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悪戯はほどほどに

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 本日、バレンタインデー。学校全体がどことなく浮き足立つ日である。
 朝に妹からチョコを貰い、谷口の朝から放課後にかけてのオーラの推移を観察しつつ、ハルヒ企画SOS団バレンタインデーチョコ探索(詳細はまあ、想像してくれ)が終わった帰路。
 ハルヒの太陽のような笑顔に朝比奈さんの照れたような微笑み、長門の通常通りに無表情を見送り合計4つのチョコを手に家に帰ろうとすると何故かSOS団一のモテ男、古泉一樹が俺の後についてきた。お前の家はこっちじゃないだろ。一体何の用だ。
 家に帰ったらさっそく朝比奈さんのチョコを、と思っていたところに水を差された気分だ。
「いえ……ちょっと、ね」
 歯切れ悪く言葉を濁すとまたそれっきり黙りこくってしまう。いつもの飄々とした態度から考えるに相当珍しい。
「なんなんだ、一体。その紙袋の自慢でもしたいのか」
 古泉の左手には義理か本命かは定かではないがチョコがどっさり入った紙袋が握られていた。どこの少女漫画から抜け出してきたんだお前は。おかげでハルヒが随分と喜んでいた。
「いえいえ、自慢なんてそんな。あなたは涼宮さん達からチョコレートを貰っているではありませんか。それは僕の持つこのチョコと同等か、あるいはそれ以上の価値を持つものだと思いますよ」
「……ハルヒ達からのチョコはお前だって貰ってるだろうが」
 やっぱ自慢か、自慢なのか。
「それはそうですがね。僕の貰ったチョコとあなたが貰ったチョコが全く同じものだとは限らないでしょう?」
「なんじゃそりゃ。ぱっと見中身は同じだったろ。第一ハルヒが中身に差をつけてくるなら間違いなくお前のチョコをグレードアップするだろ」
「そういった意味ではないのですが……」
「ならどういう意味だよ」
 問うても古泉は困ったように笑うだけでまた口を噤んでしまう。相変わらず訳わからん話を喋るのを好む奴だ。
「それに、僕は他の方々からチョコを貰ってもその気持ちに応えることができませんから……」
 しばらく無言で歩いていると唐突に古泉が口を開いた。ハンサム野郎がちょっとアンニュイな表情を浮かべると妙に様になるからやめろ。
「そりゃ、まあ……ハルヒが許さないだろうしな」
 ハルヒの心が狭いと言いたいわけではない。あいつだって古泉に恋人ができたら祝福してくれるだろう。だが、恋人ができる=今まで通りの団活はできないだろう。それはどうしたって不満になる。古泉の役割からして自らそんな事態を招くなんて本末転倒だ。かといって恋人より団活優先なんてしてたらいくら王子様然とした優男でも速攻振られるだろうしな。なんたって放課後土日は悉く団活がある。+古泉曰くアルバイトもあるとなるといつ恋人とすごす時間を作るというのか。
「そうではありません。いえ、確かに涼宮さんのこともあるのですが、そうではなくて」
 そこで言葉を一旦区切ると意を決したように足を止めてこちらを見つめてくる。つられてこちらの足も止まる。伏目がちにこちらを見るその表情は僅かに赤く色づいて見える。初めて見るその様子にドクリと心臓の音が聞こえた気がした。なんだこれ。
「他に心が向く相手がいるのに、期待させるのは酷なことでしょう……?」
 心が向く相手って……こいつにか? いつも涼しげに微笑んでいる様子からは想像もできないが、恥ずかしげに俯く今の様子を見るに本当に……いや、でも待て。何故今俺にそんなことを言うんだ。いくらなんでも唐突すぎる。恋愛相談するならもっと適役がいるだろ。
 何も言えずに黙りこくっている俺を尻目に古泉は紙袋を地面に置いて通学カバンからなにやら取り出した。それは紙袋の中に入ってるものと良く似た綺麗にラッピングされた何か……いや、誤魔化すのはやめよう。チョコレート、なのだろう。妹から貰ったチョコに似た少々歪なそれは店の既製品ではなく誰か素人の手で包装されたのだろう。誰か……誰かって……。
「受け取って貰えませんか……?」
 古泉の手の中のチョコは、間違いなく俺に向かって差し出された。待て。待ってくれ。古泉は俯いていて表情は全く見ることができない。ぷるぷるとチョコを差し出す手が震えているのが痛々しい。
「本気、なのか……?」
 ぽつりと言葉をこぼすと途端に古泉の手の震えが止まる。十秒ほど硬直していると急にがばっと顔を上げる。その顔に見慣れた微笑みはなく、頼りなさそうに眉を下げる表情は正真正銘初めて見る顔だ。古泉一樹らしからぬその表情は確かに俺に体温を上昇させていく。なんで上昇してるかっていやまじでほんと認めたくないのだが。そういうことなのだろうか。今まで古泉をそういう目で見たことはない……つもりだったのだが。しおらしく告白されてころっといっちまうってどんだけ安い男なんだよ俺は。しかも相手は同じ男。よりによって古泉。
「あ、あの……」
 顔を上げた古泉が俺の顔を見て驚いたような、困惑した声をあげる。そりゃそうだ。真っ赤になった俺の顔を見れば答えはわかりきっている。いたたまれない。
「……なっ!?」
 古泉の手からチョコを分捕る。驚きに目を見開く古泉をそのままに振り返ることなく走り出す。逃げるってどんだけ格好悪いんだよ俺。でも勘弁してくれ。俺だってこんなことになるなんて予想すらしてなかったんだ。
「……考えさせてくれ!」
 このまま逃げるのはさすがに古泉に酷いだろうと大声で一言告げる。考えるってこんな反応みせといて今更何を言っているんだと自分でも思う。だがこのまま二人で茨の道を歩むってのも……案外悪くない、か?
 ああもう完全に毒されてる。あんな短時間で一気に坂道転げ落ちたな俺。乱暴に扱ったためちょっと潰れた箱を手に、帰って一番に口にするのは麗しの朝比奈さんお手製チョコではなく今まで何とも思っていたかった(はず)の男から手渡されたこのチョコだと確信めいたものを抱いていた。
作品名:悪戯はほどほどに 作家名:くまさん