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みっふー♪
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novelistID. 21864
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春嵐ランデヴー

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朝、目覚めると枕元に見覚えのある白い着物姿がちんまり座っていた。
……なるほど夢枕ってやつですね、俺は潔く二度寝の体勢に入った。白い小袖に羽織の先生が布団の上から俺を揺すった。
「起きて下さい、二度寝はダメですよ、」
「……。」
――ウルせー夢だなァ、俺は無視して横を向くとかたく目を瞑った。
「ホラ、何寝たふりしてるんですか、」
先生は容赦なくガクガク人の身体を揺さぶってくる。……まァ知ってますけどね、ああ見えてコレがイガイとこの人頑固で押しが強いんですよーって、先生の手が不意にぴたりと止まった。
(……。)
――やれやれやっと諦めてくれましたか、俺はそろりと寝返りを打った。と。
「起きないと、一緒に寝ちゃうぞ☆」
「!」
目を開けた真ん前に先生のどアップがあった。俺はガバと跳ね起きた。
「――よしよし、」
よく起きられましたね、先生は寝癖で余計エライことになっている俺の天パをいい子いい子してくれた。え、えへへ……☆ ってコラーーーーーーーーーッッッ違うだろーーーーーーっっっ!!!!(ゼェゼェ。)
「……な、何してんスか?」
とりあえず俺はボリボリ頭を掻きながら先生に訊ねた。……ウンそーだ、まだ俺がガッツリ寝ぼけてるだけって可能性もある、まーそーなると起き抜けに一人でブツブツ寝言言ってるアヤシイおっさ……えーい! もういいわ!! え~えワタシはオッサンですよっ立派なおっさん! 三十路絡みの正真正銘れっきとしたオジさんですよぉっとくりゃあ!!
「……相変わらず一人で騒がしいですね」
くすりと笑って先生が言った。……そーいえば、先生の外見はあれから年を取っていない、ように見える。つーコトは俺とタメくらいってことか。
「私も、特に何してるってこともないんですけど」
俺にまじまじ見つめられて、先生は指先を摘んだ小袖の筒口を両腕ともひょいと肩先に掲げてみせた。
「……。」
――こっ、こわい! この人コワイ!! 同じがっつりアラサーのヤローなのになんでそのポーズがこうもしっくり違和感ねぇんスか! だっておかしい! おかしいでしょぉよぉぉぉぉ!!!
「どうかしましたか?」
小首を傾げて先生が俺に訊ねた。やめろォォォォォやめてくれェェェェェ朝っぱらから心臓に悪いからァァァァァ!!!!!
胸を掻き毟って悶えまくる俺の手に、そっと手を重ねて先生が呟いた。
「すみません、何だかひどく混乱させてしまって……」
先生はしゅんと俯いた。
――おひがんシーズンは込むからちょっと早めに出て来ようかなって、私の考えが浅はかでした、今日はこのまま帰ります、
「――先生!」
身を翻しかけた先生の手を、俺はがっしと引き止めて弁解した。
「ち、違います違いますっ、いいです好きなだけ居てくれて、」
「本当ですかっ?!」
顔を覆った小袖の下からパァァって、だから眩しいから! オトナになって歪んじまった俺の心にその真っすぐな笑顔は眩しすぎますからァァァァァ!!!!
「……ところで先生、」
――オホン、俺はひとつ咳払いすると先生の手を放した。先生が少しつまらなそうな(←主観)顔をして俺を見た。そういう切なそうな(主観)顔をされるとヒジョーに言いにくくなるのだが、ここはビシッと言ってやらねばなるまい。俺は意を固めた。
「ソレ、だいぶ身体が透けてんすけど」
「えっ?」
先生が正座した自分の姿勢に目をやった。――ねっ? 見えるでしょ? 畳の目までばっちり透けちゃってんでしょ? こっち出てくるなら出てくるでもうちょっと何とかならなかったんスかねー、……なんつって、(こうして会えただけで)本当はどーでもイイくせに、もっともらしく説教してみる。
「すみません……」
先生がまた髪を揺らしてしゅんと下を向いた。
「……やろうと思えばもうちょっとマットカラー仕様で透けないようにできるんですけど、そうすると余計に霊力使っちゃって、燃費が悪くなっちゃうんです」
「――は?」
要領を得ずに俺は聞き返した。まるで迷子の子猫もさもあらん、憐れみを誘う声で先生は続けた。
「ガス欠起こしてとっとと帰って欲しいなら、頑張って濃くしますけど……」
――そっ、先生の手が無言で俺の膝上に触れた。俺はがっくしうなだれた。カンパイである(二重の意味で)。
「……わかりました。イイです、先生の好きにして下さい……」
「本当に君は優しいですね、」
――にっこり、俺の垂れた頭の上で音を立てて先生が微笑んだ。ああああちっくしょォォォォ!!!! 俺は布団を蹴って立ち上がり、窓のカーテンを一気に引いた。誰の上にも等しく注ぐ朝の光が、部屋中を明るく照らし出す。
「……。」
朝陽にキラキラ透けながら、先生はやっぱりそこに居た。畳の上に正座してちょこんと首を傾げて、俺に向かってひらひら手を振ってみせる。俺はばしばし自分の頬をぶってみた。毛根から束でごっそり天パ引っ張ったり一人鼻フックしてみたり、ついには壁にガンガン頭打ち付けてみたりした。が、流血の滲む視界から先生の姿はついぞ消えることがなかった。
――いよいよホンモノだなこりゃ、俺は半分腹をくくった。腕組みしたままうろうろ落ち着きなく歩き回る俺を見て、先生はニコニコ笑っている。
とりあえず布団を畳む。先生は笑っている。上着を取って振り向く。先生は同じ場所で笑っている。上着を羽織る。時間のムダなのでのでもう振り向かない。俺はそろりと襖を開けた。まずは辺りの様子を窺う。音を絞った居間のテレビはつけっぱなし、ソファの上でふかふかのワン公ベッドにネ申楽のヤツは寝こけてやがった。――まーた一晩中ゲームやってたな、あとでおしりペンペンだぞ、ワン公ごと上からさくっと毛布被せて居間を通り抜ける。先生は……、体質上音を立てずに歩くのは問題なかった。抜き足で二人玄関に辿り着く。細心の注意で表の戸を引いて外へ出る。
――はー、途端、どっと疲れの出た俺に、
「朝食は?」
唐突に先生が訊ねた。ジョーダンじゃない、真顔だ。
「そのへんで朝定やってますよ、」
俺はいくつも看板の出ている通りを指差した。成る程と先生が頷く。人込みが珍しいのか、きょろきょろ辺りを見回しながら後をついてくる先生と適当な店に入る。――一名様ごあんなーい、ダミ声のオヤジが声を張った。
(……。)
そうか、今んトコ俺にしか見えてねーのか、だったら別に家出るときもコソコソすることなかったじゃんなー、俺はガシガシ頭を掻いた。――まーアレだ、何つーの? 先生を身内に引き合わせるのがビミョーにこっぱずかしいというか、……ハズカシイ? 照れくさい? 初めて家にカノジョ連れてきたコーコーセーかオリャ。こやって熱々おしぼりでついでに顔も拭けちゃうくらいツラの皮の厚くなったリアルおっさん世代なのに。
「……体調でも悪いんですか?」
――さっきから顔色が赤くなったり青くなったり変ですよ、向かい合わせの席から俺を覗き込むように先生が言った。違います、俺は首を振っておしぼりを畳むと、開いた品書きを先生の方に向けた。
「いちお二人分頼みます?」
「私はイイです、見てるだけで」
にっこり笑って先生が言った。――そっか、俺は頬を掻いた。
作品名:春嵐ランデヴー 作家名:みっふー♪