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実数と虚数と王国の物質主義

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 23時

 東急ハンズ前で、対峙していた矢霧波江が何かしらの合図だろう、手を上げる。周囲には波江とその部下以外に1人もいない。故に分かり易い、この場にいる全員を倒せば良いのだから。
「え……?」
 呆けた波江の表情を認識する、視認ではない、現在の帝人に眼球はない。ザザザ、とテレビの砂嵐のように帝人の身体がぶれ、その形容は金属の飾り気のない剣となった。支えるものがない剣はそのまま地面へと傾くが、地面へと着く前にセルティの手が柄を掴んだ。
 ――重いッ!?
 ――質量保存の法則で50kgあります
 ――聞いてないぞ!!
帝人の身体が地面を離れる、無理矢理に振り上げたようだ。それを重力に従って振り下ろせば、地面が砕けた。
 ――これを当てたら死ぬな?
 ――恐らくは
扱いきれない、ということだろう。セルティはすまないと言って柄から手を離し、自らの影で鎌を形成し、特殊警棒を持った男達に挑んでいった。





「やあ、随分な恰好だね、竜ヶ峰帝人君」
 セルティが男達を相手取っている間に、黒いコートの男が現れた。帝人は相手を睨むためだけに人の姿へと戻る。
「たとえデュラハンでも君を扱えなかったね。かなり重そうだったけど、拒絶反応の1種かな? 君もタダでは済まなかったみたいだし」
しかし戻った途端にその口から血が吐き出された。服に、赤がべったりと付着する。
「『1』以外が君を扱うことは出来ない、分かっただろ? 話くらい聞けよ」
咳き込んで、口内に溜まる血糊を吐き捨てて、大きく息をしてから
「嫌です」
拒否する。臨也は特に表情のない笑顔でこちらを見ていた。
「俺さぁ、君に何かした?」
「ええ」
「内容は? 君の親友に何かした、なんてつまらない答えは要らないよ?」

「ダラーズのアカウント、ばら撒いたのは貴方ですよね」

 カラーギャング『ダラーズ』の創始者、それが帝人のもう1つの肩書きだ。その肩書きに関して、帝人には責任感も自尊心も持っている。
「あれは信頼と引き換えに教えていたんです。貴方がどうやって入手したのか知りませんが、信頼もなく誰彼構わずばら撒いたその行為が赦せません。タダより高いものはないと言いますが、それは信頼がとてもとても高価だからです。信頼で買うから高いんです。それを貴方はタダ同然でばら撒いた」
再び咳き込んで血糊を吐く。無理に喋ったせいで余計に苦しくなったが、自業自得だと切り捨てた。
「だから絶対に赦しません」
 波江を追っていたセルティが戻ってくるのが見え、緊張の糸が切れたのか意識が徐々に沈んでいく。

 最後に臨也が何かを言っていたような気がしたが認識出来なかった。