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実数と虚数と王国の物質主義

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その存在を突き止めた時、反吐が出るかと思った。



 その男と実際に顔を合わせるのは3度目である。初対面は幼馴染を見て声をかけてきただけだったが、2度目は同級の女子を助けようとした際に勝手にしゃしゃり出てきて自分に用があると言ってきた。逃走を図っていると現れた池袋最強の自動喧嘩人形と交戦になっていたのでドサクサに紛れて撒いた、喧嘩人形には感謝してもし切れない。そして3度目、今回は下校時刻に校門前で待ち伏せされた。何故か都市伝説までいたが示し合わせてきたわけではないらしい。ならば問題は男の方だ、バイクではない。
 どちらの自分に用があるのかは知れないが、とにもかくにも竜ヶ峰帝人は折原臨也に用などないし、話すことなど更にない。幼馴染に対しても何かやらかしてくれたらしいが、それはそれ、帝人が手を出す問題ではない。しかしあの件だけは赦せない。だから彼が『1』などとは認めてやらない。よって話すことはない。
「今日は黒バイクさんと約束があるので」
 黒バイクが驚いたように帝人を見る。帝人は話を合わせてくれと視線で訴えるも、目が合った感覚はない。噂によると首から上が欠落しているらしいが、ここへ来たということは目的があり、目的があるなら意志がある筈だ。意思の疎通くらいしてみせる。じ、とヘルメットを見つめることしばらく、黒バイクはPDAを取り出して文字を打ち込み始めた。
『そうだ、私が先約だ。お前は帰れ』
良し、通じた、と内心でグ、と拳を握る。しかし
「じゃあ明日にするよ」
その拳を飄々とした顔面に叩きつけたくなった。
「明日も予定があります」
「へえ、いつなら空いてるの」
「当面は時間を割けません」
帰れ帰れ帰れ、叶うことなら土へ還れ、と会ったばかりの人物に対して思うことではない筈のことを思いながら、帝人は臨也を睨みつける。
「仕方ないなあ」
 ニタリ、と反吐が出そうな笑顔。

「いくら払えば話を聞いてくれるかな? キムラヌート」

用があるのはそちらか、と、しかしどちらにしろ変わらなかった結果として、より表情を険しくして帝人は吐き捨てる。

「バチカルと話すことなんてありません」

話についていけない黒バイクを促して、帝人はその場を後にした。





「僕には2つの肩書きがあります」
 噂通りに首のなかった黒バイクこと、セルティ・ストゥルルソンと自身の情報を開示する。
 帝人の肩書きの1つが先程の会話に関する内容だ。彼は聖典に登場する樹の最下位『10』であり、10ではマルクト/王国、10iではキムラヌート/物質主義となる。
「ここで問題なのは10が1のケテル/王冠の『最後の剣』ということなんです」
『……もしかしてその『1』というのが』
「探せば他にもいる筈ですが折原臨也です。1iのバチカル/無神論に偏ってますけど」
アレが王冠だなどと是が非でも認めない、という意思表示だけしておいて帝人はその話を切った。
「さて、貴方の目的の方へ話を戻しましょう。少し待って……」
 部屋のドアの前で帝人は言葉を切る。ドアノブに異変が見られたからだ。連れて来た少女へ事情を説明する間は待っていて貰おうと思ったセルティに助力を願えば、やはりと言うべきか、少女の代わりに見知らぬ男が2人もいた。

 数分後

「僕はここにいた女の子をどこに隠したかと訊いているんです」
 セルティに男共を倒させておいて、帝人は下ろし金でヒタヒタと男の内1人の頬を叩く。既にもう1人は失神させてしまったため、何としても聞き出さなければならない。
「だ、だから! 知らないって、来た時にはもう、いなかったって!」
「なら目的を訊きます、こんなボロ家に強盗だなんてつまらない嘘は要りませんよ?」
「そ、れは……」
「熱したフライパンで顔面潰されたいですか?」
 男が悲鳴を上げる中、その後ろでセルティが生温い視線のようなものを送っていることに、帝人は気付かない振りをし続けた。そして男が帝人の欲しい情報を吐いたところで、いそいそとパソコンの電源を入れる。
「ありがとうございました、僕1人だったらどうなっていたことか」
『その2人が血達磨だったろうな』
礼を言いながら今度はパソコンと携帯電話から欲しい情報を引きずり出し、どうにか意識を保っていた男に言伝を言い渡すと容赦なく窓から放り出す。
「ところで僕のもう1つの肩書きなんですけど」
 パソコンの画面には昨今話題のカラーギャングのサイトが映っていた。