深夜隊SSまとめ
『優しく積もる淡い恋』金剛、長門 (金剛→長門→陸奥)
見上げた空から降り注ぐ。
白いベールが、白い羽を落としていく。
手を伸ばす。掴めない。
小さなそれは、風に乗って自分から逃げていった。
さく。さく。さく。
音がする。
規則正しい音、規則正しいリズム。それだけで、もう誰だか分かった。
「こんなところにいたのか」
見下ろす黒い目。
不機嫌な黒い目。
少し視線をずらす。口元の目立つところに、青あざが出来ている。驚いて、けれどその理由が思い当たって、苦笑した。
彼を殴れる存在など、ひとつしかない。
「陸奥にやられたのかい?」
寝転んだままそう告げると、無言で隣に座り込んできた。
図星のようだ。蹴られそうになったので、少しだけ避けるポーズを取る。座り込んで前を睨み付ける、相変わらず苦虫を噛み潰した顔に、再び苦笑した。
「お前の弟が羨ましい」
「なんだい、セキニンテンカかい?」
この堂堂巡りの会話も、もう何度目だろうか。
似たもの同士の意地の張り合い。長門と陸奥は、もうずっと上手くいっていなかった。
その愚痴の矛先は、いつも自分だ。
「ちゃんと話し合ったのかい?」
「聞く耳を持たん」
言葉を瞬時に叩き落とされる。
これと同じことを、3日前陸奥にも言われた。
やれやれとため息を吐く。
同族嫌悪。矛先さえ違わなければ、本当は仲良くできるはずなのに。この二人はいつもこうだ。
「それは長門もだろう?」
自分の言葉に長門が振り向く。
怪訝な目。その目をじっと見る。
「言えばいいじゃないか。陸奥の、生まれた時の話」
出生の話。
人とは違い、自分達のそれは、あまり快い話ではない。
自分達の出生には、いつだって利権とか思惑とか疑惑とか。自分達の考え及ばない別の力が動いている。
期待されて生まれても、期待されるほど綺麗な存在にはなれない。誰しも少なからず、最初から泥にまみれているのだ。自分がそうであるように。
「……知る必要などない」
視線を彷徨わせた後、ぽつりと言葉を漏らした。
一種に白が落ちてくる。濃紺に白。滲んで、紺に消えた。
それが長門の優しさなら、ずいぶん残酷だ。
「そうかい」
それなら、この関係ももう少し続くだろう。
頬に当たる白が冷たい。もう、とうに指先の感覚はなかった。
目を閉じる。身体がゆれる錯覚。まだ、海の上にいるような感覚がした。
「日本の雪はいいね。」
ロンドンには、こんなに綺麗な雪は降らないから。
目を閉じているから分からないけど。確かに、こちらを伺うような長門の視線を感じた。
「なんだか、自分が綺麗になった気がするよ…」
白の綺麗さが。
吸い込む息の冷たさが。
この静けさが。
自分を優しく包み込んでくれる。
異国生まれの、自分をだ。
「…お前はお前だろ、金剛」
それはそうだけど。
目を開けて、小さく言葉を漏らす。
青と黒。金と黒。英国と日本。生まれた時から泥にまみれた自分に、嘘をつかず付き合ってくれたのが長門だった。
彼は誰に対しても同じだけど、それがとても嬉しかったんだ。
彼に付いていこうと思うくらいには。
ひとひらの、白。
まるで羽のように花びらのように。
静かに降り積もっては消えていく。
(……言わないのは、ワシも同じか…)
まるで儚い恋のように。
****
十数年前の、じいちゃんと長門さん。