最高の親友(ライバル)
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ユリ「せいっ!!!!!!!!!」
太陽が顔を出すか出さないかの早朝。
凛とした声が道場内に響く。
繰り出した拳から、汗が飛び散る。
リョウ「お、今日も早いな」
その言葉と同時にそこに姿を現すのは、極限流空手の二代目であり、『無敵の龍』と呼ばれるリョウ・サカザキ。
トレードマークであるオレンジの道着に身を包み、稽古に入る準備は万端。
ユリ「押忍!!お早うございます!!」
リョウ「押忍!!」
『伝説の狼』と『無敵の龍』の壮絶な戦いから二週間。
あの日以来、ユリに変化が見られた。
リョウ「(しかし、何があったんだ?この変わりようは一体?…)」
あの日以来、常にリョウの方が道場に入るのは早かったのがユリの方が早くなった。
あの日以来、稽古の場でもなあなあな態度が目立ったユリが、こうした礼節を重んじるようになってきた。
あの日以来、稽古に取り組む姿勢そのものにより一層の真剣さと凄みが加わるようになった。
リョウ「(きっかけというと…あの戦いくらいしか思い当たらないんだが…なんだろ?分からんな…)」
『伝説の狼』テリー・ボガードとの戦い――――
まさに、『凄まじい』の一言に尽きるものだった。
拳と拳のぶつかり合い。
力と力のぶつかり合い。
小細工も何も存在しない。
まさに、『真っ向勝負』だった。
どちらが勝ってもおかしくないほどの勝負。
テリー曰く、「最後の攻撃を放った時点で俺は意識を失っていたからな~。これは引き分けってことでいいんじゃね?」ということ。
彼ら二人の最高の勝負は、『一応は』引き分けということになっている。
『一応は』というのは――――――
リョウ「(テリーはああ言ったけど、俺自身は俺の負けだと思っている)」
自分に厳しいからだけではない。
最後の一撃のぶつかり合い。
あれは、明らかに自分の方が負けていた。
そして、何より――――――
リョウ「(パワーゲイザー…あれほどの技を三連続で繰り出すなんて真似ができるとは…)」
その秘められた潜在能力の高さ。
タン老師、そしてギース・ハワード、ヴォルフガング・クラウザーまでもが恐怖したほどの。
それを、我が身を以て知ることができた。
あの男は、これからもさらに強くなっていく。
リョウ「(俺も、負けっぱなしではいられないな…)」
あの『伝説の狼』には。
引き分けで終わったからこそ、互いが互いをより大きな壁として。
そして、そのさらに大きくなった壁を乗り越えんがためにより強くなろう。
妹のためにその身を粉にして強くなり続けたかつて。
しかし、今は超えるべき目標がいる。
――――――――自分に戦うことの楽しさを教えてくれたあの男が――――――――
心を痛めながらも取り組み続けてきたかつての頃とは違う。
自らが望み、楽しさと感謝を以て取り組むことが出来る。
その喜びを抱えながら、『無敵の龍』は今よりもさらに強くなる。
ユリ「(お兄ちゃん…ありがとう…)」
そして、妹、ユリはあの日からより目の前の兄に感謝の念を運ぶようになった。
ユリ「(私が弱かった時はずっと護ってくれて…今は何者よりも大きい目標になって私の前に立ちふさがってくれて…)」
かつては自分のために、自分を護るために心を痛めながらも戦い続けてくれた兄。
今では何者よりも大きな目標となって自分を導いてくれる兄。
常に自分のために動いてくれる兄。
そんな兄がいてくれたこと。
そんな兄の妹としてそばにいられること。
その全てが、ユリにはたまらないほどにありがたく、嬉しいこととなっている。
ユリ「(そして、お兄ちゃんに戦うことの楽しさを教えてくれたテリーさんも…)」
妹の自分を免罪符に戦い続けてきた兄が、自分の意思で楽しさと喜びを以て戦うようになったこと。
ようやく、自分のためだけに生きてきた兄が己のためにも生きることができるようになったこと。
そして、そのきっかけとなった『伝説の狼』にも感謝の念は尽きない。
ユリ「(そして、テリーさんは私にも…お兄ちゃんがこんなにも素晴らしい格闘家だってことを教えてくれた…)」
『素質』だけの強さではない。
その力、そして精神、魂までも練り上げ続けた『本物の強さ』。
その『本物の強さ』をずっと磨き続けている兄。
そのことに気づかせてくれたのも、『伝説の狼』。
ユリ「(二人のところまでたどり着くのにどんなにかかるか分からないけど…でも、絶対に届いてみせるから!!)」
今はまだ見ることすらできないその背中。
でも、いつか必ず…。
その想いを胸に、ユリは今日も稽古に励む。
これまで兄がそうしてきたように、己を磨いていく。
その覚悟を以て。
作品名:最高の親友(ライバル) 作家名:ただのものかき