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前世を言うなんて可笑しいよ

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「おお、待ちかねたぞ佐助!」
日曜日。
チカちゃんの学校祭から帰ってその日のうち、武田邸に土産を持って行ったら、旦那が諸手を上げて喜んだ。

結局、伊達ちゃんは土曜の午後をチカちゃん製作のワンピースにビーチサンダルで過ごした。
迎えに来た片倉さんは一目見るなり絶句してたけど、意外と伊達ちゃんが女の子の格好を楽しんでいたので、頬を引き攣らせながらもお咎めは無しだった。
夜、ホテルの部屋が一緒だった俺様はチクリと言われたけど、それくらい。
ただし翌日は、不便であってもホテルに車を置いたままバスで学校祭に向かって、俺様たちにずっと付きっ切りだったけど。
特に学校所有の船でクルージングしたときには神経を使っていたけど、それだって無事に終わった。
チカちゃんは高専最後の一年を、その船で世界一周するのだという。
船舶科はそういうカリキュラムなので、他の学科より半年卒業が遅いそうだ。
クルージングが終わった後、チカちゃんの細い髪は殆ど全て立ち上がって潮風で固まってしまっていた。海に出るといつもそうなるんだと苦笑していた。
けどまあ、俺様や伊達ちゃんには、あー昔そっくりになっちゃったーという感想程度のものでしか無かった。
チカちゃんは俺様たちに笑われなかったことを喜んでいたけど、いぶかしんでもいた。
それから、授業で使うのだという教室いっぱいの操船シミュレーションで遊んだり、20種類以上もある縄の結び方トライアルをしたり、外設ステージや屋台を冷やかしたりした。
で、今度こそ日曜正午のロボット操演を初めから最後まで見て、俺様たちはお土産を買いながらの帰途についた。

「それで土産は?」
武田邸の食卓で、旦那が身を乗り出して御開帳を待っている。
「えーと、まずコレが預かってきた、大将のお酒。いい酒蔵を紹介してくれて有難うございました、って伝言つき。なんかたくさん買ってたよ。」
「おお、ご苦労だったな、佐助。」
俺様が瓶を二本渡すと、大将が相好を崩した。
「で、旦那のはこっち。ていうか、俺様びっくりした、本当にあって。」
「うむ、豪勢で素晴らしかろう。」
旦那に買ってきたのは鱒の寿司だ。ただし二段重ね。
それもただ一枚の寿司が二つあるんじゃない、二段を一枚としたヤツだ。
例えるなら、ケーキみたい。二枚重なってる鱒の寿司が一段扱いで笹に包まれている。これは俺様の親にも好評だった。
「他には、佐助?」
「・・・旦那さあ、ホントに入手困難なもんばっかりリストにしないでくれないかな?この鱒の寿司だって残り四つのところを俺様たちが買い占めて来たんだからね?!他のは売り切れ!あと、目的地より先にある場所のお土産なんて買えません!!」
言い切ると旦那は目に見えて悄然とした。
いい歳して子供みたいにしょげないで欲しい。
「・・・まったく俺様も甘いよね。はい、石川県の最中。お吸い物のやつだからお寿司と一緒につけてね。」
ころん、と俺様はビニール個装された丸い最中をテーブルに広げた。
お椀に入れてお湯を注げば最中が溶け、中から具が出汁と一緒に広がるやつだ。善哉でもある有名なタイプで、これはホテルで売っていた。
「うむ、礼を言う。」
やっとにんまり笑った旦那は、それでも口を尖らせて甘味が無いとぼやく。
そんな我侭には付き合いきれません、と俺様はそっぽを向いた。
と、旦那が不意に気付いて言った。
「・・・佐助、潮の匂いがする。」
「へ?」
言われて肩口を顔に近づければ、確かにそんな気がした。
「あらら。船に乗ったりしたもんねえ。そもそも学校が海岸にあるし。」
と、苦笑して顔を上げると。
旦那がむっつりと口をへの字に曲げていた。
え?と俺様は目を瞬いた。
如何にもご機嫌斜めです、という顔をした旦那は、おもむろに鱒の寿司の包装を開き始める。
そして、丸い寿司を包んでいる笹を数枚落とすと、そのまま齧り付いた。
「ええ?!」
切りもせず、寿司の円形をそのままにムシャムシャと勢いよく齧り付いている。
ホールケーキをそのまま齧っているのと同じような構図だ。
頬袋を膨らませ、嚥下よりも早く口に運んでいる。
「え?ちょ、ちょっと旦那?!切らないの?」
動揺を露わにしていると、俺様の隣でお館様がくつくつと喉を鳴らして笑っていた。
「これは堪らん!!佐助、湯を沸かしてやれ。」
「へ?」
「吸い物も必要じゃろう。のう、幸村?」
旦那の意図が飲み込めているのだろう大将がそう訊ねれば、旦那は咀嚼しながら頷いた。
俺様はわけが分からないままに薬缶の湯を沸かしながら、最中を入れるお椀とお箸を用意する。
旦那は鱒の寿司を、少し痞えながら一人で完食すると、今度は包装を破ってお椀に二つ、最中を入れた。
「ちょ、旦那、これ、一つずつだって!」
「構わん。湯を注げ。」
「ええっ?!」
「良いから佐助、言うとおりにしてやれ。」
武田の大将がやっぱり笑いながら促すので、濃くなるのになーと俺様は納得しないままにお湯を注ぐ。
ふわりと最中が溶け、とはいえ、濃度の問題もあるのか崩れない最中の殻を旦那が箸で突いて壊す。
中からは色とりどりの麩や葱なんかが、出汁と一緒にお椀に広がる。
「・・・綺麗だな。」
と目で楽しんだのも束の間、旦那は箸を置いて、お椀をそのまま一気飲みした。
俺様は、あんぐり口を開けてそれを見ていた。
ちょっと熱かったのか長い息を吐いて旦那はお椀をテーブルに戻す。
と、また最中を二個、お椀に入れた。
「ちょっと旦那、それ、」
言い差せば、じっと無言で俺様を見上げてくる。
何コレ・・・?
武田の大将はニヤニヤしながら、顎で俺様に湯を注ぐようにまた促す。
釈然としないながらも俺様は湯を注ぐ。
最中は6つ買ってきた。それは即ち、武田邸で起居する人間の数だ。
二人とも、わかってはいるだろう。
けれど旦那は無言で、最前と同じように箸で最中を崩す。と、また一気に飲む。
今度は麩がお湯を含みきる前だったのだろう。がりりと咀嚼する音がした。
で、最後。もう俺様も次の展開はわかっているのだが、お椀に最中が二つ入れられるのを見ながら、
「旦那、それ、武田の大将にあげないの?」
と、言ってやる。
そもそも鱒の寿司だって、武田邸の皆で食べるものだと想定していたのにあの暴挙である。
心持ち冷たい声を出せば、流石に旦那の眉が下がって、武田の大将を見た。
だが大将は、
「構わん、ワシは酒があれば十分じゃ。」
と、どこか慈しむような笑みを浮かべて言った。
旦那はパッと喜色を浮かべて、お椀を見つめる。お湯が注がれるのを待っているのだ。
なんか、お預けが許された子犬みたい、と思っても失礼じゃないだろう。だってそう表現するしかない。
俺様は深ーく溜息を吐きながら、湯を注いだ。
今度は最後だからだろうか、もうゆっくりと、味わうように三口かけて旦那はお吸い物を平らげた。
きちんと合掌をして、お箸をテーブルに置く。
いや、最後だけ行儀よくされてもさあ・・・。
「・・・で?なんなの、一体。」
どうにも意図が分からないでいる俺様が訊けば、旦那は気持ちが上向いたのだろう、少し晴れがましいような顔をして、のたまった。
「佐助の土産は、某のものだ!」
・・・・・・・・俺様は、意味を理解するのに随分と時間をかけた。