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ぐらにる 眠り姫8

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黒いコーヒーにミルククラウンをひとつ。
それは、ゆっくりと広がって黒に融ける。
何度か、ミルククラウンを作ると、
いつのまにか、黒は茶色に変わる。
そんなふうに、ゆっくりと統合していく記憶に気付いたのは、いつだっただろう。


・・・眠り姫・・・・・
・・・私の眠り姫・・・・



あやふやで、はっきりとしない記憶が、ゆっくりと染み出していく。
いつの記憶だかわからないぐらいに、朧気なものだった。
 ただ、何度も呼びかけられる、俺には、有り得ない名前に、少しずつ、それが何である

のかが見えてきた。途切れ途切れで曖昧な場面も、たくさんあるのだが、いくつか鮮明な

ものもあった。
 ひっかかって頭痛を感じた出来事の意味が、ようやくわかった。まるで、パズルのピー

スがあるところへ納まるように、はっきりとして、少しほっとした。

・・・だから、最後までは・・・・

 身体ごと欲しいと言われても、素直に頷けなかったのは、俺には、すでに、その関係を

望む相手があったからだ。そう考えると、意外とまともだったのか、と、苦笑した。
「何を笑っている? 」
 膝に頭を乗せている、その相手が顔の向きを変えた。
「俺は、意外と身持ちが固いなって。」
「ティエリアと抱擁してたくせに。」
「まだ言うか? お子ちゃまの刹那くん。」
「うるさい。」
 ぐいぐいと頭で太腿を押さえるので、痛くて、俺も草地に転がった。
「・・おまえな・・・俺は怪我人なんだって。少しは優しくしろよ。」 
 まだ筋肉のない足は、大した力でなくても痛みを感じる。ずるずると、そのまま、俺の

細くなった胸板に身体を載せた刹那は、じっと、俺の顔を睨んでいる。
「優しくなんかしない。」
「はいはい、厳しくリハビリしてください。」
 真っ青な空が広がっている場所は、となりの人家まで数キロという辺鄙な土地だ。治療

が完全に終わって、身の周りのことが自力でできるようになってから、ここに移動した。

とりあえず体力作りとリハビリを命じられた。ついでに、射撃の勘も、取り戻すようにラ

イフル一式も用意されている。
 ひとりでやろうと思っていたら、刹那がついてきた。たまに、アレルヤとティエリアが

交代しているところを見ると、そろそろ機体がロールアウトするのかもしれない。

 あの頃の俺は、たぶん、本質の部分だけの状態だった。だから、あんな生易しいことを

言えたのだ。何もわからない。記憶もない。ただ、自分という器だけの状態だった。人を

殺してきたテロリストとしての自分に罪を感じていた。生きている価値がないとも思って

いた。それはそうだろう。テロによって家族を奪われた記憶があるからこそ、テロという

行為を憎み、テロや紛争を根絶したいと願うから、マイスターになることを受け入れたの

だ。
 その部分がなくなれば、そうなる。おそらく、のうのうと家族と生きていたら、俺とい

う人間は、とても弱くて優しいだけだったはずだ。
 テロを憎む、そして、そのテロからも憎まれる。その連鎖の中に身を置いたから、今の

俺はある。


・・・だからな、グラハム。あんたが愛しくて止まないと囁いた『眠り姫』は、死んだん

だ。ガンダムマイスターとしてのロックオン・ストラトスが、『眠り姫』の存在を殺した

。・・・・



 大切に、彼独特の護りかたで護っていた『眠り姫』は、何もない何も持たない俺の本質

の部分で、人は、それだけで形成されるものではない。優しくて甘いだけの記憶ではない

が、敵にも情があるのだということは知った。だからといって、殺されるつもりはない。

たぶん、あのフラッグと対峙したら、真剣に殺しあうだろう。そうしなければ、俺は死ぬ

ことになる。グラハムだって、そう思っているだろう。


 優しい思い遣り溢れただけの存在ではいられない。


 それではマイスターとしては失格だ。過去を呑み込んで、さらに、今のテロ行為で血で

汚していくことを受け入れて、なお、願うことがある。第三世代のマイスターが全滅して

も、第四世代が台頭する。そうやって、少しずつ変わっていく世界への布石であることも

受け入れる。
 俺たちだけで、全てが達成されるわけではない。長い時間がかかることだと思う。実際

に、俺たち以前にも第一世代、第二世代のマイスターがいて、この計画は二百年前から着

々と進められていたものだ。それまで、どれだけの人間が、この計画に携わって死んでい

るのか、想像もつかない。


「ロックオン。」
 ぎしぎしと身体を揺らして、刹那が俺の肺を圧迫する。
「・・だから、やめろって。」
「思い出したのか? 」
「ん? どれを? 」
「・・・捕虜だった時だ。あんたは、かなり酷いことをされていた。」
「見たのか? 」
「ああ・・・昏睡して倒れたら、兵士に蹴られていた。・・・それから、あんたを取り戻

そうとしたら、あんたが首に発信機と爆薬をセットされているから、俺たちに、それを教

えて逃した。」
「俺は、その時、おまえらのことを思い出してたのか? 」
「まったく覚えてないと言った。でも、俺たちが捕まるのを心配した。・・・・俺に、『

早く逃げろ』と言ったんだ。バカだろ? 」
 むすっとしたまま刹那は、そう言って、また俺の胸板に顔を埋める。甘える時の刹那の

仕草だ。最初は刹那が最年少だから、その世話役を拝命した。それが、いつのまにやら、

可愛くて仕方がない存在になった。他の誰にも懐かない刹那は、俺にだけ甘えたからだ。
「バカはないだろ? バカになった俺なりに、おまえのことを心配したんだろうよ。・・

・覚えてないけどな。」
 その話は記憶に残っていない。ただ、その後、グラハムに死の世界から強引に連れ戻さ

れたことは覚えている。さんざんに悪態をついて、死にかけた俺の首を絞めたのだ。
「自分の命を賭けてまで、俺を庇うな。他のマイスターだって、そうだ。」
「なんだよ。ティエリア、庇ったの、まだ怒ってるのか? しょうがないだろ? ヴァー

チェだけがシステムエラーで動けなかったんだからさ。」
 おまえが、そうだったしても、俺は庇ってるよ、と、付け足したら、口をへの字にした

まま刹那は顔を寄せてきた。ちゅっと触れるだけのキスをしたら、へにゃりと俺の首筋に

刹那の頭が倒れこむ。
「もうちょっと素直に甘えろ。」
「うるさい。」
 同じように布石になるだろう刹那は、俺よりも八歳も年下で、まだ十代だ。けれど、マ

イスターである限り、そのミッションから外れることはできない。逃がしてやれる力は、

俺にはないし、刹那も、マイスターになることを受け入れた。だから、長生きできるとは

思っていないだろう。
「第二ラウンドが始まるまでに、一度くらいデートでもするか? 」
 少しぐらい楽しい思い出があればいい。俺にとっても刹那にとっても、それぐらいの自

由は許される。
「街をふらふらしてメシを食うだけだろ? 」
「なんなら、お買い物でもしてみるか? 」
「欲しいものがない。」
「愛想がなさすぎる。」
 欲しいものがないというよりも、刹那は欲しいものを知らないが正しい。テロリストの
作品名:ぐらにる 眠り姫8 作家名:篠義