バースデイ
二言三言呟くと、じゃあね、と臨也は行ってしまい、九瑠璃はまた一人ぼっちになる。一体何なのだろうと思っていると、此方に駆けて来る足音が聞こえる。
「クル姉っ……」
そう云う妹の姿を見て、今度はほっとした。無機質な世界から抜け出せたような安心感が其処にはあった。けれど、すぐに其れは瓦解する。舞流の首筋、千切れた翅を広げた蝶のような、紅い手の平の痕、其れを目にして硬直、頬が引き攣った。
噫っ、そうなんだ、そうだったんだっ……。
自分の中に密かに組み込まれ育まれていた何か、其れが生まれ落ちたのだと思うと、九瑠璃は可笑しくて堪らなかった。自分は何てとんだ間違いをしていたのだろうか、自分だけが善く出来ているなんて、そんなのは御都合主義で現実逃避であって、ちゃんちゃら可笑しかった。
ははっ、と乾いた嗤いが口からこぼれる、すると、目からも液体が零れた。
笑ったかと思えば泣きだす九瑠璃に、舞流は驚いたのだろう。わけも分からない儘、「クル姉ごめんね、ごめんね」と謝罪を繰り返した。其れを聞きながら、九瑠璃は兄が去り際に残した言葉を反芻する。
ウェルカムっ! ようこそ此方側へ、そしてハッピーバースデー?
(2011/02/11)