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その冬

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あれを纏って、曙光の中、自室に帰るのか…。
気恥ずかしさにさらに顔に血が上るのを感じた。
「身体は、なんともないでござるか?」
遠慮がちに剣心が尋ねた。
なんとなく下腹が痛い気がしたが、大丈夫、とだけ答えた。
そうでござるか、と、剣心は静かに呟いた。
そっと襖を開けて、
「拙者は先に台所に参るゆえ、ゆっくりと身支度するでござるよ。」
そう言い残し、剣心はそっと廊下に消えていった。
(着替え、と、夜具…。)
そこで初めて、薫は己の全身に紅い花が咲いていることに気がついた。
剣心の、愛撫の痕。
昨夜の己の痴態を思い出す。
見れば、夜具は破瓜の証で染まっていた。
勿論、はずかしい。
だがその一方で、己と剣心がひとつになったことへの満ち足りた感覚があった。
私は、剣心に抱かれたのだ。
涙が、こぼれた。


「ご馳走様でした。」
「お粗末様でした。」
朝餉を終えて、薫が席を立とうとするのを剣心が引き止めた。
「薫殿。」
「なあに、剣心。」
振り返ると、剣心は真剣な瞳で薫を見上げていた。
座って、と、促されるままに薫が座る。
剣心は居住まいを正した。
「本当は…。
本当は、こういうことになる前に申すべきだったと思う。
でも、拙者はなかなか踏み切れなかった。
薫殿に、人斬り抜刀斎と言われた男とともに歩む人生を迫ることは、
本当に許されることなのか。
自信もなかった。」
ごくり、と、薫はつばを飲んだ。
剣心が何を言わんとしているのか、もう察しがついた。
同時に、薫の頬に血が上っていく。
「でも、薫殿は応えてくれた。
だから拙者ももう迷わない。
薫殿。」
一呼吸分だけ間をおいて、剣心ははっきりと言った。
「拙者の妻に、なってほしい。」
沈黙が続いた。
薫の答えはすでに決まっている。
だが、胸が詰まって、なかなか答えられない。
それでも、溢れそうになる涙を堪え、薫は深々と頭を下げた。
「…よろしくお願い申し上げます。」
顔を上げた薫は微笑んでいたが、目に涙を溜めていた。
その瞳を剣心は澄んだ瞳でみつめたまま、そっと薫に手を伸ばす。
薫の肩を抱いて、剣心は耳元にささやいた。
「ありがとう、薫殿。」
暫くの間、2人はそのまま動かなかった。

祝言を挙げることは剣心の口から弥彦に伝えた。
弥彦ははじめこそ驚いた表情を見せたものの、口にした感想は簡潔だった。
「おめでとう。剣心、薫。」
「ありがとうでござるよ。」
「恵や葵屋の連中にも伝えるんだろ?久しぶりに皆で集まれそうだな。」
「そうでござるな。」
弥彦との会話が一段落すると剣心は母屋のほうへ戻っていった。
道場に残された薫を弥彦はにやにや顔でからかった。
「俺が出て行ってから2ヶ月もかかったなー。
ったく、さっさとくっついちまえばいいものを。
で、どっちから求婚したんだ?」
「け、剣心からよ。」
へえ、と、なおも弥彦は薫をつつく。
「なんでいきなりそんな話になったんだ?
2ヶ月、何にもなかったのに?
お前、やっぱり夜這いかけたのか?」
かっと薫の頬が朱に染まった。
「何言ってるのよ!」
同時に飛んできた拳を弥彦はひらりとかわした。
「じゃあ剣心からお前に手を出したのかよ。
何かあったのは確かなんだろ?」
「もう、いい加減にしなさい!弥彦!」
顔を真っ赤にして本気で薫が激高しかけたので、はいはい、と、弥彦は口を閉じた。
今日も薫はさらしに道着姿だが、鎖骨のあたりなど、何箇所かが
うっすら紅く染まっているのを弥彦は見逃さなかった。
最近はまともな暮らしをしているとはいえ、
スリをしながらいろいろな人間を見てきた弥彦のこと、
昨夜何があったのかを弥彦はそれだけで察することができた。
2人が遠からず祝言を挙げる。
そのうちには新しい命も授かることだろう。
薫が母になると思うとちょっとぞっとしないでもないが。
「よし!」
にぎやかになるであろう神谷道場の明日を見据えて、弥彦は稽古に励んだ。

<了>

作品名:その冬 作家名:春田 賀子