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みっふー♪
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春嵐ランデヴー

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……そーだよな、食ったり飲んだり、もういちいちやんなくていいんだよな、この人ほんとそういうところ頓着しなくて参ったモンだったぜ、丼飯にシャケと味噌汁、玉子付き納豆とお新香の朝飯かっ込んで店を出る。週末の人出で中は空いてたから、わりとのんびり食ってたつもりだったけど、時間はまだ十分昼前だった。
「……とりあえず、ヅラんとこでも顔出しますか、」
気乗りはしなかったが、せめてもの仁義で俺は先生に提案した。ま、ほっときゃいーんだろーけど、万が一にもバレたときのこと考えるとあとあとよほどメンドくさい、っつーのもある。
「木圭くんは……会うと怒られそうだし……」
もぞもぞと横を向いて先生が言った。長い髪に表情は隠されている。
「え?」
俺は聞き返した。
「……何やってんすかノンキに化けて出てる場合じゃないでしょーって、君と違ってうまいこと丸め込める自信もないし……」
先生は俯いたままブツブツぼやいていた。
「えっ?」
俺は何かが引っ掛かった。
「……何でもありません、」
先生ははっとしたように、曇りひとつない満面の笑顔を向けると俺に言った。その顔を見ると、俺はもう何も聞けない。……あ? 丸め込まれるってこーゆーコトか?
「それより、君がいつも行っているところへ行きたいです」
まっすぐ顔を上げて先生が言った。
「へっ」
突然のことで俺は面食らった。髪に手を当てて少し考え込む仕草で、思い出したように先生が言った。
「……そーだ、アレは? 確か“きゃばくら”とか言う……」
「!!」
俺は慌てた。この危機的状況を回避するために脳味噌をスペック限界フル回転させた。臨界突破、オーバーワークダウン寸前に閃きの天使が舞い降りる。日頃の行いの賜物である。
「あっ、アレはそのっ、夜しかやってないんでっ、あと事前予約とか結構大変だったりしてッ」
「そうなんですか?」
――なぁんだ、先生は残念そうだった。しかし疑ってはいない様子だ。良かった、センセェが昼キャバ営業のこと知らなくて……。俺はほっと胸を撫で下ろした。

+++++

結局、小春日和の運河沿いのオープンカフェ(先生はマンウォッチングが趣味でもあるらしい)で日に当たりつつ昼過ぎまでだらだら過ごして、映画行くかって話もあったけど先生は見るなら絶対にJホラーだと言って譲らないので折り合いがつかなくて(それぞれ別のモン見るのもなんか違うだろって)、じゃあアレに乗りたいですって、先生が指差したのが近場の遊園地の観覧車だった。
園に入って、少し離れたところを歩いていた先生はときどき風船持って立ち止まった子供に不思議そうに手を差し出されたり、園内で野生している猫に毛を逆立てられたりしていたが、基本的には傍目にゃ俺一人、三十路絡みのオッサンがヤケを起こして黄昏エンタメしてるよーに見えるんだろーなぁ、あーあ、目晦ましにせめてワン公だけでも連れてくりゃよかった、アイツは口かてぇーからな、そりゃ噛まれるとハンパねーけど、死ぬほど甘いチュロスを齧りながら俺はうだうだそんなことを思った。……しかし何故だ、糖分大歓迎のはずなのに、胸がいっぱいで胸焼けしそう、いつもはしょっぱさの方が勝つ味付けの塩キャラメルポップコーンでさえでろでろの甘口に感じられる。
「……マジに乗るんすか」
ポップコーンをまとめて口に放り込みながら、とろとろ動く観覧車を見上げて俺は訊ねた。これぐらいのビミョーな高さのが地味にいちばんコワイ気がする。もっと高けりゃ諦めもつくものの、コレじゃ落ちてもギリ死ねないカンジなんじゃねーのって、
「乗らないんですか?」
逆に先生が聞き返してきた。肩がちょっと笑っていた。
「……。」
――へーへービビリも相変わらずだって言いたいんでしょ、開き直って肩で風切って一人乗り込んだ俺を、扉を閉める係のオッサンが、妙な顔して見送った。
――ゴゥンゴゥン、心許ない音を立てて観覧車が上がっていく。
「ほら海が見えますよ、」
半ばまで来た辺り、先生が向かいの席で窓を覗き込んで言った。
「……ちょっ、」
俺は止めたが、狭い空間で移動しようと先生の足下がもたつく。バランスを崩した身体を受け止めて、顔を上げた先生と目が合う。――つか、何このお約束シチュエーション。
「しますか?」
先生がくすりと目を細めた。俺の頭の中でぐらりと映像が反転した。
「……やめときます」
――後でムナしくなりそーだし、俺は顔を反らした。それ以上、真っすぐ先生を見ていられなかった。
「そうですね」
先生が小さく呟いた。俺の肩に添えた手に瞬間力が入る。そうして膝から降り掛ける途中、頬に微かな感触が触れた。
「……」
俺は先生を見た。悪戯っぽく笑って先生が言った。
「これぐらいならいいでしょう?」
――私がしたかったから、先生は向かいの席に戻った。向き合って座る二人を乗せて、ばりばりポップコーンの音意外、無言の観覧車がゆっくりと下っていく。
一周廻った下界に到着すると、閉園のアナウンスが流れ始めていた。街中の小さな遊園地だから、豪勢な夜のパレードなんかはやってない。
「……なんだかはしゃぎ過ぎでしたね、」
俺の前を行く先生がぽつりと言った。そんなことないですよ、とかなんとか俺も言えば良かったのに。ポップコーンの食いすぎで喉が渇いて声が出ない。そういうことにしておきたい。
「でも、君とでえとしてみたかったんです、」
振り向いて笑った先生の髪が風に舞った。
「――、」
俺は盛大に咳き込んだ。――ちょっ、いいスか、自販機に駆け寄って園内価格のペットボトルがガコンと落ちてきたところでしまったァァァァ! もうあと5メートル、外に出てから買やよかったのに! 確実に50円は損したことを後悔する。先生、俺は小さい男です。
遊園地前の通りから、大通りへ抜ける近道の路地に入ったところで、ファミレスの裏手辺りにどうにも見覚えのある半纏姿の影を見つけた。
「あっ、あの人なんだか叔父上に似ている……」
段ボール抱えてポリバケツ付近を挙動不審のヤツの後ろ姿を指して先生が言った。
「ほらあの、寂しそうな肩のラインが叔父上にそっくり……」
――いかん、先生の表情は一人トリップしてすっかりうっとりポー★状態だ、
「にっ、似てない似てない、正面回ったらゼンゼン別人ですからっ」
――って叔父上のカオ知らねーけどっ、先生の手を引いて急いで場を離れる。早足に道を引っ張られる途中で、
「――妬きましたか、」
くすくす含み笑いで先生が言った。
「はぁ?」
俺は片眉を上げてみせた。
「そんなんでいちいち妬きませんよっ」
「……嘘吐き。」
ぎゅっ、俺に引かれた先生の手に力がこもった。
「……」
足が止まる。俺も強く握り返す。溜め息と一緒に俺は吐き出した。
「俺も大人になったから、これくらいのウソは平気でつくんです、」
作品名:春嵐ランデヴー 作家名:みっふー♪