
 いつもなら夏休みに、一時、あちらに戻るのだが、今年は、ごたごたとしていて帰る時期を逸したのだ。ついていく、と、悟空は言ったのだが、学校は休むな、と、三蔵が止めた。この学期まで、内申点の評価に関係するので、休ませなかった。悟空は、学校を卒業したら働く気だが、三蔵は、上への進学を希望している。せっかくだから、学べる場所がある間は、学ばせたいと思っている。それを、悟浄も八戒も知っているから、苦笑する。
作品名:こらぼでほすと 留守番5 作家名:篠義