最高の親友(ライバル)
ユリ「な…なんで?…」
なんでそんなに楽しそうに笑えるの?二人とも。
どっちの攻撃も、一歩間違えたら死んでてもおかしくなかったんだよ?
それに…。
ユリ「どうして?…」
大会で見るテリーさん…。
普段から稽古として戦ってるお兄ちゃん…。
どっちも、全然違う。
強さが、別次元みたいに…。
ユリ「…勝てない…私じゃ…」
ユリも大会によく出るようになり、その中で強敵とぶつかり、その強さを磨いている。
しかし、自分の視界に映る二人の姿は、まるで普段とは別物の強さを発揮している。
――――――――自分がまるで成長していないと思わされるほどに――――――――
そう、思ってしまうほどに、あの二人の強さの桁が違う。
一体、何がそこまで違うのか。
ユリには、いくら考えても分からなかった。
テリー「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
リョウ「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
ブン…ガシイッ!!!!
鼻と鼻がぶつかるほどの超接近戦。
常人が見れば一瞬光ったようにしか見えないほどに早い拳がお互いを打ち抜こうとする。
が、どちらももう片方の手でしっかりとその攻撃を受け止めていた。
テリー「(ニヤ…)すげえ…やっぱりアンタはすげえ…その強さ…背筋を貫くほどに感じるぜ…」
リョウ「(ニヤ…)そういうアンタこそ…全身が震えるほどに感じるよ…その強さを…」
もはや狂気にとりつかれているといっても過言ではない。
一歩間違えれば命を失ってもおかしくないこのやりとり。
そんなやりとりの最中、どうして笑えるのだろうか。
リョウ「おおお!!!!」
龍が猛る。
その屈強な左拳が、最短距離でテリーに襲い掛かる。
テリー「ハアッ!!!!」
龍に負けじと狼が吼える。
相手の拳の軌道上に、自らの左拳を繰り出す。
何のためらいもなく。
ズガアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!!!
テリー「ぐおっ!!!!!!!」
リョウ「ぐうっ!!!!!!!」
ザザザザザ…
鉄球で建築物を破壊するかのような轟音が辺り一面に大きく響き渡る。
拳と拳がぶつかりあった反動で二人の距離が離れる。
離れた距離の大きさが、その拳の破壊力を象徴している。
離れた間合いの均等さが、お互いの拳の破壊力が互角だということを象徴している。
テリー「まだまだあ!!!!!!」
リョウ「これからあ!!!!!!」
壮絶な拳のぶつかり合いからすぐに立ち直り、互いに一歩も引く様子すら見せずに向かっていこうとするその姿。
まさに戦いに餓えた戦鬼ともいえる姿。
リョウ「虎砲疾風拳!!!!!!」
一瞬身を引いたかと思うと、そこからの反動で強力な前進力と共に拳を繰り出す。
虎砲疾風拳。
拳による拳撃を得意とするリョウの得意技の一つだ。
それに対し――――――
テリー「Burning(バーニング)!!!!!!」
――――――炎と化した闘気を拳に纏い、それを比類なき前進力で前方に繰り出す。
バーンナックル。
テリーの代名詞でもあり、得意中の得意でもある技。
ゴッ…ヴァガアアアアアアアアアアアアンンンンンンンッ!!!!!!!!!
大地を揺るがす凄まじい轟音が弾ける。
それと同時に――――――
テリー「うわああああああああっ!!!!!!!!!」
リョウ「ぬおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!」
壮絶な拳と拳のぶつかり合いにより、二人の体が大きく吹き飛ぶ。
ドサッ
テリー「ぐっ!!…」
リョウ「うおっ!!…」
今度は着地することすらできず、両者共にその身をその大地に叩きつけられることに。
テリー「(ニヤ…)へへ…すげえよアンタ…以前戦ったときよりもさらに強くなってるじゃねえか…さすが『無敵の龍』だ!!!!!!」
リョウ「(ニヤ…)冗談じゃない…どうしたらそこまで強くなれるんだ…これが…これが『伝説の狼』か!!!!!!!」
上体だけを起こした状態で互いに視線を絡めあう。
自身の想像を遥かに超える強さの相手に体中の細胞が震え上がる。
しかし、闘気も、闘争心も萎えるどころかますます膨れ上がる。
決して引こうとしない闘争心が、この二人の体をさらに激しく動かす。
テリー「おおおおおおおおおおおおおおおおおああああ!!!!!!!!!」
リョウ「ぬああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
ユリ「す、すごい…すごすぎるよ…」
次元が、違う。
大会で見た二人の強さだって勝てる人間がどれだけいるんだ、と言えるほどの強さだったのに。
今の二人は、その強さすら遥かに凌駕している。
ユリ「虎砲疾風拳だって、バーンナックルだって、大会で見たのよりも全然速いし、重い…」
すでに見たことのある技ひとつにしても、その基本性能自体がまるで違う。
どうして。
一体何が、自分とあの二人と違うのか。
ユリ「テリーさんだって、私は上達したって言ってくれたのに…一体何が…」
そこまで口に出して、ふと止まった。
ユリ「『上達した』?…」
その言葉に妙な引っかかりを覚え、思わず復唱する。
思い出せ。
あの二人は、お互いを認める時に…
――――――――『強くなった』――――――――
そう、言っていた。
ユリ「そういえば…『上達した』とは言ってもらえたけど…『強くなった』って言ってもらえてない…」
そう、そこに答えがある。
ユリは、才能(センス)では『無敵の龍』と呼ばれた兄をも遥かに凌ぐものを持っている。
――――――――才能(センス)、では――――――――
そして、極限流の空手家として優秀な指導者に教えを請い、努力を重ねてきた。
だが、その素晴らしいまでの才能が、彼女にあるものを欠落させてしまうことに。
――――――――そう、『基本』という、最も大事なものを――――――――
なまじ人よりも合理的に吸収できてしまうことにより、最も重視すべき『基礎』を固めることがおろそかになってしまっていたのだ。
『基礎』というものは、ただその仕組みを理解しておけばいいというものではない。
『理解している』だけではいざというときには使えない。
『気の遠くなるような反復で体にそれを焼き付ける』ことをして、初めてその『基礎』は、己にとって強力な武器となる。
さらには、『優秀な指導者がいた』こともマイナスに働いた面もある。
『教えてもらうこと』が当然となってしまっている部分があり、自分が分からないことに対しての反応が極端に鈍い面がある。
そして、それが彼女の最も多い負けパターンとなっている。
いくら才能に秀でていても、結局は『見守られた強さ』の域を脱していないのだ。
リョウ、テリーの二人は違った。
リョウは父・タクマと別れてからはその身そしてその命をも賭け、その実戦の中で試行錯誤しながらもたった独りでその重厚な強さを手に入れてきた。
テリーは父・ジェフを失ってからたった独りで己のスタイルを創り上げ、その身その命を賭けた実戦の中でひたすら己の牙を磨いてきた。
――――――――片方は、その大切な存在をその手で護り抜くために――――――――
作品名:最高の親友(ライバル) 作家名:ただのものかき