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【けいおん!続編!!】 水の螺旋!!! (第一章・衝撃)

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「じゃあ、また明日」
 といって、唯は急いで下宿している寮へと帰っていった。唯の後ろ姿を見ながら、澪が云った。

「唯、最近頑張ってるよなぁ」

 律とムギと梓がそれに続く。

「そうだな。高校の頃は、一番のんびりしてたのに」

「見違えるようだわ」

「あの唯先輩が。でも確かになんとなく雰囲気変わりましたよね」

 憂は、次第に小さくなり、闇へと溶けてゆく姉の姿を見ながら、お姉ちゃん頑張ってるんだなぁ、と感慨にふけっていた。しかしどういうわけか、そこに一抹の不安がよぎったのが、彼女本人にも分かった。


 みんなと別れた唯は、ひとり寮へと急いでいた。帰る前に、コンビニで弁当とペットボトルのお茶を買った。帰ったら、明日『細胞生物学』の講義で提出しなくてはならない課題に取りかかるつもりだ。課題内容は、『細胞間コミュニケーションのしくみについて、A4の用紙2, 3枚でまとめよ』だった。晩ごはんをゆっくり作って食べる余裕などない。帰ったら先ほど買った弁当を食べながら、授業ノートやパソコンとにらめっこの予定だ。

 家まであと数十メートルというところまで来たとき、ふとある男性とすれ違った。その瞬間、唯の胸はズキリと痛くなって、彼女は胸を押さえてその場で立ち止まった。暗がりで、その姿まではよく分からなかったが、どういうわけか、唯の胸には棍棒で強く打たれたような、身体中には電気が走るような衝撃を覚えた。振り返ってみたが、男はこちらを気にする気配もなく、歩き去っていた。

 家に帰った唯は、早速机に座ってノートパソコンをつけ、課題に取りかかろうとした。しかし、どうにも課題の方に集中できず、ぼんやりと別のことに頭がいってしまう。帰り道で見た、あの男性のこと。帰り道にすれ違ったのは、何もあの人だけじゃない。たくさんの人がこの街にはいて、毎日多くの人とすれ違う。今日だって、例外じゃない。それなのに、暗がりでよく姿も見えなかった、見知らぬ男に自分は衝撃を受けたのだろう。

 これに似た衝撃を、15の春にも受けたことがあった。あれは、軽音部の仲間たちと楽器店へギターを見に行った時のこと。そこで彼女は、あるひとつのギターと運命的な出逢いをした。唯はそのギターを『ギー太』と名づけ、今までずっと愛用している。ギー太をひとめ見た時のあの吸い込まれるような感覚、ギー太を手に入れた時のあの胸の高鳴り・躍動感は今でもはっきりと覚えている。今回の衝撃は、その時に感じたときめきと少し似ていた。もっとも、今回はときめきよりも胸を打たれた痛みの方がはるかに強く残っているが。

 ギー太を手に入れてから、彼女はギー太をまるで恋人のように想い、大切にしてきた。今でも、ギー太を変わることなく愛用している。ということは、今回受けた衝撃、これって…。それにしても、なぜ通りすがりの顔も見えなかった人に対して、そんな気持ちになったのだろう。

 などとぼんやり考えていたら、課題は殆ど進まない。ううん、ダメダメ!課題に集中しなきゃ、と唯は課題のキーワードを頭に浮かべてみた。

 細胞間コミュニケーション、レセプター、リガンド、ホルモン、神経伝達物質、パラクリン、オートクリン、セカンドメッセンジャー、cANP、、、

 ギー太、あの男性、もしかして恋…?ダメだ!考えがまた戻っちゃう…。

「今年から、しっかり勉強するって決めたのに。どうしちゃったの、私…?」

 唯は机に突っ伏してしまった。当然、そのままの体勢でいても、課題は進まないし、自分の気持ちに整理もつくはずはなかった。

 ハッと机の上から跳ね起きた。机の上で眠ってしまっていたらしい。自発的に先ほどまで見ていた光景が脳裏に浮かんだ。また印象の強い夢を見てしまっていたのだった。

 ぼんやりと外を見ると、夜はもう明けていた。続いて、パソコンのディスプレイを見る。課題はまだ原稿用紙1枚の半分ぐらいまでしか書けていない。そのままタスクバーの右側に表示されている時刻を見た。午前5時すぎ。この課題は3時間目の授業で提出することになっており、今日の授業は2時間目からだ。今から大急ぎでやれば、朝の授業までには課題を済ませられるだろう。

 唯はそう考えて、立ち上がった。課題をやる前に、外の空気を吸って気分をリフレッシュさせようと思った。唯は玄関から外へ出た。何気に、外の手すりごしに下を見る。ひとりの男性がこちらを見上げていた。その瞬間、唯の胸がドクンと強く打った。目は大きく見開かれ、身体はしばしの間硬直した。昨日の夜に受けた衝撃と同じ。間違いない、あの時の人だ。

 唯はいてもたってもいられなくなり、駆け足で外の階段を下りていった。寮を背に立ち、彼女は男を見た。男は唯のほうをじっと見ていた。手をジャケットのポケットに突っ込み、風に吹かれて立っている男。その目はどんな感情も、邪念や下心さえも映さず、ただじっとこちらを見ている。

 とたんに、彼女の脳裏に、再び先ほど見た夢の光景が蘇ってきた。鼓動は速くなり、息が苦しい。唯は我慢できなくなって、手で胸を押さえて腰を落とした。その体勢で顔を上げると、男は相変わらず同じような体勢・視線でこちらを見ている。目がかすむ。気が遠くなる。今にも倒れそうだ。

 唯はとうとうその場に倒れ込んでしまった。今にも途切れそうな意識の中、足音が聞こえ、男の左足が自分の目の前にきたのが分かった。その刹那、唯のすべての感覚が途切れた。

 その日、唯は大学に現れなかった。