深夜隊SSまとめ
『眩しすぎるのは太陽じゃなくて』ノラ、ヘル(ノラ→武蔵・ヘル→零)
灼熱の日差し。
夏の青い空。
焼けただれて棄てられた工場跡で、弟とCOKEを飲み交わした。
さっきから、弟はずっと楽しそうに話している。一人で弾丸のように喋り続ける彼に、話半分に相づちを打った。
聞かなくても、話の内容は分かっているのだ。それこそ、もう何千何万と聞いた。
“ゼロ”のことだ。
どうして弟は彼に惹かれるんだろう。
そんなことは、聞くだけ愚問だ。
弟は彼のためだけに。
ただ彼のためだけに。
彼を墜とすためだけに生まれ、いまここに存在し、そしてこれからも彼のためだけに歩いていく。
彼の存在が消えるまで。
ずっとだ。
横顔を盗み見る。
一気飲みしたCOKEが、喉を鳴らした。
「………」
それが何を意味しているのか。
当の本人はまるで分かっていない。責めるつもりはない。自分だって、気付いたのは最近だ。
彼女と離れた。言葉はなかったけど、たぶんそういうことなんだろう
。花を散らして。ありがとうと、さようならをした。
そうしたら、唐突に理解した。
生まれた国という、自分と彼女の唯一の違い。ただひとつの違い。それでも惹かれ逢えたこと。分かりあえたこと。出逢ってはいけなかったこと。その結末。この戦いの、矛盾。
目から鱗が落ちるみたいに、世界が違って見えた。
まるで夢から醒めたように。
「ゼロに、絶対負けを認めさせてやるんだ!」
弟が、声高らかに宣言する。
くりかえし。いつも同じ言葉。
「そしたら、アイツも俺に惚れ直すだろ?」
楽しそうに語る。
くりかえし。訪れると思っている明日。
「オレが勝って、ステイツが勝ったら。ゼロとジャパンを遊び倒そうって思ってんだ」
その矛盾。
「………」
信じて疑わない。その矛盾。
それは兵器と呼ばれる、自分達の存在の矛盾だ。
空を見上げた。
目が眩むくらい、眩しい太陽。
遥か彼方の島国を象徴するものだ。
「……お前は、ステイツの。ゼロはジャパンの戦闘機だ」
それだけ忘れんなよ?
そう言ったら、「当たり前じゃん」と返された。
何言ってんの、兄貴?と、相変わらずの人を小馬鹿にした態度。けれどそれすらも、歯痒くて悲しい。
海を挟んで、星は太陽を追い駆けけた。空を挟んで、星は太陽を追い翔けた。僕らは恋を追い懸けた。手に入らないから、ずっとずっと追い掛けた。
すこしくらいは。太陽も、星を追い架けてくれるんだろうか?
微笑みかけてくれた彼女。
交わした言葉、約束。それが嘘だとは思いたくなかった。
自分の身勝手な片思いでも。自分の浅はかな片思いでも。
それでも。
少しくらいは、好きでいてくれたんだろうか。
もう。彼女の言葉を聞くことはできない。
涙が出そうになって、空を見上げてごまかした。
弟は相変わらず、自分自身ととゼロの話をしている。彼女と出会った頃の、自分のように。
目を細める。
眩しすぎるのは太陽じゃなくて。
もう手に入らない。
幸せだった頃の思い出だ。
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いちばん輝けるのは、恋をしている時かもしれない。