雨垂れ
「…そうします」
流石にそう言われてしまっては返す言葉もなく、勘違いの恥ずかしさも加えて帝人は毛布を引っ張り上げて顔を埋めた。
しばらくすると、規則的な呼吸と共に毛布に包まった身体がゆっくりと上下し始める。その様子に臨也は眉を開くと起きてから飲むための薬や食事などを準備して、加湿器に水を補充する。
他にも自分に出来ることを全てやり終えて臨也はベッド脇に膝をついて、少しだけ覗く帝人の頭に手を伸ばした。名残惜しむように柔らかにそっと撫で、すぐ傍で小さく囁くように言葉を降らせた。
「君は俺に追いつく必要なんてない。君は人を愛して止まない俺自身を掻っ攫ったんだ」
一瞬、緩やかな起伏が止まる。
「なんてね」
それを一瞥して臨也はテーブルの上に置かれたままになっていた携帯電話を手に取り、まだ湿り気の残るコートを羽織って部屋を後にする。
(全く、自分でも呆れるよ。文句の一つでも言ってやろうと思っていたのにさ)
携帯電話のボタンを押し込む。真っ暗になっていた画面に光が宿った。起動して直ぐさま目に入る何件もの不在着信と受信メールに、紅い瞳を数回瞬かせた。
「人ラブな情報屋さんにも優先順位っていうのがあるんだ」
仕方ないよねえ、と嘯きながら臨也は再びアパートの外へと踏み出す。
重い雪は細い雨に変わっていた。