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老婆の手 ほか

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1. 老婆の手

震える老婆の手をぼんやり眺めながら、かけるべき言葉を思う。

恨み言は星の数ほどあった。
呪われた身として生まれてきたこと、一度ならず死にかけたこと、名も与えられず異郷に放り投げられたこと、親らしいことなど何一つくれなかったのに、今更母親面をしてくること。

それらすべてを、どう言ってやろうかと思っていた。そうすればこれまでの苦渋が少しでも晴れる気がしたのだ。

だが今は、疲れて眠る節くれだった老婆に、他人事な感情が浮かぶのみだ。
憎しみはない。哀れな姿で横たわっている女が母だと言われても、路傍で死に瀕した旅人を見かけた際に抱くような、表層ばかりの感情しか浮かばない。ひとの死を喜ぶほど性格は破綻してはいない。だからそれなりの言葉は浮かぶ。ご愁傷ですね、お気の毒に――おおよそ「息子」にはふさわしくないような、他人行儀な言葉が。

今ここで語りかける言葉を探すのに、やはり「女に」かけたい言葉は何も思い浮かばない。愛情を乞う言葉も、再会を喜ぶ言葉も、憎しみの言葉すらも浮かばない。
浅い呼吸を繰り返しながら眠る女を見やりながら、本当に月日はすべてを洗い流すのだと思った。

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いつかのゴルドア宮殿、アムリタ私室にて

作品名:老婆の手 ほか 作家名:とど。