最高の親友(ライバル)
―――――――――――――――――――――
リョウ「ここなら、何の気兼ねもなくやれるな」
テリー「ああ、あの道場の中だと壊したら後がおっかないからな」
違いない、とリョウは笑う。
二人が選んだのは、街外れの広大な大地。
どのくらいの距離があるのかも気にならなくなる雄雄しい山々を背景とした…。
しかし、後は見渡す限りの地平線。
周囲に物らしい物は何一つなく、まさに『気兼ねなく』戦える舞台となっている。
ユリ「一体、どんなことになるんだろう…」
この二人の戦いを見守る唯一の観客(ギャラリー)となるユリ。
二人の間の空気はもう一触即発の状態。
その部分を中心として放たれる闘気が、この周辺一体を覆いつくさんかのようだ。
テリー「さあ始めようぜ。俺たちの戦い(パーティ)をな!!」
その声がきっかけとなる。
リョウ「いくぞ!!『伝説の狼』!!」
ついにこの世界でもトップクラスとされる二人の戦いの火蓋が、切って落とされた。
二人同時に猛然とダッシュし、間合いを詰めていく。
リョウ「!!?」
その瞬間、テリーはすでに技のモーションに入っていた。
そして、リョウがそう認識した瞬間――――――
テリー「Are you OK(アーユーオーケイ)!?」
――――――背筋に感じた恐怖。
その刹那の瞬間、リョウはその丸太のような腕を固め、防御に全身全霊を傾けた。
幾多の修羅場を潜り抜けてきた男の本能がそうさせた。
そして、その瞬間――――――
ヒュン…ッドゴオオオオオッ!!!!!!!
自分の視界に閃光が煌いたかと思えば、それと同時にガードを固めた腕に衝撃が走る。
寺の釣鐘を突くかのように巨大な力で前方から一点を突かれたかのような。
そのあまりの重さに
リョウ「ぐううううううっ!!!!!!」
ピキイッ!!
踏ん張った足元――――アスファルトの地面――――がヒビ割れる。
しかし、攻撃はまだ終わらない。
この恐ろしい攻撃を放った狼はすでに次の牙を剥いている。
テリー「Buster Wolf(バスターウルフ)!!!!」
ゴッ!!……ドオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!!!!
突き出した腕を構えて大砲を放つかのように強大な闘気を解放し、大爆発させる。
その大地を大きく揺るがすほどの威力に、ガードしたはずのリョウの体が
リョウ「ぐおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」
大地を踏みしめていたはずの足が離れ、まるで投げ捨てられたかのように大きく吹っ飛ぶ。
リョウ「ぐうううううううっ…(タッ…)」
かろうじて着地をすることはできたものの、まともにあの攻撃をガードした腕は…。
リョウ「(な…なんて威力だ…)」
『伝説の狼』の牙の痕が明確に残り、その衝撃による痺れでまともに動かせない。
回復にはもう少し時間を要するだろう。
日常では他愛もないほどの時間だが…。
今この戦闘の最中においては致命傷となるほどの時間になってしまう。
ユリ「な…何?今の?…」
見えなかった。
一体何をしたのか。
それすら分からなかった。
閃光が走ったかと思った瞬間、あの狼の拳は龍の腕に食い込み…。
さらには強大な闘気の大爆発で吹き飛ばしていた。
――――――――大地を大きく揺るがすほどの威力で。――――――――
兄はあの攻撃を前進しながらもガードでしのぐことができた。
自分なら?
おそらく、あの攻撃をまともに食らって何をされたかも分からないうちに負けていただろう。
ユリは、自ずとそう考えていた。
いや、考えざるを得なかった。
リョウ「(これだ…これでこそ『伝説の狼』…俺が戦いたかった相手だ!!)(ニィ…)」
腕の痺れはまだ取れない。
この時に攻め込まれたら成す術などないだろう。
それほどの強さを、目の前のあの男は秘めている。
しかし、何故か笑ってしまう。
怖いと思う理性に反して、本能が楽しいと感じてしまう。
心が、体が、全てが震えるほどに。
テリー「(ニィ…)これくらいで終わるタマじゃねえだろ?行くぜ!!」
そして、それはこの男も同じ。
その楽しさ、喜びを全身で表すかのごとく、目の前の相手に向かって突進していく。
伝説とまで称された強さを、餓えを、むき出しにしながら。
リョウ「(防御に回ったら終わりだ…攻撃だ!!)」
未だ回復に至らない左腕を庇ってしまえばその時点で勝負が決まってしまう。
ならば、前に出るしか、攻めるしかない。
何もしないまま、この最高の時間を終わらせてなるものか。
その想いを、数多の強敵を打ち砕いてきた右の拳に乗せる。
――――――――ありったけの闘気と共に――――――――
テリー「!!(ヤベエ!!)」
無敵とまで称された龍の牙が放たれる。
狼の本能が、敏感に己の危機を感じ取る。
リョウ「一撃――――――」
握り締められた拳から。
溜めを作らんがごとく捻られた全身から。
凄まじいほどの力が発する。
そして、その力を――――――
リョウ「――――――必殺!!!!!!」
目の前まで突進してきた狼に解き放つ。
天地覇王拳。
そう彼自身が名づけた、一撃必殺の拳を。
テリー「くっ!!!!!!!」
武士の居合いのように、閃光のごとき速さの正拳が狼を襲う。
かろうじて、刹那の差で、狼のガードが間に合う。
が――――――
ドゴオオオオオオオオオンッ!!!!!!!!!
テリー「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!」
先ほどやられたことをやり返さんがごとく。
この拳を受けたテリーの体を大きく吹き飛ばす。
ガードされたことなどお構いなしに。
テリー「く…(ザッ…)」
吹き飛ばされた体を護るように、どうにか着地には成功することができた。
しかし、着地はできたが、ガードした腕には――――――
テリー「へっ…相変わらずとんでもねえ威力の拳だな…」
――――――『無敵の龍』が誇る一撃必殺の威力の証が、明確に残っていた。
テリー「まだまだ…これからだぜ。なあ、リョウ!!(ニィ…)」
リョウ「当然だ!!まだまだこれからだぜ、テリー!!(ニィ…)」
お互いが一撃必倒…。
いや、一撃必殺の強さを持っている。
ヘタをすれば死んでもおかしくないほどの。
だが、その片鱗を目の当たりにしても…。
とてつもないほどに強い相手と戦えることに自身の全てが震えるほどの喜びと楽しさを感じてしまう。
ここにいるのは人ではない。
戦うことに餓え、強い者と戦うことしか知らない、ただの二人の修羅が、そこにいた。
作品名:最高の親友(ライバル) 作家名:ただのものかき